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    sh_mgmg

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    ビクター視点 発掘したので

    #ビクアン
    iquant

    焦燥アンリ・デュプレという男は、その見目の麗しさからか、他者から想いを寄せられることが多いようだった。
    確かに彼は美丈夫だ、とビクターは常々思う。言い寄る輩は後を絶たない。
    研究所内の廊下ですれ違った女職員がアンリの後ろ姿を見つめてうっとりと瞳を潤ませるなどというのはよくある事で、今日は何秒目が合った、落とした筆記具を拾ってくれたなどという内容で職員同士が密かに盛り上がっているのも頻繁に見かけてきた。ビクターにとっては職務を果たしさえすれば誰が誰に熱をあげていようとどうでも良いことだが、唯一気に食わないことがあるとすれば、アンリ本人の思わせぶりな態度だった。
    他者からそれとなく想いを告げられることがあっても、あの美しい顔で微笑み、曖昧に受け流す。彼にしてみれば相手を傷つけないようにする優しさなのかもしれないが、そのせいでつけ上がる者は増えていく一方だろう。興味のない相手への態度を顧みたことがないビクターにとって、アンリの対応は理解に苦しむものだ。
    「……改めた方がいいんじゃないのか」
    「? 何がだい、ビクター」
    アンリが女職員から告白されている場面に遭遇した際、見かねたビクターがその日の夜に酒を酌み交わしながらそれとなく注意をしたことがある。
    「きみの思わせぶりな態度のことだ。あれでは今後もきっときみを想い続けたままだぞ」
    「ああ……。今日のあれのことか。僕は断っているつもりだったんだけれど、今までこういう経験があまりなかったから難しいな」
    アンリとしては本当に悪気がなかったらしく、ビクターの言葉を受けて困ったように表情を曇らせた。要らぬ好意を向けられたために断るようなことがこの研究所に来るまでは無かったというのなら、それは余りにも周囲の人間の目が節穴すぎたのではないか。
    「きみほどの美しい男が、そんな筈ないだろう」
    「……本当のことだよ。ビクターの方こそ今までどうしてきたんだい」
    「前にも話しただろう、僕は研究のこと以外どうでもいい」
    「贈られた娼婦を寒空の下に追い出した話かい。ビクターらしいよ、僕なんかよりも女泣かせな気がするけれど」
    「あの時は効果的な実験を思いついてそれどころじゃ……待て、今はきみの話をしてるんだ」
    はいはい、と適当に返事をして手元のグラスを傾けるアンリに、ビクターは眉を顰める。彼に関しては女性のことだけではなく、引き抜きをしたあの日以前にアンリが所属していた部隊の上官のことも気がかりだった。何度か立ち話をしている姿を見たことがあり、二人の親しげな雰囲気はビクターが声をかけづらいほどだった。未だに交流が続いているなんてずいぶん部下思いの軍人だなと告げたところ、少し狼狽えた様子のアンリが、実は言い寄られていて最近ちょっと困っていると苦笑したのを覚えている。
    性別関係なく他者を惹き寄せてやまないアンリの魅力は、いずれ彼自身の身に何か危険を招いてしまう気がしてならない。心配なのは確かだが友人としてどこまで踏み込んで良いのかいいのか判断ができず、ビクターは言葉を探す。
    「……きみの人生に僕が口出しするのもどうかと思うが、そのうち誰かに刺されるんじゃないか」
    「それは困るな。きみが救ってくれた命がそんなことで散るのはあまりに勿体ない」
    「そういう問題か……?」
    「僕にとっては大問題だよ。……これからはもう少し気を付けてみるさ」
    笑いかけるアンリの表情はふにゃりと柔らかく、彼を想う者が見れば都合のよい勘違いをするに違いなかった。そんな笑顔を誰彼構わず見せていれば、本人に自覚がなくとも今まで多くの人間が彼を放っておかなかっただろう。心配だけではなく小さな苛立ちがビクターの胸に芽生えるが、その苛立ちがどんな理由から来るのかよく分からない。もやもやとした気持ちを誤魔化すようにグラスの中身を飲み干そうと持ち手に伸ばした手を制止するように握られ、不意に触れてきた温もりに心臓が跳ねた。
    「無理するなよ、そんなに強くないだろう」
    驚き固まるビクターをよそにアンリの手がするりと離れ、そのままグラスを奪ってゆく。アンリが唇を寄せるその部分は先ほどまでビクターが口付けていた飲み口だ。彼からすれば何ともないのかもしれないが、友と言える存在を今まで持ってこなかったビクターにとってこの距離感の近さは少しくすぐったく感じてしまう時がある。そういう所なんじゃないのかと若干呆れつつ、先ほどまでアンリが触れていた部分だけやけに熱いような気がした。
    その後もアンリの周囲に対する態度はそこまで変化が見られず、ビクターの苛立ちは募る一方だった。

