Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    SMzrzr

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    SMzrzr

    ☆quiet follow

    譲テツ🇺🇸with也

    ##譲テツ

     友人が外国に住んでいる、というのは何だか妙な気分だ。
     慣れない飛行機を降り立ち、きょろきょろと空港を見渡す。当然だが日本語は目に入らず、英語は読めるが若干の心細さを感じた。仕事に呼ばれて外国に行くことが無い訳ではないが、そういった時は大体切羽詰まっているので、頭の中は症例と術式のことでいっぱいだ。今回は譲介に呼ばれた身なので、何となく浮ついた気持ちになっている。学会に合わせて前日入りしただけだが、ワクワクとした気持ちは抑えられなかった。
    「よぉ、久しぶりだな」
    「譲介! 久しぶり、元気そうだね」
    「お前もな。……それは?」
     預けた荷物を受け取り、空港の外に向かうと譲介が出迎えてくれた。さすがにあの頃のようなパーカーは着ていないが、相変わらずラフなTシャツ姿だ。アメリカの地にも馴染んでいて、少し緊張しているこちらが恥ずかしくなってくる。しばらく会わないうちに随分と大人びたように見えたが、目ざとく指さされた紙袋にあの頃の片鱗を感じて頬が緩んだ。
    「これはイシさんから。カレー持っていくのは難しいって言ったら、カレー味のお菓子を色々作ったみたい。譲介に渡してくれって」
    「やっぱり! その紙袋はイシさんだと思ったんだよな~!」
     無邪気に喜ぶ譲介に紙袋を渡してやる。スーツケースの中にもまだ入っていると知ったらスキップでもしそうな勢いだ。イシさんがせっせと作っていた理由が少しわかった気がする。
     残りを渡すときはこっそり動画でも撮ろうかと画策しながら、譲介に連れられて空港の外に出る。日本と比べると、カラリと乾燥した気候で過ごしやすそうだ。ガラガラとスーツケースを引いて、だだっ広い駐車場にたどり着く。
    「車回してくるからここで待っとけ」
    「譲介、国際免許取ったの?」
    「こっちじゃ車が無いと何かと不便でね。お抱えの運転手がいれば別だけど」
     皮肉ぶったような口調が懐かしい。荷物もあるし、ありがたくその場で待っているとほどなくしてやたらとデカい車が目の前に停まった。
     マットなカーキ色のジープのような車は、印象だけで言えばまるで戦車だ。あまり譲介のイメージには合わず、こんな車が好きだったのかと意外に思う。あっけにとられていると、運転席からひょいと譲介が飛び降りてきた。
    「後ろ散らかってるからスーツケースはトランクに入れてくれ」
    「あぁ、ありがとう」
     一度後部座席のドアを開いた譲介がトランクを指さす。ごそごそと動いていたので片づけてくれているのかと思いきや、スーツケースを載せ終わると助手席に誘導された。外は軽く汗ばむ気候だが、車内はエアコンが効いていて涼しい。自分に比べると小柄な譲介が、ゴツいハンドルを操作する様子はアンバランスなようで似合っていた。
     手慣れた様子から見るに、やはり誰かの車ではなく譲介の車のようだ。ナビを操作した譲介がシートベルトを締め、ゆっくりと車が発進した。
    「ここからうちまでは三十分ぐらいだな」
    「楽しみだな、譲介の家」
    「大した家じゃないよ。……あ、起きました?」
     ちら、と譲介が後ろに目を流す。誰に話しかけているのかと思えば、俺が座っている座席の背を白い手がガッと掴んできた。二人しかいないと思っていた空間に急に第三者が現れ、思わず大声をあげてしまう。
    「うゎぁあっ!?」
    「テメェ……一也か。何しに来た?」
    「昨日の夜話したでしょう。学会に合わせてうちに泊まりに来るって。……さっきまでブッ倒れてたんだから大人しく寝てて下さいよ。家着いたら起こすんで」
    「フン……」
     その特徴的な髪形は忘れようもない。後部座席に寝ていたのは、ドクターTETSUだった。アメリカにいることすら知らなかったので、いきなり見た姿に心臓がバクバクと跳ねる。譲介も、先に言っておいてくれたらよかったのに。
    「なんで、ドクターTETSUが……」
