溺れぬ人間 後編「祖父曰く、仙女の置き土産だったそうです」
折角なので酒の肴にお話しましょうか、とミズリ。新たに酒瓶をいそいそと開ける。
……君、本当に(酒が)好きなんだね、と呆れた様子の珪作さん。
酒を注ぎながら、ミズリ、話の続きを始める。
「なんでもその方は祖父の若い頃の恋人だったそうで」
「いくら酒を飲んでも影響を受けない薬を作った、と面白半分に祖父に渡したそうです」
「祖父は酒に酔えなくなるなんてつまらないと言いつつも、そこは惚れた相手に差し出されたもの、受け取ったそうです」
「そしてその翌日、突如その仙女は姿を消し、祖父は長らくその仙女のことを忘れられないまま、渡された「薬」を捨てることもできず時折眺めては机の引き出しの奥底にしまっていたようです」
「そして、これまた祖父らしいのですが、祖母と出会った祖父はその薬のことを綺麗さっぱり忘れてしまって、」
「そのまま時が過ぎ、母(むすめ)が生まれ、私(まご)が生まれ……」
「あるとき、祖父の机の前で寝ている私の横にその「薬」が入っていた袋が空になって転がっていたと」
「私はその時のことを全く覚えていないのですが……」
ミズリがビンを示す。つい先ほど開けたばかりのビン。空になっている。にっこり笑う。
「この通り、なんです」
終わり
補足
話を聞いた珪作さんがどういう反応するかは風村先生にぶん投げるのが大正解な気がします!