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    ある・R18

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    ある・R18

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    しょ〜りのめがみ/バレンタインア…指…

    ##ニケ

    「あー、そういえば指揮官様にバレンタインのチョコをあげようと思ったんだけど」
    「え?何?今日言う話?」
     本日はバレンタイン前日。アニスに頼まれてショッピングモール内で彼女の荷物を持って後ろを歩くが、明日の本番に向けて催事場が最高潮の賑わいを見せている。そんな催事場の横を通り抜けながらアニスはなんてことないかのように言い始めた。
    「指揮官様っていろんなニケ誑かしてるからいまいちパンチがないかなって思って」
    「誑かすなんて人聞きの悪い」
    「そこで賢いアニス様は考えたわけよ」
     会話をしているのか、独り言を聞かされているのか分からなくなるほど凄まじくスルーされている。
    「指揮官様にバレンタインチョコを作らせてあげよう、ってね!」
    「へ?」
     俺にちチョコを作らせて「あげる」?意味が分からず疑問符を飛ばしていれば、アニスはふふんと自慢気に言った後に言葉を続けた。
    「指揮官様に好きな人がいる、って言うのは私しか知らないでしょ?」
    「そりゃあ誰にも言ってないが」
    「でしょ?だから指揮官様がチョコ作れるようにしてあげるのが私からのバレンタインプレゼントってワケ!」
     良い考えでしょ?と言わんばかりに後ろを振り向いてウィンクされるが、全く意味が分からない。
    「いや、俺は別に」
    「「アニスに作らされて……いかがですか?」って予防線張りつつ渡せるわよ?」
    「よろしくお願いします!」

    バレンタインチョコを渡すには勇気がいる

     アニスにノせられた気がする。昨日は帰るなりチョコを作らされ、作ったそばからアニスがチョコを食べては「こんな味じゃ渡せないわよ」なんて言って次を作らされた。おかげ様でだんだんとコツは掴めてきて見た目も良くなってきたと思う。
    「本命はとびきり美味しいので無くちゃね」
     食べ飽きたのか、アニスはそう言うと、ラッピングには付き合ってくれず、少しくしゃくしゃになった箱が出来上がった。
     如何にもな紙袋にいれて持っていくのも躊躇われて自分のカバンに入れて中央政府までやってきた。中央政府内もバレンタインのせいかみんな浮立っている気がする。
    (いや、そうじゃないだろ……!)
     確かに中央政府内は浮足だっているかも知れない。だが、自分がこれからチョコを渡す相手、アンダーソン副司令官は違うはずだ。優しいところもあるが、仕事をきっちりしている時に限っての話だ。バレンタインにチョコで浮足立っている部下なんか居ようものなら「気を引き締めるように」と叱責される気しかしない。そう、だからこのチョコは飽くまで、カウンターズ(実際はアニスだけだが)に作らされて、と言ってこっそり渡すのだ。別に告白するわけじゃない。
    (そうだ、まだやるべき事がたくさんある)
     す、と頭の中が切り替わっていく感覚がある。地上奪還、人類の勝利、それを頭に刻んでから副司令官室をノックする。
    「入りたまえ」
    「失礼し、」
     ます、と言い切るより先にテーブルに置かれた推定チョコの山に何も言えなくなる。見た目だけではチョコかは分からないが、昨日催事場で見た有名ショコラティエのショッパーもあるからおそらく間違いないだろう。え?もしかして言い訳しなくても普通に受けとってくれるのか?
    「すまない、バレンタインで日頃の感謝と言われたら断り辛くてね。そこに置いたままなんだ」
    「そう、なんですね」
     どうしよう。こんなにも山になるほど、沢山副司令官個人を想って寄せられているとは思いもしなかった。はく、と呼吸をしたかったのか、言葉を発しようとして出来なかったのか、何かになり損ねて口がただ動いただけだった。ただ、このままじゃいけない、という考えだけが正しく働いて本来の報告業務を行う。事前に提出済みの書類をなぞるように順を追えばまとめておいた通り簡潔明瞭で、あっという間に報告が終わる。
    「以上、です」
     そう言って顔を上げるとアンダーソンと目が合う。数秒目を合わせたままにしていたが、気まずくなって目を逸らす。が、目を逸らした先にはチョコの山があって今度は視線を落とす。
    「ご苦労だった」
    「はい、その、失礼します」
     バレンタインに相応しい可愛いらしいショッパー、赤い薔薇の包み紙、宛名と共にハートが書かれたメッセージカードが添えられた箱、その全てがアンダーソン副司令官に愛を叫んでいる気がした。
     自分が作ったくしゃくしゃの包み紙に手作りのチョコがなんと情け無い事か。
    「あぁ、そうだ待ちなさい」
     部屋のドアノブに手を掛けたところで呼び止められる。自分の顔が今情け無い顔をしている自信があったので、深呼吸をしてから無理矢理顔をひくつかせて振り返る。
    「これを君に、ハッピーバレンタイン」
    「ふへぇ?」
     情け無い声が出たものの、手だけは即座に副司令官からの贈り物を掴む。自分の手には然程大きくはないが、それでも綺麗にラッピングされた箱だった。それに「ハッピーバレンタイン」?
    「多くは入ってない、君一人分程度しかないが……」
    「ありがとうございます!!」
     箱を抱きしめるように受け取れば、副司令官はふ、と笑ってくれた。その笑顔を見たら、なんだか自分のチョコも渡したら喜んでくれないだろうか、なんて思ってしまって。ほんの少しの葛藤の後、チョコをもらった嬉しさが勝って。
    「あの、副司令官」
    「なんだ?」
    「自分からも、副司令官に」
     鞄から取り出したチョコは当然ながら昨日包んだ時通り、包みが少しくしゃくしゃの箱だ。申し訳なさ半分、照れ半分で上手く副司令官の顔が見れなかった。
    「これは……手作りか?」
    「はい。あの、不要であれば持ち帰りますが」
    「まさか、大事にいただこう。ありがとう」
     箱が自分の手から離れて、副司令官の手元に渡る。そこから記憶はだいぶあやふやで、気づいたら前哨基地に辿り着いていたようでぼーっとしているところをアニスに話しかけられてようやく我に返った。










    「ふむ、多少チョコを置いたほうが渡しやすくなるかと思ったが逆効果だったか」
     アンダーソンはテーブルの上に積んだチョコを見ながら、手元にある指揮官からもらったチョコを口にした。
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