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    譲テツ

    ##譲テツ

     その行動は、僕にとっては今までの一線を越えるような、それこそ一世一代の大勝負のようなつもりだった。
     
     
     強引に二人の名前で契約させた部屋はかつてのマンションよりは狭く、設備の整った手術室も存在しない。とは言えこの人が仕事を辞めた訳ではなく、ただこの家ではしなくなったというだけだ。仕事に呼ばれるとすぐに飛んで行ってしまうので、結局僕はあの時のように家で帰りを待つことの方が多い。
     変わったのは、連絡をくれるようになったことぐらいだ。
     それでも大きな進歩だと思っているので、死にかけの身体で意気揚々と出掛けていく背中を引き留めはしない。一方的なものだったとは言え、約束を交わした以上は本当に死にかけたら僕の元に戻ってくると分かっている。それに、今更この人が大人しくしていられるとも思っていない。
     
     再会してからは、時折仕事で協力するだけで満足だった。
     それが段々と欲が出て、また同居を始めた。共に暮らせば、見るつもりはなくても相手のプライベートな姿を見ることになる。
     十代の頃は気のせいだろうと自分を誤魔化していた感情が再び顔を出し、告白すること十数回。最終的には、「わかったわかった」と了承とは思えない返事を貰ったが、ポジティブな返事を貰ったのはそれが初めてだったので、僕はこれを勝手に告白が成立したものだと捉えている。
     まぁ、この人が今になって誰か恋人を作るとも思えないし、一緒に暮らしているのは僕だ。わざわざ関係性を変える必要も無いかもしれないが、こちらの人生に勝手に介入して振り回している以上、適度に困らせたいという気持ちもあった。
     それ以来僕は彼の男だという自負を持って生活しているが、今のところ咎められたことはない。流石に他人の前で言ったことは無いが、日常生活の会話の中で時折彼氏面をしてみたり、一丁前に嫉妬して見せたりしている。そういう僕を見る度に彼はじりじりと視線をずらしていくので、多分、良しとはしていないのだろう。説得を諦めただけで。
     だが、ここ最近はそんな僕の言動にも慣れたのか、おざなりな返事が増えてきた。
     