    「今、うちで暮らしてるんだ」
    「おい、俺は承諾してねぇぞ。仕事の合間にたまに寄ってるだけだ」
    「はいはい」
     ドクターTETSUが不機嫌そうに再び座席に身を沈める。よく見ると、その腕には点滴が刺さっていた。さっき譲介が作業していたのはこれだったらしい。
    「倒れてたって……大丈夫なの?」
    「あぁ、朝方に四時間オペしてたらしい。無事終わった後廊下のベンチで転がってたから、僕が回収してきただけ」
    「タフだなぁ……」
     勿論俺だって長時間のオペは経験があるけど、普段は杖をついているような病に侵された体で、よく現役で医者を続けられるものだ。譲介が慌てていないあたり、そう珍しいことでもないのだろう。まだ心臓はバクバクとうるさい音を立てていたが、ドクターTETSUの目が閉じられたことを確認して視線を前に戻す。譲介はいたずらが成功したような顔をしていた。
    「もう、本当にびっくりしたよ……」
    「すぐ気づくかと思ったのにお前何も言わないから」
    「気配が無さすぎるでしょ」
    「そうか?」
     カチカチとウィンカーが音を立て、スムーズに車がカーブしていく。やけに車の運転が丁寧なのも、針が刺さったドクターTETSUを乗せているからかもしれない。
    「あ、この車ってもしかしてドクターTETSUの?」
    「……いや? その人はその人でまた別の車乗り回してるぜ」
    「そうなんだ。なんか、譲介の趣味っていうよりはドクターTETSUっぽい車だから」
    「…………」
     譲介は無言のまま、車がギュンと加速する。他に車もいないので危なくはないが、どうやら何か譲介の地雷を踏んだらしい。
    「……えーと、譲介?」
    「……そうだよ。この車は元々その人の車だ。一年前ぐらいに体の調子が崩れたから、僕が主治医としてドクターストップを掛けて取り上げた。出掛けたいなら僕が運転すればいいしな。なのに調子が元に戻った途端、別の車を勝手に買ってきてまた一人で出歩きだしたんだ! 返すって言ってもそれはお前にやったからいらんとか言うし!」
    「調子を元に戻したのはお前だろうが……」
    「だからって完治した訳じゃないんですから今日みたいに無断で家を出たらまた僕は泣きますよ!!」
    「わかったわかった」
     面倒そうな声が後ろから飛んでくる。横になってはいるが、眠っていた訳ではないらしい。
     相変わらず振り回されているらしい譲介には悪いが、あの頃のドクターTETSUしか知らない俺としては、まず一時とは言え大人しく車を返上していた時期があることが驚きだ。その期間はずっと譲介と一緒に暮らしていたんだろうか。かつて同居していたとは聞いているけど、譲介はあまりドクターTETSUの話をしなかったから想像もつかない。
     譲介の怒りによる加速があったせいか、想定よりも早く家に着いた。
     二人が住んでいるマンションはかなり立派なもので、車は地下駐車場へと入っていった。
     危なげなく停められた車から出ると、隣にも立派な車が停められていることに気付く。
     真っ黒な車体に無骨なフォルム。見覚えのある車体に、こっちがドクターTETSUの車かと気付いた。さすがに日本で使っていた車をわざわざ持ってきたとは考えづらいから、同じ車種をまた買ったのだろう。こうして並んでいるのを見ると、不思議と今乗ってきた車は譲介らしく見えた。案外、ドクターTETSUは最初から譲介に渡すつもりでこの車を買ったのかもしれない。
    「ぁあ? なんで俺の車がここにあるんだ?」
    「僕の部下に頼んでさっき運んで貰いました。あなた明日も使うでしょう。僕は一也乗せて学会の方に行かないといけないので」
    「人使いが荒いな」
    「誰のせいだと……」
     後部座席から降りたドクターTETSUは、もう点滴が抜かれていてスタスタと杖を使って先に歩き出してしまった。譲介が主治医だと自分で言っていたが、確かに日本で見た頃よりも体調は良いようだ。何だか譲介の仕事の一端を見たようで、同業者として嬉しくなる。ダメ元でノートを見せて貰えないか頼んでみようか。譲介がこの数年でどんな処置を施したのか、興味がある。
    「トランクの荷物忘れんなよ」
    「あぁ、うん。先に行っちゃったけど、いいの?」
