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    subaccount3210

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    subaccount3210

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    すごくショモショモしているのでけけに片思いしているショモショモあきとくんの話を書きました。似たような話ばかりと言わないで。副題はいつものかわいそうなけけです。祟り屋やモブが出ていますがけあきのみです。

    ##K暁

    KKとエドとデイルの要するに大人の男組で山奥の村の怪異を調査しに行く事になった。予定では2泊3日。場合によっては延長もあるとのこと。
    本音を言えば着いていきたい。いくらKKが強くても心配には変わりないし、山の神は大体女性で同性に牙を剥くと言うなら僕は生物学的にも性自認的にも男だ。
    でもあの夜と違ってKKの魂のいない僕は適合者であることに変わりないが般若の実験を受けていない分エーテル能力は高いとは言えず、まだ社会人一年目の身で己の未熟さは痛いほど実感していた。そもそも社会人一年目なので盆正月忌引き病欠以外で急に連休なんて入れられない。
    頭ではわかっている。でも心が追いついていかない。
    僕が個人的に一方的にKKに恋をしているからだ。
    KKはノンケで離婚したけど奥さんも子どももいて、今も気持ちはそこにある。
    エドとデイルは完全な仕事仲間というかオジサン友達でお互いそういうのじゃないのもわかってる。
    KKにとって僕はたまたまあの夜に体に取り憑いただけの関係で、でも僕は一部だけど誰にも知られてない深いところを触れあって唯一無二の関係になれたと思っている。
    KKも今は弟子のような僕を相棒と時折呼んでくれて、そうすると身体の内側から力がわいてくる気がする。
    でもそれは僕の一方的な想いで、KKはそうじゃない。あそこまでじゃなくても僕の倍近く生きてるKKには色々な出会いと関係があるだろう。
    僕は僕が思ってるほど特別じゃない。
    わかっていても胸の奥が黒くドロドロと渦巻く。
    出発の前日に凛子さんに送信するデータ分析を頼み、絵梨佳ちゃんと麻里に自己練習で無茶するなよと言い、僕には何か言いかけて肩に手を置いて行ってくるとだけ言って背中を向けてしまった。
    気を付けてねと言った僕の態度は不自然じゃなかっただろうか。
    それも気になってその夜はなかなか寝付けなかった。

