こんな夜に松永天馬を見たせいです「メガネデカッ」
多分最初の感想は、そんな感じ。
友達から受動喫煙した、ファーストコンタクト。
以来友達は私の隣でも松永天馬を喫煙し、しまいには副流煙を顔にぶっかけてくるようになった。
とんだやつである。
全く知らない人だった。
昔教育テレビに出てたらしいけど、見覚えは無い。
スーツを着て歌を歌う男。
Blood Semen and Death
友達がはじめて教えてくれた松永天馬の曲名だ。
Semenだけ意味が変わらず調べた。
ちょっと眉をひそめた。
タイトルにすな。
しかしMVも曲も良かった。
不惑惑惑、ピンクレッドⅦも勧められるままにきいた。
好きなのでその日から聴いている。
松永天馬の刷り込みが本格的に始まった。
後に彼女は、あの曲はジャブじゃないよ、右ストレートだったよと語った。
ノックアウトする気だったのかよ。
友達がある日申し訳なさそうにLINEしてきた。
発売した写真集、あなたの分も買ったよと。
いや、確かにいい衣装だしSMチックだし、ポーズ資料に欲しかった。
同人誌のようなものだから売り切れたらいつ買えるか分からないと。
なので御茶ノ水の自販機の向こうの地下で、闇取引。
友人は丁寧にDVDもつけてきた。
買っちゃたと言う彼女の背後には「お前も道連れだ」という、俯いた彼女が視線だけこっちにやって強く見つめる幻覚を見た。
写真集は、エロ本という通称にふさわしい出来だった。
シーシャを吸いながら友達は笑った。
ココナッツと松永天馬の副流煙にまみれた私は、写真集を読み進める。
思えば、受動喫煙で仕込まれて、写真集で引きずり込み、そしてDVDで仕上げにかかられてた。
私がライブに行ってしまえば、完成である。
悟った。
遅かれ早かれだ。
その時には既に12/23の小林写楽の出るライヴのチケットはとってあった。
その日には松永天馬も、出る。
見ちゃえば、終わる、落ちる。
あの目を見ちゃいけない。
今日は疲れていた。
気温差で疲れシーシャを久しぶりに喰らってダメな日である。
こういう日はブロックした元カノのアカウントとかをつい見てしまう。
ダメだ、ダメな日だ。
気持ち悪い情報に触れてしまう。
だからポカポカの風呂上がりに、DVDをセットした。
「こんなところでごめんね」
聞いたことのあるフレーズで始まった。
低い声。
絹の黒髪、サテンの肌、横顔でサングラスから覗く、目。
友人がハマった、目だ。
見てしまった。
横顔から見えるその目は、強かった。
松永天馬が跳ねた。
私の鼓動も跳ねた。
湿度のある歌詞が、よく沁みた。
振り付けが可愛かった。
ああ、仕上げられる。
友人にLINEで叫びながら、食い入るように見たバニーガールアーミー。
絡め取られるんだよ、視線の先が、鼓動が。
助けてくれよ、どうやって
なんだかいけないものを見ている気がして後ろめたい気持ちでいっぱいになった。
視線を背けていた相手を見て、私はごくりと飲み込み、認め思い知った。
そうか、友人よ、あの時君も、こういう気持ちだったんだね。