    「あの人も鍵持ってるから大丈夫だ」
     車からスーツケースを取り出し、ついでにクリーニングに回した服を受け取りたいという譲介についてマンションのフロントを経由する。コンシェルジュの人に深々とお辞儀をされて、思わず同じように頭を下げてしまった。
     
     
     
    「コーヒーでいいか?」
    「ありがとう!」
     部屋に着くと、譲介は受け取った服をクローゼットに適当に下げてからキッチンに入っていった。ドクターTETSUの姿は見当たらない。
     手慣れた様子で譲介が豆を取り出す。個人宅に置くにはやけに立派なコーヒーマシンがあるが、アメリカに来てからこだわるようになったのだろうか。ついきょろきょろと見回してしまう。
     適当に座れよという言葉に従い、ソファに腰かけていくつかお土産を出す。譲介に会いに行くと言ったせいで、色んな人からお土産を預かってきた。
     機械が豆を挽く音が響き、セットを終えた譲介がパタパタとスリッパの音を響かせてリビングを横断していく。いくつか並ぶドアを、ノックもせずに開いた。
    「コーヒー淹れましたよ」
    「おう」
    「おうじゃなくて。一也も来てるしこっち来てくださいよ。あんたK好きでしょ」
    「ンゥ……」
     了承なのか反論なのか判別がつかない唸りが聞こえ、渋々といった様子でドクターTETSUが出てきた。俺をじろりと睨むと、少し迷ってから向かいのソファに座る。もしかして、俺が座っている所はドクターTETSUの定位置だったんだろうか。
     今更立ち上がる訳にもいかず、おずおずと目線を合わせる。つい顔色や肌の張りを確認してしまうのは医者のサガだ。
    「……お前から見て、俺はどう見える?」
    「……そうですね、最後に会った時よりも血色も良いし、短い距離であれば杖無しでも問題なく歩行できていますね。呼吸も安定していて眼球の落ちくぼみもなく、筋肉量が落ちているようにも見えないので病状は改善しているかと……あくまでも見た目での診断ですが」
    「いや……俺の聞き方が悪かった。死にかけの身体抱えて、お前と同い年の男に世話焼かせて、あまつさえアレに抱かれて情けなく腰振ってる老いぼれをどう思うって話だ」
    「……えっ!?」
    「……あいつから聞いてないのか!?」
     まずいことを言ったとばかりにぱしりと口が覆われる。折角血色の良かった顔色が一気に悪くなり、後悔するように眉間に深い皺が刻まれた。すっかり顔を伏せて沈んでしまった姿を前に、糾弾しようとする気持ちも戸惑ってしまう。呆れた顔をした譲介がコーヒーを並べて、重そうに隣の身体を押しのけると空いた隙間に座った。
    「自分から墓穴掘ってるし」
    「お前が散々周りに吹聴してるからだろうが……」
    「なりふり構ってられないんですよ」
     衝撃のままぽかんと口を開いて固まっていると、譲介がけろりとした顔でこちらを振り向いた。
    「まぁ、この人が言った通りだよ」
    「おい、やめろ」
    「少なくともお前と宮坂よりは先をいってる」
    「いっ今宮坂さんは関係ないだろ!?」
     宮坂さんとは付き合ってすらいないから、さっきドクターTETSUが言ったことが本当だとするなら、先をいっているどころの話ではない。げっそりとしたドクターTETSUをよそに、譲介はやけに機嫌が良かった。
    「長かったんだぞ。全然頷いてくれなくて」
    「当たり前だろうが!」
    「元気になってくれるのは嬉しいけど少しは大人しくして下さいよ。今更逃げないで」
    「あの……一応聞くけど、その関係はいつから……?」
     脳内に「犯罪」の二文字が浮かび上がる。ドクターTETSUに引き取られた時点で、譲介は未成年だったはずだ。
    「誓って言うが、俺から手は出してないし、ヤられたのもコイツが医者になってからだ」
    「僕が未熟なうちは絶対に断られると分かってたしね。まずは主治医からって感じで」
    「そんな、まずはお友達からみたいに……」
     じりじりとソファから立ち上がろうとするドクターTETSUを容赦なく譲介が引き留める。まぁ、譲介が楽しそうで良かった。
