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    強奪解熱剤オードブル

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    七夕の話です(遅刻)
    ドクターの本名を■■■表記してます
    ほんのり炎博

    星になりたい ロドス艦内、執務室。
     液晶画面を見つめるドクターは、時折机の上に積み上げた書類やファイルとにらめっこしながら、本日の業務を進めていた。秘書であるエンカクもまた、ソファに腰掛け書類の山を捌いている。黙々と仕事に打ち込む、何ら変わらないいつもの光景。沈黙を破ったのは、あっ、というドクターの気の抜けた声だった。
    「思い出した、これを書いてもらおうと思っていたんだ」
     ドクターは引き出しを漁ると、細長いカラフルな紙を取り出した。好きな色を選んで、とエンカクに紙を数枚見せると、彼は渋々白色の紙を手に取った。
    「何だこれは」
    「短冊って言うんだって。極東には、この短冊に願いことを書いて笹に飾る、七夕という風習があるんだと。短冊に書いた願いことを、星が叶えてくれるそうだ。療養中の子供たちに向けたものだったんだけど、オペレーターたちも興味を持ったみたいで、ならロドス全体で行おうとなったわけだ。君も短冊に願いことを書いてくれ」
    「はっ、この紙切れが願いを叶えてくれるとでも? 願いは自らの力で叶えてこそ意味があるというものだ」
    「君はそう言うと思ったよ……。難しく考えないで、叶ったらいいなってことを書けばいいんだ。ほら、何かあるだろう?」
     ドクターは黄色の短冊を手に取ると、少し悩んでからペンを走らせる。手元を覗き込むと、そこには綺麗な字で「皆が笑顔でいられますように」と書かれていた。
    「また他人のことか」
    「なに、文句ある? 皆が笑って過ごせるなら、これ以上幸せなことはない。さあ、君も早く書いて。飾りに行くよ」
     あどけなく笑うドクターを見て、エンカクは開きかけた口を閉じる。この男はどこまでいっても「ドクター」だ。■■■としての願いを書いたとしても、バチなど当たりはしないだろうに。文字通りの愚かな自己犠牲精神。しかし、献身的な自己犠牲精神は、同時に彼の魅力でもあった。
     エンカクは舌打ちをすると、差し出されたペンを受け取り、短冊にさらさらと書き込んでいく。ドクターからはその内容は見えなかったが、彼の短冊には確かに願いが託されていた。


     甲板に出ると、色鮮やかな短冊と笹の葉が風に揺れていた。既にたくさんの短冊が飾られており、空いているスペースを見つけ出すのには苦労した。見つけた場所にドクターの手が届かなかったので、二人の短冊はエンカクによって高い位置に括り付けられた。ひらひらと揺れるオペレーターや子供たちの短冊を、ドクターは温容な表情で眺めていた。
    「毎日みんなでごはんを食べられますように、世界が平和になりますように、か。ふふ、頑張らないとって気が引き締まるな」
     ドクターはエンカクの方を向くと、ふわりと微笑む。一瞬、穏やかに笑う彼が風に攫われそうなほど儚く感じられて、思わずエンカクはドクターの腕を強く掴んだ。一際強い風が髪を乱す。その髪の間から、驚いた瞳がエンカクを見つめていた。
    「……お前の願いはなんだ」
    「え? だから、皆が笑顔でいられますようにって、」
    「違う。■■■としての願いの方だ」
     エンカクの言葉に、ドクターは目を瞬かせた。少し思案するように俯き視線を泳がせると、迷ったようにおずおずと口を開く。
    「……私、は……」
     言い淀んだ言葉を待つように、橙色の双眸がドクターを見つめる。風が止み、静寂が訪れる。ドクターはゆっくりと顔を上げると、悄然とした笑みをエンカクへ向けた。
    「私ね、死んだら星になりたい」
    「……それで、大勢の願いを叶えてやるとでも? お前の自己犠牲精神は最早病気だな」
    「叶えられるのなら、喜んでこの身を捧げるさ。もちろん、それもあるんだけど」
     ドクターは空へ手を伸ばす。日が傾き始めた青空に、まだ星は見えない。彼は眩しそうに目を細めると、何かを掴むようにそっと手を握る。
    「願いを託され、皆を見守る、そんな星になりたいんだ。一等明るい星じゃなくたっていい、確かに空に輝く、そんな星に。正直、自分でもどうしてかよく分からない」
     変な願いだろう? とドクターは笑った。彼は部下や子供たちが書いた短冊に触れると、再び優しい微笑みを浮かべる。エンカクは何も言わずに、ただじっと彼の顔を見つめていた。
     二人だけの静かな甲板には、笹と短冊が揺れる音だけが響いていた。
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