    KKがいなくても渋谷に朝はやって来るし僕には普通の仕事がある。意外と仕事は普通にこなせた。仕事はちょうど忙しく色々な人と話をする必要があるのでKKのことを考えずに済んだのが良かった。むしろいつもより良かったらしく上司に良いことがあったのかと言われ残業は必要ないぞと言われた。
    それでしょうがなく家に帰る。喧騒そのものの街は僕とKKが守り抜いた称号のような気がして誇りだったのに今は煩わしかった。
    麻里から『凛子さんに見てもらって絵梨佳ちゃんと自主練する』と連絡が来た。無茶するなよと返してKKから連絡がないのを確認する。
    凛子さんには連絡があるだろう。当たり前だ。仕事なんだから。
    馬鹿みたいな嫉妬を笑って流せたら良かったのに、誰かに相談できるわけもない。万が一KKの耳に入ったら今の関係さえ壊れてしまう。そうしたら僕にはもう何もない。
    いや、麻里がいるじゃないかと思い直す。麻里が成人して自立するまでは。結婚するかもしれないししないかもしれないしそんなのはどっちでも良いんだけど。
    離れて暮らそうと言われたら。
    その後僕は何を道標に生きていったらいいんだろう。
    今までただ父さんと母さんが死んだことを平気な振りをしてモラトリアムに浸って麻里を助けることだけであの夜を戦った。その後にみっともなくても生きると決めて、でも生きることだけを目標にしてもそれはただのハリボテでしかなかった。祓い屋業を手伝って、KKに守られながらだけど命を賭けて戦っている時だけが生きているのだと実感できる。そんな気さえした。
    追加で夜ご飯は三人で食べると言うので女郎でも寄ろうと暖簾をくぐると異様な黒づくめの三人組がカウンターに並んでいた。
    「……隣いいですか?」
    一応お伺いをたてると多分弓使いの人がちょっとずれてくれる。礼を言って座りいつもの注文をすると真ん中の多分リーダーの人が反応した。
    『大食漢なのだな』
    「燃費が悪いらしくて……今日は帽子?外してるんですね」
    『カウンター席だと邪魔になるからね』
    弓の人が答えてくれるけどその衣装はいいんだろうか。店員も他の客も何も気にしてないっぽいのでいいのだろう。
    三人が熱心に半分ほどになった山を崩している。口が見えないのに減っているのが不思議だけどやっぱり誰も気にしていない。そうしているうちに僕の分が出された。
    「いただきます」
    手を合わせてまずは前菜であるもやしを箸とレンゲで掴み上げる。
    これ系のラーメンを食べる時のルーチンワークは決まっていて、それ通りに行動するのもすごく気持ちを落ち着かせる。無心になって食べることはいい。戦闘でいいのをもらった時も食べると動揺が収まった。
    隣で息をのむ気配がした気がするけど僕は気にせずいつも通りの時間で完食した。戦闘に負けず劣らずの達成感がそこにはある。
    食べ終えたらしくお腹をさする弓の人ともうすぐ食べ終わるけど水をお替りしている棒の人とまだ四分の一ほどある印の人を見る。
    「……良かったらいくらか食べましょうか?」
    その時、祟り屋界に衝撃が走った。
    というのは冗談として蜘蛛の糸でも一切感情を動かさなかった印の人が良いのかと尋ねてくる。
    「いいですよ、デサート辞めれば入りますし、知り合いのもよくこうしてるんで」
    『デザート……?』
    初めて聞くような言い方を棒の人がしたけれど気にせず弓の人を挟んで印の人の麺をもらう。
    感染症とか衛生面とか気にする人は気にするのも当然だけどこのヒトたちそもそもヒトかどうかも怪しいけどそういうのなさそうだもんな。
    二度目のごちそうさまをして、なんと印の人に奢ってもらって揃って店を出た。火照った身体に夜風が気持ちいい。
    「こういうところに来るとは思いませんでした」
    なんとなく離れがたく思ってしまって話しかけるといつの間にか笠?を被った弓の人が頷いた。
    『印さんが食べてみたいって初めて来たんだよ。おいしかったけど偉い目にあったね』
    「そうですか」
    KKはこの年になるともう無理とか言っていたなと思い出す。彼らの年齢はわからないが特に印の人が若くないのは容易に想像できる。
    『祓い屋の旦那は不在なんだね』
    「何でそう思うんですか」
    引っかけかもしれないので一応はっきりとは言わないでおく。僕も少し知恵がついた。すると棒の人が僕とKKの魂の繋がりがいつもより細いのだと教えてくれた。弱まっているのではなく物理的に距離がある細まりかただそうだ。
    僕にはもう魂の繋がりすら見えないのでちょっとだけホッとする。KKは見えているのかな。
    『それに……いや、いいや』
    「えっ!?」
    『馬に蹴られたくないし。ところでこの後ヒマ? ちょっと手伝ってほしいんだけど』
    『仕事ではない』
    弓の人の突然の勧誘に棒の人が即座にフォローを入れる。KKに強く牽制されているのを律儀に守ってくれているので祟ることはともかくやっぱりこの人たちをあまり嫌いにはなれなかった。
    「さっきのラーメンみたいなことですか?」
    印の人が頷く。それならばと僕は雑踏の中を平然と歩く彼らについて行った。

