(アーバイン視点のロブカ)
「ふぅ、今日は暑いな…」
「なぁ、ハーマン…暑いからよぉ、上脱いでもいいか??」
「まぁ、煩いオコーネルもいないし、あとは片付けで終わりだからな構わんぞ。」
こういった時軍属は大変だな、脱ぐのも上官の許可がいるのか、と頬を垂れてきた汗を腕で拭う。残念ながら俺はそもそも脱げる服はないので我慢をするしかない。
燦々と太陽が照らす中、今日は共和国、帝国合同演習に参加していた。
戦闘訓練は思う様にゾイドに乗れるし、戦闘と違い命のリスクも少ない、次はどのような作戦でいこうかなど試行錯誤をするのも正直言うと楽しい。堅苦しそうな軍属など真っ平御免だが、演習に誘われたら参加するくらいには好きだ。
バンは上裸になって汗をタオルで拭っている。その光景を少し羨ましく思いながら、水を煽る。ふと視界の端に映ったものにギョッとした。
思わず吹き出しそうになったが寸でのところで堪えた。水も貴重品だからな。
上裸の男共が並び立つムサ苦しい視界、まぁそれは良しとしよう。ハーマンもムサ苦しい漢代表の名に恥じぬよう、見事に鍛えられた上半身を晒していた。
その背中にくっきりとついた爪痕。
明らかな情事の痕跡に気づいた兵士が騒ついている。気づいてないのはハーマン本人とその周りにいる奴らくらいだろう。一応気を使っているのかバンが耳打ちしてくる。
「なぁ、アーバイン?ハーマンの背中にあると小さく見えるけどよ…あの手形って…」
変なところで感のいいバンはいらないことに気づいてしまったようだ。
「結構大きいよな?あんなでけー手の女いるのかぁ?」
核心にはまだ気づいてないようでよかった。バンに説明するのは正直面倒くさい。
(そりゃあ、シュバルツの手だろうから女よりは大きいだろうよ…)
「おーい、ハーマン!ちょっといいか??」
「おぉ、どうした?」
「んーと、ここがこんなで、こっちが…まァ…」
「ん?」
こんなもんかとハーマンの背中についた手形に指を置いていく。気になったらすぐ確認をすることは悪くないが今ではない。
「すげぇ!!おれより大きいぜ!?」
(あー・・・、あいつやっちまったな・・・)
好奇心旺盛なのはいいが困ったもんだ。ハーマンは漸くバンや周りが何で騒いでいるのか理解したのか頬を引き攣らせている。
「あ、バンそろそろ上を着てもいいかな?」
「おーいトーマ!おまえもやってみろよ!」
「あ、こら、トーマを呼ぶな!」
そこからは昔、妹に読んでやった御伽噺のガラスの靴よろしく自分の手形じゃないわと便乗した奴らが愉しそうに代わる代わる手を置いていく。誰の手か分かっても何も得などしないどころか、万が一分かった場合どうする気なんだろうあの馬鹿は。
シュバルツがこの場にいなくて本当に良かった。
「どうした?騒がしいな。」
(来ちまったよ!)
「あ、シュバルツ!ちょうどよかった。」
ハーマンの背中を指差してバンがあーだこーだとシュバルツにことの経緯を説明している。ハーマンは怒られるかもしれないと焦っているのか慌てて上を羽織ろうとするがバンが阻止する。可哀想に
「…ほう、確かにすごいな。」
シュバルツはそう言うなり、ハーマンの背中の痕を一筋、指でなぞる。
(お、意外と怒らないんだな…)
「ぃ、いやはや、お見苦しいものを…いっ、〜ッッ」
シュバルツは背中の跡でも一番傷が深そうな箇所へ思い切り爪を立てた。油断させての一撃、見ているだけでも痛そうだ。
「馬鹿が!上官ともあろうものが率先して風紀を乱してどうする!」
「わ、悪かった!忘れてたんだ、本当に!」
(やはり怒られたか…)
「忘れてたじゃない!お前たちもな、肝に命じておけ!」
この馬鹿、借りるぞ!と耳を摘みあげられハーマンは攫われていった。あの体格差でも易々と引き摺っていけるのは流石だなぁとか、お互い様なのでは?とか色々思ったが仲裁に入るほどのことではない。
この場で事情も知っていて、なおかつシュバルツを宥められるのは俺しかいないので、縋るような助けを求める視線がうざったいが俺も馬に蹴られくないので顔を逸らす。
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うだろう。
しかし俺も鬼ではないので、せめてハーマンが無事で帰れることを祈ってやろうと思った。