今日はバレンタインデー
軍部内とは言え、共和国と帝国の戦争が終結した今は目立った戦闘はなく至って平和な日々が続いており、バレンタインはやはりどこか浮足たっている。
昼間にはバンがフィーネからチョコを貰ったらしくトーマが悔しそうな顔をしていた。ちなみにバンは愛と同じくらい塩たっぷりのフィーネ特製チョコのおかげで今は医務室だ。
当たりハズレがあるが義理にしても本命にしても好意を寄せられると言うのはやはり嬉しいものだ。チョコを貰えることが嬉しくない男はいないだろう。
バレンタインチョコの数は人気のバロメーターと言っても過言ではない。男たちは好きなあの子から、或いは何個貰えるかとそわそわしている。
そしてここにもバレンタインに踊らされている男がいた。共和国軍作戦指令ロブ・ハーマン大佐だ。大佐という地位まで昇りつめたハーマンは、ここ数年貰う量が軍内部で大分増えた。近年では、帝国軍の女性兵からも貰えるようになった。おまけに大統領の御子息でもあるハーマンは政界を始めとする様々なところから貰っている。
しかし、そんな男共が羨むくらいバレンタインチョコを貰うハーマンが狙うはただ1つ。好きな人、いや恋人からのチョコレートだ。
ちなみにハーマン、可哀想なことに毎年貰えていない。今年こそは愛のこもったバレンタインチョコを是が非でも戴きたい。とハーマンは1人意気込んでいた。
ちなみにハーマンの恋人はカール・リヒテン・シュバルツ。ハニーブロンドの髪にエメラルドのように美しい瞳が特徴的な……男だ。
ハーマンが毎年シュバルツから貰えないのはシュバルツが男と言うこともあるかもしれないが。そもそもが、シュバルツにバレンタインという意識があるかどうかも怪しいものだ。ぶっちゃけ、シュバルツはモテる。
もちろん今日もたくさんのチョコレートを受け取っていることだろう。紳士的な彼は基本貰ったものは全て受け取る。バレンタインでも、バレンタインでなくても、だ。
その証拠にさっきからシュバルツがハーマンの部屋に袋いっぱいチョコを持ってきては出て行くを繰り返している。もちろんシュバルツからハーマンへの贈り物ではないのが悲しいところだ。
何故シュバルツがハーマンの部屋に出入りしているかと言えば、この基地は元は共和国軍の管轄であり帝国軍の大佐であるシュバルツの部屋はないわけではないのだが、来賓用に作られた部屋を改装したので位置的にも使い勝手が悪く、シュバルツはこの基地にくると当たり前のようにハーマンの部屋を利用していた。
ルイーズ大統領からの直々の使命でガーディアンフォースのお守りで今回はバレンタインとホワイトデーを含む約1ヶ月間滞在である。ハーマンは母親の粋な計らいに感謝した。
毎年貰えずに沈んでいる息子が哀れだったのだろう。大統領も大概親バカである。
貰えないのは何だかんだ毎年バレンタイン当日に一緒にいれないことも一因だろうなんてハーマンは安易に考えていた。その点今年はばっちり、同じ基地どころか同じ部屋にいる。もちろんシュバルツへのプレゼントだってしっかりと準備してある。デスクの引き出しに用意したアクセサリーはきっと彼に似合うだろう。
後は、愛しのシュバルツから愛情たっぷりのチョコレートを受け取るだけ!いつでも心の準備は万端と意気込んでいるハーマンを後目に自室に溜まっていくプレゼントの山、山、山。一向にチョコをくれる素振りのないシュバルツに流石のハーマンも沈んできた。
ちなみにシュバルツは、やっとバレンタイン攻撃が一段落したのか部屋に戻ってきていた。今はハーマンがいれた珈琲を片手に貰ったチョコレートを美味しそうに摘んでいる。
恨めしげに目をやれば視線に気づいたシュバルツは、ハーマンの心なんて知るはずもなく、どうした?と言わんばかりに首を傾げた。
トリュフでも食べていたのだろうか、視線はそのままに指に付いたココアパウダーを舐めとる仕草は愛らしい。
あぁ、もうっ!可愛いな!
いっそのことバレンタインにかこつけてチョコの代わりにシュバルツを食べてしまいたい!なんて、ハーマンが変態くさいことを考えてれば、いつの間にか近くにきてたシュバルツが指を差し出してきた。男にしては綺麗な指に挟まれているのは指に負けないくらい真っ白なトリュフ。
今度はハーマンがどうした?と首を傾げれば照れたように視線一巡してから頬を紅く染めシュバルツがあーん。と言いながらなおもトリュフを差し出してくる。
なかなか食べないハーマンに不満げに唇を尖らせるから機嫌を損ねてはいけないと慌てて口を開けば、溶けかけたトリュフをねじりこまれた。
自分の指に付いたチョコを舐めとりながら美味いだろ?と満足げに微笑むシュバルツが可愛くて、もう今年はこれでいいかな、なんて絆されてしまうんだから仕方ない。
もう1つ。と口を開ければ素直に差し出してきた指ごと口に含める。紅い顔を更に紅く染めて、慌ててひき抜いて逃げようとするから、逃がすまいと腕をひいて自分の方へ倒れてきたシュバルツを抱き止める。
暫くは恥ずかしいのか逃れようと暴れていたシュバルツだったが諦めたのかハーマンの肩に顔を埋めて背中に手をまわしてきた。
そんな可愛らしいシュバルツの反応に鼻の下を延ばしながら、来年こそはシュバルツからのチョコを貰おう…なんて思いながら真っ赤に染まる恋人を更に抱き締めた。
取りあえず、今年はこの鈍感な恋人に如何にしてバレンタインを教えてあげようか?