私のための「君」へ「恋愛、か……。私には、よくわからないな」
かたり、と温かい紅茶の入ったカップをソーサーに置き、セツはつぶやいた。
ゆらゆらと立ち上った湯気が、空気に溶け込むようにして消え、その向こうには、花に水をやるステラの姿が見える。LABには穏やかな空気が流れていた。
「ふふ。何事も、経験してみるまではわからないものですものね。……ですが、とても素敵なものなのだと」
頬に手を当て、うっとりと目を細めたステラの表情を見ながら、セツはやれやれと苦笑いを浮かべた。
「やはり憧れてしまいますわね。……いつか、目が合っただけで惹かれあってしまうような……そんな、わたしのための素敵な殿方が現れて……。うふふっ」
恋愛についてのステラの話はすっかり聞きなれてしまったが、セツは耳を傾けていた。恋愛のことはわからない。それでも、こんな他愛もない会話にも、ゆるやかに続いていく日常を、整然と並び連続していく日々を取り戻したことを実感する。
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