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    円とヴィオレッタが主従を組む話

    円とヴィオレッタが主従を組む話 この学園には、主従制度がある。将来的なことを考えると、早いうちから組んでおくのがいいのだろうと思ってはいるが。
    「いない……」
     何回か、主従の申し出はあった。なぜか女子からの方が多かったが、その理由はわからない。女子と話すの苦手なのだが…。そして、試しに組んで戦闘訓練をしてみると、やはり自分の能力のランダム性が悪い方に働いてしまう。その結果の、「ごめんなさい、卯八先輩とはちょっと、組めそうにないです…」これが幾度と繰り返されてきた。
     なんとか出す生き物を任意のものにできないかと試行錯誤してはいるが、どれも実りがない。主従を組めずとも卒業はできるが、学生のうちからこんなことで躓いていて将来大丈夫なのだろうか…。そこからはもう、悪い可能性しか思い付かなくなってしまった。これも自分の欠点の一つだと思う。でも、一度浮かんでしまった考えは中々消えず、シミのようにじわじわと脳みその中に広がっていく。どうしよう、どうしよう。高等部に入ったことで、学園生活の終わりが見えてきてしまったことも、焦りに拍車をかけた。
     その時、足が何かに引っかかって転んだ。
    「いだっ⁉︎え、人…?」
     そこには、丁寧にも枕を置いて、スヤスヤと地面に寝ている小さな子がいた。制服を着ているから学園の生徒ではある、はず?
    「もしもし、ここで寝てたら危ないですよ」
     軽く肩をゆすると、ゆっくりと目が開かれた。
    「……おはよう。誰?」
    「…おはようございます。卯八円といいます。先程は、気づかずに蹴ってしまってすみません。でも、ここで寝てたら危ないですよ」
    「ベンチ、猫いたから」
    「はい?」
    「あそこのベンチ、猫いたから。座れない」
     そう言ってぶかぶかの袖で指した先には、ベンチにの上で丸くなって寝ている黒猫がいた。
    「猫が苦手なんですか?」
    「…キライ」
    「かといって、こんな道のど真ん中で寝ることないでしょう…。ちょっと待ってて下さい」
     ベンチに近づくと、ちょうど起きたらしい猫がこちらを見上げて小さく、にゃあと鳴く。それを抱き上げると、あの子がいる場所とは反対の方向に放した。
    「これで大丈夫だと思いますよ」
    「円!命の恩人…!」
    「上の学年の人に呼び捨てはやめましょうね。そういえば、あなたのお名前きいてませんでしたね」
    「ヴィオレッタだよ、円」
    「先輩つけましょうね…!礼儀は大事ですよよ、特にここは主従制度もありますから、組んだ相手には敬意を持って接しないと」
    「ボク、まだ指輪ないよ」
    「おや、そうなんですね。まあ、私も人のこと言えませんが…。どなたか、あてはあるんですか?」
    「んー、なんか組みにくい能力って言われて、あんまり来ない」
     勝手に、ヴィオレッタさんに自分を重ねてしまって。
    「…主従は、将来の為にも組んでおいた方がいいのではと思います。じゃないと、私のようになりますよ」
     お節介だろうと思いながらも、ついそう言ってしまった。
    「じゃあ、円と組む」
    「はぁ⁉︎」
    「ボク、ヴァレットだし円はマスターでしょ。指輪ないんでしょ?」
    「それはそうなんですけれども…!まだ互いの能力も知らないのに…!」
    「あ、また眠くなってきちゃった…」
    「ちょ、ちょっとこのタイミングでですか⁉︎」
    「おやすみぃ…」
    「おやすまない!嘘だろ、本当に寝た…!そっちから言ってきといて…」
     
     
     あれから、数日。結局あの後は、中々起きないヴィオレッタさんを抱きかかえて中等部まで送り届け、主従の話はできずじまいだった。自由そうな人だったし、おそらくその場の思いつきで言ってみただけなのだろう。そう結論づけて、自分の中では終わったことにするつもりだった。が、
    「うはちまどかセンパイ、いますか〜⁉︎」
     何か派手な人を引き連れて教室に突撃されている。
    「私ですが…。ヴィオレッタさんは先日お会いしたことありますが、あなたは誰ですか…」
    「ボクはビビの幼馴染。帽子屋って呼んでもらえたら嬉しいな。この通り、この子寝てることが多いからネ、付き添いだヨ」
     帽子屋と呼ばれる生徒の話は聞いたことがあるが、大体がろくなことじゃなかった気がする。カラフルな帽子とメイクに、目が慣れない。
    「ヴィオレッタさんの付き添いということは、主従についての話でしょうか?」
    「さすが、真面目で優秀と評判のセンパイだネ!話が早い。ビビが名前を覚えていたから、今こうして会いに来たんだヨ」
    「自分で言うのもなんですが、組みにくい能力ですよ。それでもいいんですか?」
     断るなら、ここまでにして欲しい。自分の能力で足を引っ張る結果になるのも、相手を失望させてしまうのも、もう見たくないから。
    「……同じだから」
    「はい?」
     いつの間にか、ヴィオレッタさんが起きていたようだ。
    「ボクの能力も、同じだから。使いにくいもの同士なら、上手くいくかなあって」
     その言葉に、なんだか今まで自分が悩んでいたことがバカらしくなってしまって、つい吹き出してしまう。
    「ふ、ふふ、まあ、そういう考えもあるのかもしれませんね」
     まずは、試しにやってみましょうかと、自分から言い出したのは初めてのことだった。
     