     折角淹れてくれたことだしと珈琲を啜っていると、ピリ、とピッチが鳴る音がした。思わずポケットに手を突っ込むが、そういえばここはアメリカだ。ドクターTETSUも咄嗟に胸ポケットに手を当てていたが、音の主は譲介だったらしい。
     Hi、と電話に出た譲介が立ち上がる。申し訳なさそうな目を向けられたので、気にしないでと手を振る。譲介がリビングを出て行ったことで、ドクターTETSUと二人で向かい合うことになってしまった。
    「……譲介とは、よく話すのか」
     リビングのドアがパタンと閉まったことを確認し、ドクターTETSUが話しかけてくる。友達の親と話しているような、妙な緊張感があった。
    「まぁ……お互い忙しいので、たまにメッセージ送るくらいですけど。近況報告ぐらいは……」
     もう一度ドクターTETSUがドアを振り返る。どうやら電話はすぐに終わらないようで、まだ譲介が戻ってくる気配は無かった。
    「誰か……あいつに、良い相手はいないのか」
    「良い相手、とは?」
    「だから……」
     気まずそうに逸らされる顔に、言いたいことを理解してしまった。つまりは、自分が逃げるために、譲介に他に「良い人」がいないのか聞いているのだ。決して二人の仲を応援したい訳ではないけど、その無責任さには腹が立つ。譲介の保護者から逃げ出した癖に、患者としても、生涯の伴侶としても逃げ出すのか。
    「……そんな怒るなよ」
    「何も言ってない」
    「顔がキレてんだって……そういう顔してっとKとそっくりだな」
    「俺はKAZUYAとは違う!」
    「わかったわかった」
     俺だって、本音を言えば譲介には別の人間を選んで欲しい。譲介の人生を振り回して、挙句よっぽどのことが無ければ譲介よりも大幅に早くこの世を去る人間だ。病が完治したって、生き物には寿命というものがある。何度も大事な人間に置いて行かれた譲介に、これ以上そんな思いをしてほしくない。
     ただ、譲介が選んだ以上は応援したい。積極的に口に出す訳じゃないけど、このことを村に帰って報告する時に、K先生を宥める役ぐらいはやってやる。そこまで俺が考えているのに、当の本人が逃げ腰なことに腹が立った。
    「一也……? 何怖い顔してんだ」
    「おかえり譲介。電話大丈夫だった?」
    「おう。明日対応で平気だ」
    「そっか」
     譲介が帰ってきたタイミングで座る位置をずらす。ぽんとソファを叩くと、譲介は不思議そうな顔で俺の隣りに座った。
    「なんだよ」
    「譲介の恋人について相談だ」
    「恋人……?」
     きょとん、と譲介が見上げてくる。てっきりドクターTETSUを気にするか照れるかと思ったのに、譲介は心当たりがないとばかりに首を傾げた。
    「ドクターTETSUと、付き合ってないの?」
    「あぁ……付き合っては無いし、恋人でもない。僕が勝手に好きなだけさ。逃げられないように、周りには恋人って紹介してるけど」
    「……健全じゃない」
    「分かってるよ」
     それが当然というように譲介は言うが、その顔には憂いがある。思わず眉間に皺を寄せてしまった。二人が納得して付き合っているなら応援しようと思ったが、こんな関係はお互いにとってよくないだろう。
    「分かってるなら……」
    「おい、一也。お前ははるばる米国まで僕に説教しに来たのか? その人の話がしたいならカルテを持ってくる。その方が建設的な話ができるだろ」
    「その話も後でしたいけど、今は譲介の話だ! そんな事情を聞いて、放っておけない」
    「病人相手に無体を働く僕を責めるのか?」
    「譲介なら無茶はさせないって信用してる。そうじゃなくて、俺は譲介を心配してるんだよ」
     ふぅと譲介が呆れたように溜息を吐く。譲介自身はもう気にしていないと言うけど、実の親と何度も別離を味わっている彼は、そのせいか執着心の割に諦めが早い。特に、人に対しては。あと少しでも手を伸ばせばと思ったことは少なくないが、譲介はその度に今のままで構わないとさっさとその場を後にしてしまうことが多かった。
     もういい年をした男性相手に言う言葉ではないかもしれないが、譲介が悲しむところは見たくない。
    「何が心配なんだ。好きな人が家にいて、身体だって許されてる。医者としても身を任せてくれているし、十分だろ」
    「でも……」
