Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    myo_nal

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    myo_nal

    ☆quiet follow

    本人は千ヤマのつもりで書いたけど普通に千と二階堂の話。
    時系列は二部のあたり。

    どうやっても力不足でまとめきれないのでここで終了。視点が行ったり来たりするので読みにくいです。二階堂の危うさをどうしても書きたかった。

    千と大和の話(二階堂が少し不穏/だいたい二部)「悪い、用事思い出したわ。先に行ってて」

    前を歩く三月と陸に声をかける。
    「おー、あんま遅くなんなよ?」
    「はいよ、了解」
    じゃあ先に楽屋に行ってます、と手を振る陸にこちらも手を振り返すと、大和は逆方向に歩き出す。
    「…なるべく早くきてくださいね、ヤマト!」
    背後かた伝わるナギの視線と、少し諦めの混じったいつもの溜息。
    悪いな、ナギ。そう言おうとして、いつもの聞こえないフリを決め込んだ。
    実は焦っている事に気づかれていただろうか。平静を装っているつもりだけれど、今はあまり自信がない。正直それどころではなかった。

    陸たちが廊下のつきあたりを曲がって姿が見えなくなったのを確認して、大和は走り出す。先ほどの百の言葉が脳内で何度も繰り返されている。


    「ユキ見なかった?」

    百は自分たちに向かってそう問いかけた。


    ***


    もうピアスを付けたり出来るし、包丁だって家にちゃんとある。(滅多に使わないけれど)
    怖いものを克服出来るように何度も練習したんだ。モモにもおかりんにも協力してもらって。
    それなのに。

    会ったのかどうかもよく覚えていない男に刃物を向けられた途端に、僕の体は立ちすくむ。
    何で。あんなに練習したんだろ。止めろ。僕に尖ったものを向けるな。
    そう怒鳴ってやりたいのに怖くて声が出ない。厭な汗が出て、足が震える。
    動揺する僕の姿を見て気分を良くしたらしい男が、にたにたと笑っている。
    本当にこいつ誰なんだろう。さっき女がどうとか言っていたけど、どの女か分からないから記憶のたどりようが無い。そもそも何の事か覚えていないし。

    怖くて声も出ねえのか!天下のRe:valeのユキが!
    ざまあみろ、バチがあたったんだ!

    男は相変わらずニヤつきながら叫んでいる。
    じりじりと刃物が近づいてきているのに、足が竦んで逃げる事も出来なかった。
    ああ、モモ。このまま刺されたらどうしよう。刺されても歌って歌えるのかな。

    その時だった。

    「楽しそうな事してるじゃないっすか。俺も混ぜてくださいよ」

    聞き覚えのある少し低い声が聞こえると、僕の視界は真っ暗になる。
    目元がじわりとあたたかい。どうやら掌で目元を覆われている様だった。
    視界を遮られた事で刃物から意識が反れたのが良かったのかもしれなくて、僕の体の硬直がわずかにとける。呼吸が、出来る。
    なんで君がここにいるのかとか、危ないから傍に来ないでとか、言いたいことは色々あるのに僕の体は恐怖に屈したままで。
    「大和、くん」
    ただ震える声で、この掌の主の名を呼ぶことしか出来なかった。


    ***


    いつも自分が連れ込まれる休憩スペースの隅だとか、自販機の陰だとか。
    目立ちそうで意外に目立たない局の死角になる場所を大和は片っ端から探していた。

    さっき百からユキを見なかったかと聞かれて見ていないと答えたものの、思い返すと妙に気にかかる事があったからだ。

    百に会う少し前、大和はいつもの様に別階の休憩スペースでプロデューサーに声を掛けられていた。内心うんざりしながらも張り付けた様な笑顔でその場をやり過ごす事だけを考える。
    そんな時、視界の端に千を見た気がしたのだ。もちろん直接見た訳では無いので見間違いかもしれない。けれどその千らしき人物は誰かに腕を引かれていた。大和はその相手が百かマネージャーの岡崎だとてっきり思っていたのだ。
    けれど実際百は自分達と同じフロアにいて、岡崎もその傍に居たと言う。
    そして千が見つからなくて困っていると言った。
    大和に嫌な予感がよぎる。
    千と一緒に居たのは百ではない。腕を引くような間柄の人間が岡崎でも百でもないのなら。
    これはトラブルの予感しかしない。
    「どう考えてもやべー奴じゃねーか…」
    非常階段を2段飛びで駆け下り、大和はあの人影が千でないことを願うばかりだった。


