甘い苺の誘惑「あ、いた! くろっ……!」
俺の声に振り返った彼。その姿を見た瞬間、言葉がつまってしまったのどうしてだろう。少しも動けなくなったのは何でだろう。髪型も服装だって、いつもと変わらないはずなのに。
「……潔?」
「………………。」
男子高校生にしては小柄な背丈。ギザギザと尖った歯を、時折覗かせる小さな口。髪と揃いでピンク色の大きな瞳は飴玉みたいにキラリと光っていて……
『美味しそう』
まさか自分が人をそう思う日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
「よっちゃんはね。甘くて美味しそうなケーキさんなの。だから、気を付けてね」
昔から、母さんにそう教えられていた。それこそ耳にたこが出来るくらい、何度も何度も、同じ内容を繰り返し繰り返し。俺の身に染み渡るように、俺が決して忘れないように。
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