    「っだったら、どうすればいいんだ! 僕はその人以外を好きになれないし、その人は絶対に僕を好きにならない!」
     悲痛な声を上げた譲介がこちらを睨みつけてくる。初めて会った時とは随分違う、痛々しい顔だった。
     人の気持ちなんて動かせるものではないけど、ここまで想われていてどうして、と思わずにはいられない。つい非難するような思いで正面を向くと、ドクターTETSUが愕然とした顔をしていた。
    「……譲介、本当に付き合ってないの?」
    「そう言ってるだろ。傷は抉るもんじゃないぜ」
     言葉が出てこないのか、口をぱくぱくと動かしたドクターTETSUがあわあわと忙しなく両手を動かしている。半泣きで落ち込んでしまった譲介を慰めたいが、横に俺がいるから近寄れないらしい。
     何か言い分は? という気持ちを込めて視線を送ると、がっくりと肩を落として口を開いた。
    「……情けで抱かれてやるほど懐がデカいように見えるか?」
    「見えますよ。あなた変なところで情に厚いから」
    「特別、お前には目をかけてやっただろうが……」
    「保護者としてでしょう。恋人としてじゃない」
     ふんと譲介が顔をそむける。どうやら、譲介の中では何度も考えた答えらしい。
    「お前以外に、こんなに関わってる人間はいない」
    「そうでしょうね? あんたにとってのKは亡くなってますから」
    「っ面倒臭ぇな! 何つったら納得するんだ!」
    「別に、無理しなくていいですよ。恋人でもそうじゃなくても、あなたとの関係は変わらない」
    「べそべそ泣くから気になンだろうが……」
     すっかりイヤイヤ期の息子に振り回される父親と化したドクターTETSUが、遂にソファから立ち上がりこちらに寄ってきた。ソファの上で膝を抱えて丸まっている譲介の脇を掴み、猫のように持ち上げて伸ばす。
    「離せー!!」
    「暴れんなって。お前のガタイで暴れられちゃこっちがケガする」
     そう言いつつも軽々しく譲介を持ち上げ、そのままブゥンと横に振った。突然の遠心力に怯えた譲介がひっしとドクターTETSUにしがみつく。
    「可愛いもんだろ。コレが俺の旦那らしい」
     べったりとひっついた譲介をつつくドクターTETSUは、それなりに。付き合い立てのカップル程度には、浮かれた顔をしていた。
    「譲介、写真撮っておいたから後でK先生に報告しよう」
    「ゲェッおい、あいつには言うな。いや、言っても良いが写真は送るな!」
    「何でですか? 僕との関係を黒歴史にするつもりですか?」
     さっきまではしおらしくK先生には言わないと言っていた癖に、もう吹っ切れたのか譲介がドクターTETSUに迫る。ドクターTETSUは白い顔を青くしたり赤くしたりと忙しなく血管を収縮させた。
    「そんなの……いや、いい、分かった、もう好きにしろ。泣かれるよりマシだ」
    「えっ本当に良いんですか!? K先生に報告しますよ?」
    「給料三カ月分の指輪やるからそれ自慢してこい」
    「それは遠慮しますけど」
     ドクターTETSUの給料三カ月分なんて考えただけでも怖い。まさか断られると思ってなかったのか、ドクターTETSUが心外そうな顔をしているが、譲介は上機嫌でK先生へのメッセージを打っていた。
     疲れ切ったのか、どさりとドクターTETSUがソファへと再び身を沈める。譲介は時差があるにも関わらずすぐさま掛かってきた電話にしどろもどろで言い訳をしている。
     ドクターTETSUに良い顔をしなかったK先生のことだ。これからみっちり、譲介は本音を吐かされるだろう。
     すっかり冷めた珈琲を啜る。美味いと小さく呟く声に、これはドクターTETSUのためのものだったのかと理解した。
    「長生きしてくださいね。譲介のために」
    「……生きがいがある患者は死なねぇもんだ。医者でも驚くくらいな」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘☺💒💒💒💒💒🙏❤🙏🙏🙏💴💴💴💴💴💒💒💒💒💒☺✨💗😭😭🙏🙏🙏🙏💘💘☺💒💒💒💒💒👏💒💒❤❤❤❤❤💒💒💒💒💒💒💒💒💒💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works