    しかし現実は非情なもので。


    駐車場の陰で、ナイフを向けられて立ち竦んでいる千を見た瞬間、大和は衝動的に声をかけていた。楽しそうな事してるじゃないっすか。俺も混ぜてくださいよ。

    自分でも驚くほど軽薄な声が出た。そのまま二人の間に割って入る。片手で千の目を塞ぐように覆い、もう片方の手をナイフの先端にかざした。

    「な、なんだァお前…!二階堂大和…!?」

    男は驚いた顔をしていた。ナイフを向けている男の顔は、どこかで見たような気がするが覚えがない。この暴挙はおそらく千に対する私怨の類なのだろうか。きっと仕事か女関係に違いない。だらしねえ男。嫌味のひとつでも言ってやろうとしたが、余りにも千が怯えていたので大和は言うのを止めた。千は冷や汗をびっしょりとかいていて、顔色も酷い。見るからに震えていて、その恐怖が大和の掌を通じて伝わってくるようだった。

    ここまでやんなくてもいいだろ、そう思った途端に、大和の怒りがどんどん膨れ上がっていく。千の前で自分を曝け出す事には抵抗があるが、一度怒りがこみ上げると自分ではなかなか制御するのが難しい。保身とかバレると面倒とか様々な心配事が脳内を巡り、結果大和は何もかも面倒になって、考えることを放棄した。

    「お前には関係ねえだろ!」
    「関係あるかないかで言えば確かにこれっぽっちも関係ねえんだけども」
    「じゃあ引っ込んでろ!しゃしゃり出んじゃねえ!」

    がなりたてる男の声がひどく耳障りで煩わしい。
    こんな顔もよく覚えてねえ訳の分からない男にまで自分の存在が知られているなんて、本当に滑稽な事だ。面倒でたまらない。

    「そう言うわけにもいかねえだろ。こんなでも大事な先輩なんだ」
    大和は掌に力を入れてナイフに押し付けた。先端が僅かに皮膚に食い込む。刺さっているかどうかは良く分からなかったし、痛みはあまり感じなかった。
    「ほら、刺したきゃ刺してみればいい」
    「な…!」
    「刺しても構いませんけど、ここで問題起こしたら俺の経歴と一緒にアンタの経歴も洗いざらい全部バレちまいますよ?…俺と一緒に墜ちる覚悟がアンタにあるのか?」
    「大和くん…!」
    千が身じろいで抵抗しようとしたが、力で捻じ伏せた。
    「あんたは黙ってろよ」

    頭の中で、何度も何度も繰り返してきたあの男への復讐のシーンが再生される。
    目を開けていられない程のフラッシュを浴びて、俺は怒るのだろうか、笑うのだろうか。
    もうどうにでもなればいい。お前も。俺も。

    「さあ、どうすんだ?」
    「このまま俺を刺して、俺と一緒に大勢のマスコミの前に飛び出すか?」


    果たして今、俺は嗤っているのだろうか。


    ***


    暗闇で聞こえるのは自分の煩いくらいの心臓の音。男の怒鳴り声。
    そして。

    「関係あるかないかで言えば確かにこれっぽっちも関係ねえんだけども」

    大和くんの声だ。怒っている…というよりも皮肉気な響きが強い。
    ひっこんでろ、どけ。相変わらず男がぎゃんぎゃんと騒がしい。頼むから黙ってくれないだろうか。大和くんの声が聞こえないんだよ。

    「そう言うわけにもいかねえだろ。こんなでも大事な先輩なんだ」
    「ほら、刺したきゃ刺してみればいい」
    「刺しても構いませんけど、ここで問題起こしたら俺の経歴と一緒にアンタの経歴も洗いざらい全部バレちまいますよ?…俺と一緒に墜ちる覚悟がアンタにあるのか?」

    「大和くん…!」
    大和の口から飛び出した脅迫めいた言葉に、さすがに僕も声をあげた。
    有事を回避する為にハッタリを効かせるのは常套手段と言ってもいい。だが余りにも大和のやり方は危うすぎる。目元を覆っているの手をどかそうと動いた途端大和に強く顔を押され、のけぞった喉から蛙みたいな変な声が出た。
    「あんたは黙ってろよ」

    さあ、どうすんだ?
    このまま俺を刺して、俺と一緒に大勢のマスコミの前に飛び出すか?