    朝起きたら鬼電の通知があった。一昨日寝れなかった分昨日は熟睡してしまって全然気が付かなかった。幸い寝坊したわけでもないし折り返す時間くらいある。ワンコールで繋がるとKKの怒鳴り声が聞こえてきて僕は咄嗟にスマホをベッドに放り投げた。
    「な、なに!?」
    『何はコッチのセリフだオマエあれだけアイツらとは関わるなっつっただろうが!!!』
    昨日の祟り屋さんたちのことを言っているとすぐにわかったけれどどこで知ったんだろう。SNSに上げるほど馬鹿じゃないしそれは向こうもそうだろう。
    すると僕の心を読んだのかKKが麻里からプリクラの画像が送られてきたと責めるように言ってきた。
    「麻里がわざわざ連絡したの!? 何で!?」
    混乱する僕に当たり前だろうがとKKが偉そう言うので僕はイラッとした。目の前にいれば表情や仕草で内情がいくらかわかったかもしれないけど通話だとそうはいかないし何よりもボディバッグから見えたのかもしれないけど勝手にKKに告げ口した麻里にも腹が立った。
    「何で一日連絡してこなかったKKにオレの私生活を監視されなきゃならないんだよ! 大体祟り屋の人たちとはラーメン食べてプリクラ撮っただけだし、今回のことは貸し借り無しって話になったからKKには関係ないだろ!」
    『アイツらが約束守るわけねえだろ!』
    「じゃああんたは守るのかよ!?」
    アジトのキッチンに洗い物をためないとか脱いだ服は洗濯機に入れるとか煙草を吸う時は空気清浄機をつけるとか。僕が一方的に言ったことかもしれないし、KKも生返事だったかもしれないし、ちゃんとしてくれる時もあるけど。
    『それとこれとは』
    「KKの付き合いとあの人たちとの付き合いも別だから。 用事がそれだけなら遅刻するから切るよ」
    返事を待たずに赤いアイコンをタップする。
    別に僕に調査報告をしたって何かできるわけじゃない。ただの弟子なんだから生存報告も必要ない。祟り屋のことだって僕を心配してるわけじゃなくて彼らが気に喰わないだけだ。
    わかってるけど何もかも否定された気分だ。
    その日の仕事は最悪の一言で上司に心配されてしまった。
    私生活を持ち込んでしまうなんて社会人失格だ。反省するしかできない僕に上司はそんなことは社会人十年目の俺にもあると笑って金曜だし飲みに行くかと誘ってくれた。
    了承の代わりに奥さんは大丈夫ですかと問うと
    「普通の飲み屋だし終電には帰るから大丈夫だ。 それにその分日曜には自由に過ごしてもらう約束になってるんだ」
    「いい夫婦関係ですね」
    僕は心からそう言った。僕とKKには無理だ。どうやったらそういう風になれるかも全然思いつかない。
    上司は食事もガッツリ食べられる居酒屋に連れて来てくれた。安くて美味い店なので奢りでいいと言ってくれたが丁重にお断りしてその代わり遠慮なく注文させてもらうことにした。
    「伊月は食べ盛りだな」
    「もう23ですけど」
    笑って串に齧りつく。何気ない話をして自然な流れて恋人とでも喧嘩したかと聞かれた。
    「僕の片思いです……元々見込みないんですけど、決定打みたいな」
    そうかと首を縦に振った上司はそれ以上聞かずに今後の仕事の話を語ってくれた。アルコールも入っていたので多少夢物語な感じはあったけれど希望に満ちていて楽しかった。
    祓い屋を辞めて普通の人間に戻るのもいいな、と僕は思った。最初にKKに提示された道だった。宮司さんが作ったお守りを肌身離さず持っていれば適合者としての能力をかなり封じられるらしい。それを蹴ったのは僕と麻里で、麻里まで引き離すつもりはないから完全に断ち切ることは不可能だけれどそもそも麻里も護身のための力を身につけるだけで体質的に戦うのは向いてないだろうということだった。
    「お前は人の話をちゃんと聞けて、自分の意見も言えて、向上心があるから絶対に伸びる。 相手のことを知らないが他にもいい人に出会う機会は必ずある。 今辛い気持ちを否定するつもりはないがあまり思いつめるなよ」
    ありがとうございますと素直に言うとこっちこそ説教しちゃって悪かったなと返された。
    こういう人を好きになれたら良かったのにな。お酒がめちゃくちゃ弱いけど。
    家まで送り届けて麻里にはちゃんと説明をして明日は休みなのをいいことにスマホの電源を切って寝た。

