焦燥アンリ・デュプレという男は、その見目の麗しさからか、他者から想いを寄せられることが多いようだった。
確かに彼は美丈夫だ、とビクターは常々思う。言い寄る輩は後を絶たない。
研究所内の廊下ですれ違った女職員がアンリの後ろ姿を見つめてうっとりと瞳を潤ませるなどというのはよくある事で、今日は何秒目が合った、落とした筆記具を拾ってくれたなどという内容で職員同士が密かに盛り上がっているのも頻繁に見かけてきた。ビクターにとっては職務を果たしさえすれば誰が誰に熱をあげていようとどうでも良いことだが、唯一気に食わないことがあるとすれば、アンリ本人の思わせぶりな態度だった。
他者からそれとなく想いを告げられることがあっても、あの美しい顔で微笑み、曖昧に受け流す。彼にしてみれば相手を傷つけないようにする優しさなのかもしれないが、そのせいでつけ上がる者は増えていく一方だろう。興味のない相手への態度を顧みたことがないビクターにとって、アンリの対応は理解に苦しむものだ。
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