ヤシャ君が退所した。
普段から彼は度々少年院から姿を消すことがあった。理由は体調不良や外での特別活動など様々……だったが、僕はヤシャ君の不在の理由がそうではないことをこの檻の中でただ一人だけ知っていた。
廊下を歩いていたある日、彼が潜入捜査というものに度々同行していることを盗み聞いたのだ。詳しいことは何も分からない、ただひとつ言えるのは、潜入捜査である以上それは隠さなければいけない事実だということだ。
だから僕は彼が、僕の命よりも大切なヤシャ君が外へ出る度に、胸が張り裂けるくらいの不安な気持ちを押し込めて、かわりにただ無事でいられるようにと祈っていたのだった。
そんな彼が少年院を出たきり帰ってこなくなったのはもう半年も前のことだ。これまでこれほどの期間帰って来ないことは無かった。
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