    鬼のようなピンポンで目が覚めた。近所迷惑だ。ベッドから起き上がってスマホを探すけど見当たらない。充電してなかったっけ。二日酔いではないがアルコールが残ってる気もして頭が働かない。
    リビングに出るとまだピンポン連打が続いていたがテーブルを確認すると補習に行ってきますとメモがあった。つまり僕が応対するしかない。音を立てず息を吐きながら覗き穴を見る。予想通りKKだ。短い髪はいつも以上にぼさぼさで無精ヒゲは濃く目の下もクマがあり顔色も疲れが隠せてない。タクティカルジャケットも泥やら葉っぱやらでとても人前に出られる状態じゃない。グラップルとグライドを使って文字通り飛んできたんだろうか。何のために?
    こちらの気配に気づいたのだろう。ピンポンが止まった。暁人、と低い声。
    「開けろ」
    「嫌だ」
    「こないだのことはオレが悪かった。 事情があったんだ。 話がしたい」
    外見や通話と違って非常に落ち着いた様子だ。頭が冷えたのかもしれない。
    そんな希望は持たない。
    「あんたはKKじゃない」
    KKの形をしていた何かがドロリとチョコレーとみたいに溶けた。
    何故、とそれが問う。僕は勘としか答えられない。いや、ちょっと違う。
    「KKが近くいると何か感じる気がするんだ。 ものすごく薄くてはっきりとはわからないけど……あんたにはそれがない」
    こいつのお陰でそれに気づいた。あれが魂の繋がりなのかもしれない。最初からあったから気づかなかったんだ。
    『おれとそうなろう』
    何かが僕を誘う。なるほどそういう怪異かと僕は納得する。きっと今KKたちが対峙しているのがそれで何故かその残滓が僕のところまで飛んできてしまったのだろう。
    ドアを開けて祓うことはできなくはないと思う。でもそのタイミングがわからない。今やってしまっていいのか?待つべきなのか?スマホの電源を切るべきじゃなかった。
    『おまえはおちたいのだろう』
    生きてるんじゃなくて堕ちているだけ。そんな風に言ってたのは麻里だっただろうか。
    『いっしょにおちよう』
    それは麻里の声にもKKの声にも祟り屋たちの声にも上司の声にも聞こえた。
    吐き出せ、と何かが命じる。鉄の扉ごしにもそれは僕の魂を震わせる。
    「僕は僕自身がついていけないのもわかってるし、KKに行ってほしくないわけでもない。せっかく生き返ったんだからKKの自由に生きてほしい。奥さんたちとやり直せたらいいと思う。嘘じゃない。でもダメなんだ。KKが僕を置いて渋谷を出て行ってしまう度に僕は独りなんだって思ってしまって目の前が真っ暗になって動くのが怖くなってしまう。死が真後ろにあっていつでも選べるんだって思い出してしまう。父さんや母さんがダメだって言ってるのはわかってるけどそれ以上に僕の中の昏い気持ちが僕をそっちへ引っ張っていくんだ」
    祟り屋たちは何も言わなかったけれど僕がそっちになりたいと言ったら受け入れてくれるだろう。上司の夢物語も完全に実現するのは難しくても嘘をついてたわけじゃない。麻里は僕を心配しているだけだ。
    KKは僕のことをどう思っているんだろう。
    『それはコイツがいなくなったらにさせてくれ』
    はっきりとしたKKの声が扉の向こうでして、化け物の断末魔が地鳴りと共に響き渡る。近所迷惑ってレベルじゃなくて霊感のない人は気づかなかったらいいなぁなんて呑気なことを考えながら耳を塞ぎしゃがみ込む。ものの数秒で辺りは静まり返った。終わりはいつもあっけない。僕とKKの関係もきっとそうだろう。
    『オマエは何でそう……』
    まだKKの声が聞こえる。でもドアの外にはいない。
    『……時間をかけてじっくりやるつもりだったが止めだ。 帰ったら覚悟しておけよ』
    段々と薄れていく声で恐ろしいことを言っていた気がするけど気のせい……じゃないよね。
    良いことなのか悪いことなのか全くわからないけれどやっぱり僕が何かをしたところで何も変わらないだろう。
    「とりあえず二度寝しよう」
    麻里のために美味しい魚料理は用意しないとな。KKの分も一応数に入れておこうか。
    床に転がっていたスマホのアラームをセットして僕はベッドにもぐりこんだ。
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    Replies from the creator

    recommended works

    takeke_919

    DONE #毎月25日はK暁デー
    素敵タグにギリギリ間に合いました💦
    お題は「おはよう」
    Kは成仏したのではなく、暁の中で眠りに付いたという説を添えて。
    毛色の違う話が書きたいなぁと思い至ったまでは良いものの、毎度のことながらお題に添えているかは迷走してます🤣
    目醒めの言の葉 東京の街を覆っていた濃く暗い霧は晴れ、東の空からは眩い光を放つ日輪が顔を覗かせている。

