晴れた日にはデートだろ!「…あ、」
「どうかしたか?」
久しぶりに重なった休日。昨夜からハーマンが訪れていた。今日はお互い特に予定もなく、日付けを跨ぐまで熱を分かち合った、少しだけ気怠い朝。
窓辺で新聞を読んでいたハーマンに自分の分のついでと珈琲を淹れてやれば誌面から目を離してありがとうと顔をあげるなりさっきの一言。なんだろうか、自分の顔になんかついてるのか?
頬に手をあてれば違う違うと笑いだした。いったいどうしたと言うのだろうか。
「ほら、今日は晴れてるだろ?」
「?そうだな、」
晴れてるからどうしたと言うのか、まったく見当もつかなくて首を傾げれば可笑しそうに笑っている。本当になんだと言うのか。
「いや、覚えてないならいいんだ。」
「おれが良くない。」
「まぁ、気にするな。大したことじゃない。」
じゃあ、言うなと返せば笑って誤魔化そうとするのだ。この男はそう言うところがある。
「それより、これから出掛けないか?」
「まぁ、別に構わないが…」
「じゃあ、決まりだな。」
久しぶりのデートだなーと鼻歌まじりに機嫌良く洗面所に消えていく背中に上手くはぐらかされた気がするが重要なことでもないみたいだし、まぁいいだろう。
用事もないし、たまには二人で出掛けるのも確かに悪くない。
◻︎ ◼︎ ◻︎ ◼︎
荒野を走る一台のバギー。
車で行くと言ったからすぐ近くだと思っていたのだが、もう既に二時間以上は車に乗っている。昨日酷使した腰が少し悲鳴をあげた。
ー・・・そんなに遠いならゾイドに乗れば良かったんじゃないか?
まぁ、たまにはドライブも悪くないけれど、昼飯にと買ったサンドウィッチにかじりつく。自分はともかく大喰いのハーマンがこれだけで足りる気がしないなんて思いながら、多分気づいてないだろう口の端についたままのソースを親指で拭ってやる。
いったい何処に行こうと言うのかシュバルツには検討もつかないが、一応ハーマンの中では行先は決まっているらしい。
指についたソースを拭き取るか少し迷って、舐め取れば口の中に広がる濃厚なトマトソース、香辛料がピリリと舌を刺激する。
(…こっちでも美味かったな)
車の助手席、運転するハーマンの鼻唄をBGMに窓の外を流れる景色をみていれば見慣れた景色が近づいてくる。
其処は二週間前まで拠点にしていた基地から近い貿易都市で基地から近かったこともあり補給やら休暇を過ごしたりと何度か訪れた街だ。
街中を少し外れたところで停まる車。どこか見覚えがある場所。車から降りれば遠くからささやかではあるが聞こえてくる軽快な音楽。
(もしかしてこれは…)
入り組んだ街中、迷路のように細い路地を迷わず進むハーマンの背中を追う。少し歩けば、開けた場所へと出た。
「…やっぱり!」
「思い出したか?」
「前通りかかった時に行ってみたいと言っていただろう?」
クスクスとイタズラが成功した子供のように笑うハーマン。
二人の目の前には視界いっぱいにひしめく出店の数々。三ヶ月に一度、晴れた時にしかやっていないその祭。前回も偶然休みが重なって行こうと言っていたのだが生憎の雨で中止になり行けなかったそれ。
盗品やら、裏ルートから流れてきた表ではなかなか目に出来ないパーツを取り扱う店もあるらしいと聞きつけて純粋に見に行ってみたいと思っていたのだ。
「前回が中止になったからな。掘り出し物がたくさんあるかもな!」
無邪気に笑うハーマンに込み上げてくる思い。
(あぁ!…もう、この男は!)
サプライズにひかかって悔しいやら恥ずかしいやら、嬉しいやら…赤くなった顔を見られたくなくて額をハーマンの背中に押し付けるシュバルツだった。