    その日はアンリがなかなか戻らず、ふと窓の外を見ればかなり暗くなっている。材料調達に向かわせた地は戦火の跡が色濃く残っており、日が落ちれば足元の悪さで帰路に苦戦するだろう。ーーお使い感覚で彼を一人で行かせたのは、少し危険だったかもしれない。そう思い直したビクターは外套を羽織り、行き先を聞いてくるルンゲを適当にあしらって研究所を出た。
    研究所から北へ向かったはずのアンリを探しながら5分ほど歩いたところで、遠くに人影が見えた。
    (なんだ近くまで戻ってきていたのか、心配して損した)
    自身の過保護さに少し恥ずかしくなりつつも、ここまで来たのだし研究材料の収穫があれば持つのくらいは手伝うかという気持ちになり声をかけようとして初めて、アンリが一人ではないことに気がついた。誰かが背後から彼を抱き締め、その手がアンリの身体を撫で回している。下品な男が女へ無体を働く時のようなその手つきは、まるで情事が始まる時のようだった。暗がりのため二人の表情はよく見えないが、腕の中で身悶えるアンリの動きは男からの愛撫に感じているようにも見える。
    アンリ、そんなところで何を?
    喉まで出かかった言葉は声にならず、気づけば物陰に隠れてしまっていた。耳を澄ませると微かに二人の話し声が聞こえ、ビクターはじっと息を潜める。
    「愛人にならないか、デュプレ君。金ならいくらでも出すよ」
    「……そんな、僕たちの関係はお金なんかのためではなかったでしょう?」
    「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それなら、」
    「ぁ、……いつもそこばかり、意地悪……」
    「……君という子は、本当に可愛らしい……」
    相手は、声からしてアンリの以前の上官だった男だ。前々から心配していたが、かつて身体の関係があったとは。ビクターにとってはその事実も十分衝撃的であったが、何よりも、アンリに拒絶する様子が見られず愕然とする。
    (困っていたんじゃないのか、アンリ。まさか嘘だったと?)
    いや、と直ぐにビクターは思い直した。アンリは自分に嘘を吐くような男ではない、恐らくあの男から無理に言い寄られているというのは本当のことだろう。ならばあれは好意を上手く断ることが出来ないが故の対応なのかもしれない。しかし、本当にそうだとして、あの曖昧な態度は行き過ぎではないか。このままではなし崩しに行為に及んでしまいそうな勢いだがーーー。
    そこまで考え、最悪の結論に至る。
    (言い寄られるたびに断りきれずに、何度も身体を許してしまっているとしたら?)
    思考を掻き乱す苛立ちは増すばかりで、気づかれないよう気配を殺しながら慎重に吐く息は震えていた。
    どのくらい考え込んでいたのだろうか、ふと気がつけば二人の声はとうに聞こえなくなっており、物陰から身を乗り出して確認してもそこに二人の姿はなかった。一体どこへ、まさか。
    「アンリ、きみは……っ」
    一度芽生えた疑念を振り払うことが出来ず、何故か胸がとても痛い。先程遠くに聞こえたアンリの嬌声を思い出し、初めて目の当たりにした友人のあられもない姿にビクターは動揺を隠すことができずその場に座り込む。
    落ち着きを取り戻した頃。もしかすると今度こそ断ることが出来て無事に帰っているのではないかと、せめてもの望みを持ちアンリを探しながら帰路についた。彼の姿はどこにもなかった。

    研究所に戻り外からアンリの部屋を確認すると、明かりが漏れている。どこかであの男に抱かれている訳ではないのかと内心ホッとしたが、外套を預かり来たルンゲにアンリがいつ戻ったのか聞いても、まだ姿を見ていないと言う。ビクターの戻りが遅かったためか玄関でおろおろと心配していたのであろうこの執事に目撃されないよう研究所内へ入るなど、裏口からこっそりと帰宅しない限り不可能だ。そんな人目を盗むような真似をする必要があるだろうか。何か理由がある?例えばーー誰かを、連れ込んでいるとしたら?
    気づいた時には既にビクターの体は動き出し、足早にアンリの部屋を目指していた。

