「ん?」
シャワーを浴びて、濡れ髪の水分をタオルで拭き取っていると、部屋に響く来客を告げるブザー音。
残念ながら家主はシュバルツと入れ替わりでバスルームへ入った為、当分出てきそうにはない。もちろん2人の関係は秘密にしているので中継ぎは申し訳ないが出来ない。
だれが来たかくらいはあとで教えてやろうとモニターをみればそこには見知った顔がいた。
(とーま?)
トーマに思わず、モニターの応答ボタンをおしてしまう。弟のトーマは、シュバルツとハーマンの関係を知っているのだから問題はないだろう。
「トーマか、どうした?」
「あれ?兄さんもこちらにいたんですね。」
「少し待ってろ。」
ハーマンに聞きたいことがあるとのことだったので、そろそろ出てくる頃合いだろうと部屋に入れてやることにした。
バスルームに声を掛ければ了承の意が返ってくる。
さすがに上裸で出てこられても困るので適当なTシャツを既に置いてあった着替えの上に置いてやる。ふと姿見に映った自分の服装に、どうしようかと迷ったがハーマンのズボンを借りてもウエストは余るし、裾を引き摺る。
どうせ家でも似たような格好でうろうろしているので構わないだろうとそのまま出ることにした。
扉を開けて中へ招き入れる。
適当に飲み物を二人分淹れてソファーで向かい合って座る。たまには可愛い弟とゆっくり談笑するのも悪くはない。
◻︎ ◼︎ ◻︎
風呂から上がってギョッとした。恋人が弟とはいえ、所謂彼シャツ一枚の姿で男と楽しそうに話しているのだ。
なかなか扇情的な姿であるが、恥ずかしくはないのだろうか?まぁ、二人とも恥ずかしいなどと微塵も思ってないからこのような事態が成立しているのだろう。
「悪いトーマ、待たせたな。」
「いえ、全然!」
目のやり場に困って、そこらへんに投げてあったブランケットを腰回りにかけてやる。これで少しは露出が抑えられるだろう。
隣に腰を掛けるのもどうかと迷い、椅子をひいて持ってくる。
肌寒かったのか素直に渡したブランケットに包まるシュバルツを視界の端に留めて、トーマの話を聞くが殆どシュバルツが答えてしまうし、ただ兄の艶姿を見に来たのではとすら思えてしまうから惚れた欲目とは恐ろしい。
これからフィーネさんのところへ行くんです!って満面の笑みでトーマが足取り軽く退室していかなければ、いらぬ嫉妬に身を窶してしまうところだった。
ちなみにブランケットは肩から掛けなおしていたのでなんの目隠しにもなっていなかったことを補足しておく。