     こうなると面白くない。
     あなたには、僕の振り回された人生分、困って欲しい。
     そこで考えたのが、物理的な接触だった。今までの僕は、あくまでも言動でしか好意を示していない。行き過ぎた冗談、もしくは嫌がらせで済まそうと思えば済ませられる範囲だ。だから明確に迫ってやろうと、決意を固めた。
     流石に、多少なりとも逡巡はある。なんせ僕が勝手に付き合っているという体で生活しているだけで、この目の前の男は一片たりともその気は無いからだ。適当にあしらっておけば、僕がそのうち諦めると思っているのだろう。そんな相手に意思を持って触れるというのは、相手が相手なら犯罪なのではないか。
     一晩悩んだ末、本当に嫌なら殴るなり何なりしてくるだろう、という結論に至った。なんせ病人とは思えないほどに力も強く、医者のくせに暴力の才能がある。相当具合の悪い時でなければ、僕一人押さえ込むことなど容易いだろう。
     ということで、決行日は彼の調子がすこぶる良さそうな今日に決めた。寝覚めが良かったようで、論文をめくりながら起き抜けの僕に珈琲を淹れろと言ってくる程度には頭も働いている。そして命令通り珈琲を淹れてやれば、論文を脇に置いて一緒に珈琲を飲んでくれる上機嫌さも持ち合わせていた。
     いける、と確信した僕は、まずは小手調べに隣りに座ってみる。
     この家にはソファが二脚あって、客人でも来ない限り、それぞれが所定のソファに座っている。つまり僕が隣りに座ってくる時点でかなり珍しいことだが、隣りの体温はぴくりともしなかった。
     僅かに視線がこちらに寄った気もするが、すぐに興味を失くしたようで手元の珈琲に戻ってしまう。
     ならば、と膝がくっつくまで隣りに移動したが、依然として動きは無し。肩に頭を乗せる。べったりと寄りかかる。体重を掛ける。腹に抱きつく。
     ……これはどこまで許されるんだ?
     頭の中は普通にパニックだ。まだ僕が子どもと言える歳だった時ですら、こんなにくっついたことは無い。両腕の中にギリ収まった身体は、病に侵されているとは思えないほど頑強な形をしている。どくどくと聞こえる心臓の音は全然死にそうになく、何でこんなに元気なんだよと理不尽な怒りを抱く。せめて嫌がるか、困るか、そんな顔をしていろと顔を上げた。
    「……えっ」
    「なんだ、うるせぇな……」
     彼の目は、論文に向いていた。僕の方を見てすらいない。珈琲カップを置いた右手が再び論文を携え、視線はFig.4の経過グラフをなぞっている。愕然としていると、僕の接触に巻き込まれた左手がもぞもぞと下から抜け出した。そのまま殴られるのかなと思っていると、くしゃりと後頭部を撫でられた。
    「え?」
     そのまま手慰むように数回頭を撫でられ、やがて飽きたのか僕の背中に落ち着いた手がじんわりとその体温を伝えてくる。
     意味が分からず、もう一度顔を見上げると、やはり彼の顔は平然としていた。
    「……嫌じゃないんですか?」
    「あ? 何がだよ」
    「こういう……人にベタベタされるのとか……」
    「人肌が嫌いで医者がやってられっか。こっちは内臓まで触ってるんだぞ」
    「まぁ、そりゃそうですけど」
     いや、そうだろうか? それで済ませて良いんだろうか。その理論でいくと、相手は僕じゃなくても良いということになるが。それは……それは、嫌だ。例え犬のような撫でられ方だったとしても、この距離を許すのは僕だけであって欲しい。
     もう一度距離を詰めて、ぎゅうと抱き着く。体格差のせいで、イマイチ格好がつかない。どこまで触っても怒られないのだろう、と邪な下心が顔を出し、大きく開いた襟ぐりに口を付けた。
    「ン、」
    「…………」
     しっかりとキスマークが付くまで食いついたというのに、僅かに喉を鳴らされただけで終わった。いつもの黒いタンクトップのそばに、似合わない鬱血。あまりの反応の無さに下から睨みつけたが、ぽんぽんと背中を叩かれるだけだった。
     もうこうなったら反応せざるを得ないところまでやってやる、と対抗心に火が付き、脇に触れた指先でタンクトップをめくり上げる。引き締まった身体に、性的な意図を持って触れるのは初めてだ。右手を服の下に潜り込ませ、左手は服の上から胸に触れる。相変わらずなぜか衰えを知らない胸筋は今日も布地を押し上げていて、そっと触るとふかふかと柔らかい。身体に力が入っていないのは、緊張していなくて良いと捉えるべきか、ここまでされて脱力しているのはどうなのかと責めるべきか。
     何度か胸の表面を掠るように撫でていると、手の平に引っ掛かりを覚える。良かった、不感症ではないらしい。徐々に触る範囲を狭めていって、遂に硬くなった先端を指先で摘む。びく、と僅かに腕の中の身体が震えた。
    「何がしてぇんだテメェは……」
    「ここまでされておいてそれを聞きます?」
     ほら、抵抗するなら今ですよ、という意味で一旦動きを止める。しかしお得意の蹴りは飛んでこず、静かに論文がめくられる音が響いた。正気か…?
    「直接触りたいので、脱いで下さい」
    「お前な……」
    「僕が脱がすには体格が良すぎるんですよ、貴方」
     いつもの白衣は着ていないが、身体のラインを隠さないタンクトップは引っ張ったところでそう簡単には脱げない。ぐいぐいと裾を上に引っ張ると、ため息を吐いて論文を机に置いてくれた。
     いよいよ叱られる時だろうかと見上げると、犬でも叱るようにぱしりと手を叩かれた。
    「そんな掴んでちゃ脱げねぇだろうが」
    「え……あ、はい……」
     パッと手を離すと、鍛え上げられた肉体が目に飛び込んでくる。脱ぎ捨てた服をソファの背に放り、再び座り直した彼がちらりとこちらを見上げてくる。
    「脱いでやったぜ」
    「ありがとうございます……?」
     また論文を読み始めるのかと思いきや、その目はじっと僕の方を見つめてくる。さっきまでは反応してくれないことに躍起になっていたが、そう見られると今度は動けなくなる。目の前の裸を見ていられなくて、思わず視線を逸らすと胸倉を掴まれた。
     僕もそれなりに良い大人だが、この人の腕力には敵わない。ぐいと引き寄せられるがまま身体に乗り上げ、ソファに寝転んだ身体を押し倒してしまった。
     僕の下敷きになった彼が挑発的な顔で笑った。
    「なんだよ、抱くんじゃねぇのか」
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