     
     一試合目は、今までと同じように戦力となる生き物が生まれなくて、負けてしまった。やはり、私の能力が足を引っ張っている。そう思っていたところに、
    「じゃ、次」
     ヴィオレッタさんが言い出した。
    「え⁉︎私達負けたので、もう分かったのでは?」
    「さっきは、円が頑張ったでしょ。次は、ボクが頑張る」
    「え、がんばる、とは?え?」
     そうこうしてる間に、さっさとヴィオレッタさんが次戦の申し込みをしてしまった。もう一戦したところで、同じことなのに……。
    「はじめ!」
     試合開始の号令と共に、私が手から能力で卵を出す。二回目なので、年齢が若干退行した。
    「蛇」
    「はい?」
    「なんでもいいよ、蛇が生まれたら、ボクたちが勝つよ」
    「???それは、どういう…」
     その時、パリパリと殻が破れて生まれたのは、小さな蛇だった。その時
    「きゃあああああああああ!」
     相手側のマスターが、大きな悲鳴を上げて、泣き出してしまった。
    「蛇、いやだ嫌いー!あっち行って!」
     取り乱すマスターは能力が出せなくなってしまい、ヴァレットが続行不能を訴える。
    「あ、勝った…?」
    「あのマスター、蛇が嫌いってポストしてたから」
    「あ、なるほどあなたの能力…そうでしたね」
     あまりにも運任せだったが、初めて仮にとはいえ主従として勝利できた。その小さな喜びに浸っていると、
    「あ、危ない!」
     まだ消えてなかった蛇がヴィオレッタさんに噛みつこうとしていた。咄嗟に庇おうとするも、今の自分は背が小さいことを忘れていた。もういっそ自分が噛まれてしまうか、と腕を差し出したら、身体が宙に浮いて。
    「はい、もう大丈夫〜」
     そう言うと帽子屋さんが蛇をぽい、と遠くに放る。
    「あ、ありがとうございます…」
    「ふぅん、こんなに可愛いくなるんだネ。面白い能力」
    「面白くないですっ!現に今もヴィオレッタさんに危険が…!」
    「でも、たまごクンが守ってくれようとしたでしょ?それに、ビビはこれくらいの危険は心配ないヨ」
    「たまごくん…?」
    「そ、たまごクン。いい名前でしょ〜」
    「この姿で言うのもアレですが…一応私、学年上なので…!先輩つけてくださいね!あと、円です!」
    「それで、たまごセンパイ」
    「円ですっ!」
    「ビビと、どうするんだい?主従になるのかい?」
     帽子屋さんが視線をやる方を見ると、またスヤスヤと眠る姿が。
    「……正直、今勝てたのは本当に偶然、だと思います。でも、その偶然がヴィオレッタさんとなら少しはその確率が上がるような、そんな気がするんです」
    「ボクも、そう思うヨ。誠実なマスターに恵まれて、彼女は幸せだネ」
     ……え?
    「か、彼女って…?」
    「ビビ以外に誰がいるのさ」
    「え⁉︎女子⁉︎え、あ、聞いてませんが…!」
    「あ、そうそう〜。こないだたまごセンパイ、ビビお姫様抱っこして来たでしょ?あれが結構噂になっててね、それで名前だけで見つけられたんだヨ」
    「あ、あれはヴィオレッタさんが起きなかったからで…!」
    「中等部ではクールな先輩って言われてるけど。たまごセンパイ、実は単に女の子苦手なだけデショ?」
    「は、はい…。嫌いってわけではないのですが、どう接したらいいのかわからないままで…」
    「そのままでいいと思うヨ。頑張って愛想良くしてしたら確実に今以上に好かれはするだろうけど、その分面白…じゃなかったややこしいことにもなりそうだし、ネ」
    「今面白いって言いかけませんでした?……まあ、ヴィオレッタさんが男性でも女性でも、今更答えは代わることはありませんが」
    「よかったね!ビビ!」
     ふぁ、とあくびをして起き上がった彼女は、大きな瞳でこちらをみると、
    「よろしくね、マスター」
     とふわりと微笑みながら、言ってきた。
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