    大和によって作り出された闇の中で、その言葉は僕の耳にひどくあまく響く。
    全てを投げ捨てて、彼と
    例え芝居だとしても、大和にこんな事を言われて抗える奴がいるのだろうかとさえ思った。
    駄目だ、大和くん。そんな奴に優しい言葉なんてかける必要ないだろう。
    そんな、自分が殺されるのを待ちわびていた様な声を出さないで。

    僕は、大和くんにはいつもみたいに不敵に笑って居て欲しかったんだ。
    闇の向こうで大和はどんな顔をしているのだろうか。きっと全てを諦めたような穏やかな顔で笑っているのだろう。
    不可抗力とは言え、大和にこんな事を言わせてしまった。
    その事実が、僕はとても悲しかった。



    ***


    「なん、だお前…」
    明らかに動揺した男は大和の只ならぬ様子にすっかり毒気を抜かれたようで、覚えてろ、調子乗ってんじゃねえぞ、なんてお決まりの捨て台詞を残して走って消えていった。

    「はは、ドラマかっての」
    凄まじい緊張感から解き放たれて、大和は思わず乾いた笑いを零す。そしてちくりとした感触を失った掌をじっと見つめた。結構刺されたと思っていたが特に深い傷になってはいない。針で指先を突いた時の様に真ん中にぷくりと血の玉が小さく浮いていただけだった。これならば絆創膏も貼るまでもなく、誰にも気付かれないだろう。
    怪我が大きく無かった事に大和は今更ながらほっと胸を撫でおろした。

    「やまと、くん」

    千のかさついた声で名前を呼ばれて、大和はまだ顔を押さえつけていた事に気付き慌てて千の目から手をどける。もしかして千が泣いているのではないかと思ってひやりとしたがそんな事はなく、どちらかというと困惑したような見たことのない表情をして大和を見ていた。
    また見られたくない自分を千に見せてしまったと思うと、恥ずかしくて逃げ出したくなる。
    なんだかバツが悪くて千の顔をまともに見られない。
    微妙な沈黙に耐えられなくなり、大和は千から目を逸らしたままとりあえず口を開いた。
    「あ…あの、なんか、勝手な事してすいませんでした」
    「いや…違うよ。僕が助けてもらったんだ。ありがとう。あと、ごめん」
    「なんで謝るんですか。謝るなら余計な事した俺の方でしょ」
    「そりゃ謝るよ。大和くんあんまりああいうハッタリ好きじゃないだろう?」
    まだ少し青い顔に浮かぶ汗を雑に手の甲で拭いながら、千がこちらを伺っている。

    鋭い。普段は見当違いの気遣いしか出来ない癖に。
    それともそんな千に見透かされてしまう程今の自分は酷い顔をしているのだろうか。
    あんたには関係ねえだろ、知った風な事を言うな、
    とっさに怒鳴りそうになり、慌てて言葉を飲み込む。いつものように笑えと自分に言い聞かせた。
    なるべく軽薄そうに見えるように食えない笑みを顔に張り付けて、大和は笑う。

    「……こんな危ないトラブル好きな奴なんてこの世にいないと思いますけど。平気ですよ。慣れてるんで。」

    そのままどさくさに紛れて立ち去ろうとした大和は、千に強く腕を引かれて立ち止まった。
    振り返ると、千は随分と真面目な顔をしていた。
    「…なんですか」
    「慣れないでよ。危ないから」
    「は…?」
    「そんな介錯されるのが待ち遠しいみたいな顔しないでよ」
    「…は?何?カイシャク?」
    「どうしても選ばなきゃいけないなら、」
    カイシャクを介錯と認識するのに脳のリソースをだいぶ使われる。何いってんだこいつ。俺が介錯されたがってるって?
    「どうしても誰も選べないなら、選びたくないなら」
    ほんの少しだけ沈んだ千の声。
    じとりと汗ばんだ大和を掴む手に更に力がこもる。痛い。
    文句を言おうと顔を上げると、千と目があう。変に熱のこもった目をしていた。


    「その時は、僕が」


    あ、やばい。
    ここから先は聞いてはいけない、早く逃げろと自分が叫んでいる。
    けれど体は動かなかった。あんな目で見られて、動けるはずがなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭❄💚😭🙏😭💯💯💯💚💚👄👄😭🙏😭💚💚😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏❄🍈💚💚👍👍👏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator