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    cend_chka

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    cend_chka

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    松永天馬の幻覚が夢に侵食する前に

    これは全部幻覚です。絹の黒髪、サテンの肌、黒いポリエステル覆い尽くされた身体、夜闇のサングラスの向こうに、悪魔のような目。
    あれと目を合わせちゃいけないよ。
    合わせたら最後だよ。
    あの子はそう言ってたっけ。
    その男は、私を見下ろす。
    サングラスで、見えない。
    彼は歌う、低い声を響かせて歌う。
    不意に横を向く彼はそのまま歌う。
    歌う顎に黒髪。
    その上に、サングラス、隙間からは。
    「あ、」
    ヤバい、そう思った。
    吸い込まれる目をしている。
    私が目を見開いた瞬間、彼はサングラスを外す。
    サングラスを外した先にも夜闇はあった。
    「こんなところでごめんね」
    前髪がさらりと流れる。
    ごくりと、口の中全てを飲み込んだ。
    彼の吐息まで嚥下したように、感じる。
    鼓動は跳ねたまま、落ち着きに帰ってくることはない。
    「助けてくれませんか」
    私は思わず口に出した。
    彼は唇を動かした。
    多分、彼が言うにはこうだ。
    「助からないよ」


    幻覚だ、分かってる。
    彼の目が見せる幻覚だ。


    彼の手が私の喉元に伸びる。
    このまま喉を掴まれて、息を制限されたとて、問題はない。
    だってもう息がこんなに苦しい。
    溺れてるんだ、いつから
    もう分からない。
    でろでろの副流煙をいつから吸っていた
    いつから、美味しかった
    助けてくれともう一度言う前に、彼は私の喉を掴んだ。
    あ、逃げられない。
    目をしっかり見てしまったから。


    こんな、イメージばかりの怪文書を書いたのはいつぶりか。
    京都の女に沼っていた時以来。
    そうさせた男が一人、女が一人。
    やられた、はめられた。
    そう、全部幻覚。
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