call my name(家で書類なんか見るもんじゃないな…)
面白みもない文字の羅列に頭が痛くなってくる。目頭を揉み込んでいれば、くいっと控えめな力で引かれた服の端、振り向けば先程まで少し離れたソファーにいた筈のシュバルツが立っていた。
新聞を眺める真剣な顔に邪魔をしては悪いと思い、ダイニングテーブルで持ち帰っていた書類に目を通していたのだが、新聞はもう読み終わったのだろうか。肩に手をおいて、ハーマンの手元を覗き込んでくる。機密情報は持ち出しなど出来ないので見られて困る書類などこの場にある筈はなく、シュバルツが見やすいように傾けてやる。サッと適当に目を通し、確認が終わったのか、こちらを伺うようにシュバルツが口を開く。
「……急ぎか?」
「いや、時間潰しだ。」
そう言って、テーブルの上に用無しになった書類を放れば、書類の代わりにシュバルツが手中に収まる。支えるように細腰に腕をまわせば、甘えるように肩に重みがかかる。男二人分の体重にダイニングチェアがなさけない悲鳴をあげているが壊れたらその時はもっと丈夫なものに換えるだけだ。耳元に寄せられた唇から吐息混じりの言葉が注がれる。
「…なぁロブ、」
ファーストネームを呼ぶのはお誘いの合図。明日、明後日と二人共非番。けれどシュバルツは任務明けでそのままハーマンのところへ訪れてきた状態。
(疲れてるんじゃないか?)
「いいのか?」
こくりと頷いて、そっと目を閉じると小ぶりな唇を突き出してくる。口づけを所望する愛らしいアピールに思わず頬が弛んでしまう。
相好を崩して柔く重ねれば、誘うように薄く唇が開く。招かれるままに口内へ入れば、舌が迎えてくれる。堪らずに小さな舌を絡め取ってシュバルツの口内を堪能する。
「んっ、…ふ」
きつく閉じられ瞼に、目尻を仄かに染める朱の色。きっちりと着こまれた軍服の前を弛めて、隙間から掌を忍ばせる。滑らかな肌の感触を楽しみつつ、上へとすべらせて胸を包み込めば甘い息を吐き出して身体を震わせる。
シュバルツの反応に気をよくして、シャツを捲りあげ露わになった胸の頂きへと口づける。空いてる手で肩から軍服を落とせば、容易く床へと吸い込まれていく。
「ひッ、…ぁ」
快楽を逃すように掻き抱かれる頭は少し痛いが加減をするだけの余裕がないのだと思えば愛おしくなる。空気を読まないダイニングチェアが鈍い音で甘い雰囲気に水をさす。
「……カール、ベッドに行かないか?」
「ん、ロブ…」
連れてけと言わんばかりに手を広げるポーズに目尻を綻ばせて抱きあげる。
耐荷重以上を支えた健気なダイニングチェアは買い替えなくてならなさそうだった。