     幾重にも連立する朱鳥居を潜り、石燈籠の淡く揺らめく灯りに照らされた石階段を登る暁人の胸中には全てを終わらせた事による達成感と、追い求めた者を失ってしまった喪失感。そして、自身の中に宿る男への寂寥感が入り混じっていた。男の悲願は達成され、その魂が刻一刻と眠りに就こうとしているのを肌身に感じる。

     本当に独りぼっちになってしまう。

     そうは思うものの、妹に、両親に誓った。泣いても、みっともなくても生きていくのだと。次に会うのは、最後の最後まで生き抜いた、その後なのだと。

     一歩一歩、階段を登る最中にKKから彼の妻子に向けての言伝を預かった。『最後まで、あきらめずに生き抜いた』と、そう語られた言葉は、彼の想いが沢山、たくさん詰まった大切なモノだ。何があっても絶対に伝えなくてはと、しかと心に刻み込んだ。
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    na2me84

    DOODLE #毎月25日はK暁デー
    参加させていただきました。お題は『匂い』
    厭世的で嫌煙家の暁人くんのお話。
    sensory adaptation 雨の夜が明け家族とも一夜の相棒とも別れて、僕は日常に戻ってきた。妹を取り戻すことは出来なかったから、今までと全く同じという訳にはいかないだろうけれど、とにかく僕は一人生き残ったわけだ。それに意味があるかはまだ分からない。それでも、とりあえず僕がやらなければいけない事がまだ残っている。向こうで両親と共に旅立つのを見送った妹の現世での抜け殻に病院で対面し、身体も両親の元へと送り出した。その日は青空にふわりと薄い雲が浮かぶ、良く晴れた日だった。この世のしがらみを全て捨てて軽くなった妹は、きっと両親と共に穏やかに笑っているだろう。そうであって欲しい。

     追われるように過ごした日々が終わってふと気が付くと、これからどう生きていけばいいのかすら何も考えつかなくて、自分が空っぽになったように感じた。ほとんど物の無い空虚な部屋を見回して、置きっぱなしになっていたパスケースに目が止まる。すっかり忘れていた。あの夜の相棒の形見、最期に託された家族への伝言。これを片付けなくては。彼とは出会いから最悪で途中も色々あったが、最終的にはその関係は悪くなかったと思う。結局のところ、僕にとっても彼にとっても失うものばかりで、得るものの少ない結果だったとしても。
    5680

    りんご

    DONEまじない、あるいは、のろい (ここまで読みがな)
    K暁デー「スーツ」
    お題的なこともあって結婚と葬送の話をどっちも書きたかっただけです。あっきーがバカ重い感じですが、その環境ゆえにうまく隠すことがうまかっただけで彼の本質はこうだろうなーとか思ったり。いつものごとく二人で喧嘩して、戦って、駆け抜ける話です。
    中の人本当にありがとうございました、お陰で細々と楽しくK暁を追いかけられました。
    呪い短くも長くもない人生を振り返るにあたり、その基準点は節目にある行事がほとんどだろう。かくいうKKも、自らのライフイベントがどうだったかを思い出しながら目の前の光景と類比させる。
    準備が整ったと思って、かつての自分は彼女に小さな箱を差し出した。元号さえ変わった今ではおとぎ話のようなものかもしれないが、それでもあの頃のKKは『給与三ヵ月分』の呪文を信じていたし、実際差し出した相手はうまく魔法にかかってくれたのだ。ここから始めていく。そのために、ここにいる隣の存在をずっと大事にしよう。そうして誓いまで交わして。
    まじないというのは古今東西、例外なく『有限』である。
    呪文の効力は時の流れに飲まれて薄れてゆき、魔法は解け、誓いは破られた。同じくしてまさか、まじないの根本に触れることになるだなんて思わなかった、ところまで回想していた意識を、誰かに強い力で引き戻される。
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