    「アンリ。居るんだろうアンリ!ここを開けろ」
    アンリの部屋に着くや否や、廊下に怒号が響き渡る。怒りに任せドアを叩くビクターに最早冷静な思考など残っていない。
    「どうしたんだビクター。夜も遅いのに珍しいね、何か用事かい」
    ドアの向こうから帰ってくる声は平然としているように聞こえるが、何かを隠してるような声色だった。
    「開けられないのか。誰か……そこに連れ込んでいるのか?」
    部屋から漏れ聞こえる音は、バタバタと騒がしい。アンリは何事か焦っているのだろうか。
    「今開けるから、待って」
    何を待つ必要があるというのか、何もやましいことが無ければすぐにここを開ければよいだけの話だ。今のビクターにとっては何もかもが怪しく見え、もうこの部屋の中を確認しないことには収まりがつきそうもなかった。ドアを叩き続ける拳がそろそろ血が滲むのではないかという頃、漸くほんの少しだけ開いたドアの隙間からアンリが僅かに顔を見せた。
    「お待たせ。どうかしたのかい」
    「中に入れろ」
    「そ、れは……できない。今日はもう遅いし、用件ならここでも聞けるだろう?」
    「……先程きみを抱きしめていた男でも連れ込んでいるのか?」
    ひゅ、とアンリの喉が鳴る。目に見えて狼狽えるその様子を見て、ビクターの胸の痛みは加速した。まさか本当にそこにいるというのか、どうして直ぐに違うと言ってくれないのか。
    「きみが元いた部隊の上官だった男だろう」
    「………………見て、たんだ」
    「否定しないのか」
    「いま誰もこの部屋にはいない、これは信じてほしい。でも彼は……」
    「それなら部屋を見せろ!」
    「っ、待って、ビクター……!」
    半ば強引に部屋に押し入ると、確かにいま部屋の中に誰かを匿っている様子はなかった。無用心にも開け放たれたままの窓からは冷たい風が吹き込んでいる。兎に角アンリに途中で逃げられないために施錠をしようとドアへ向き直るが、怒りのあまり震えるビクターの指先ではそれは容易ではなかった。焦れば焦るほど手が滑り、更に苛立ちが増す悪循環に陥る。
    「僕は心配なんだよ、アンリ。友人として、飽くまでも友人としてだ。君に言い寄る輩が多いのは知っているが、それはきみの曖昧な態度も起因しているんじゃないのか?」
    矢継ぎ早に言葉を紡ぐビクターの話を聞いているのかいないのか、アンリは何の反応も返さない。それが更に癇に障りとうとう我慢できなくなる直前、なんとか施錠に成功する。
    「聞いているのか!アン、リ………………」
    痺れを切らし振り返ったビクターはそのまま硬直した。
    僅かに紅潮した頬、薄く開いた艶かしい唇。常ならば束ねられている長髪は肩まで垂れ、汗ばむ首筋に張り付いている。適当に羽織っただけのブラウスの隙間からはぷっくりと腫れた胸の飾りがちらりと覗き、下世話だと分かっていてもそこから視線を逸らすことが出来ない。ビクターが目の当たりにしたアンリは、今まで見慣れていた凛々しさとはかけ離れた姿をしていた。
    つい先程まで行為に耽っていたように見える友人の姿に、ビクターの疑念は一気に膨れ上がる。本当にアンリは言い寄られていることに対して困っていたのか?もしかすると彼はもうあの男から与えられる快楽から抜け出すことを望んでおらず、この部屋に誘ったのも彼なのではないだろうか。ここの部屋の窓は、ひと一人簡単に抜け出すことのできるサイズだ。もし今の今まで二人はまぐわっており、怒鳴り込んできた自分に見つかる前に窓からあの男を逃していたとしたら。
    (抱かれていたのか、僕の友は。ここで、僕の与えた部屋で。僕のよく知らない人間に抱かれていたと?)
    外で聞いたアンリの嬌声と、目の前にいる彼の姿が重なる。あられもない姿を生々しく想像してしまい、気づいた時にはどうしようもないほどビクター自身が反応を示してしまっていた。
    「ビクター、それ……」
    「違う、違うんだ、これは……」
    なにか言おうとして、ビクターは口を噤む。どれだけ言い訳を連ねようと、自らの友人に対し劣情を抱いてしまっているのは確かだった。その胸に渦巻く怒りがアンリの貞操観念の薄さに対するものなのか、激しい自己嫌悪からくるものなのか、もはやビクターには分からなかった。
    「……そのままじゃつらいだろう」
    「放っておいてくれ!それよりもアンリ、やはりきみは――」
    「ねえ、こっちにおいで」
    ーーこの誘いに乗れば、自分たちはもうただの友人同士ではいられなくなる。
    頭の中で鳴り響く警鐘に一瞬冷静になりかけたが、熱を孕んだアンリの視線に射抜かれ、ビクターは遂に何も言えなくなってしまった。
    (欲情している。僕も、アンリも。ここで引き下がったとして、もう戻れやしない)
    部屋の入り口で呆然と立ち尽くしたままだったビクターは、アンリに手を引かれるままにベッドに腰掛けた。彼はとろりとした瞳の奥に欲の炎を灯したままビクターを見つめている。
    「いいよ、ビクター。僕は初めてじゃないし……」
    今のビクターにとって最も聞きたくない言葉だった。この部屋で行われていたかもしれない情事を再び想像してしまい下火になりかけた怒りを再燃させたが、同時にビクターのものをどうしようもなく昂らせた。
    満足げに微笑んだアンリがビクターの唇にそっと口付けると、初めての感触に驚いたビクターの肩がびくりと揺れる。その反応がおかしかったのかくつくつと笑いを堪えるアンリも、角度を変え唇を合わせ、食み、舌を押し込み甘く吸われるうちに余裕を失ってゆく。痛いほど勃起したビクター自身をアンリの掌が撫で回し、互いの興奮をさらに高めていった。
    「ねえ、他の誰かの所に行く前に、きみのものではやく埋めて……」
    キスの合間にアンリの唇から紡がれたその一言で、怒りが頂点に達したビクターは冷静さをかなぐり捨てた。今はただ目の前の美しい男を犯したい。誰のものでもなく自分のものにしてやりたい。力任せに押し倒してもなお薄く笑みを浮かべている唇に噛み付くように、今度はビクターから口付けた。
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