背中にぴたりと張り付く温度が急かすように押してくるから、ドアノブを回す手につい力が入った。暗い廊下にガチャリと乱雑な音が響いて、しまった、と眉根を寄せる。けれど原因となった真夜中の闖入者に気にする様子はまるでなく、この部屋へ滑り込む身のこなしは躍るみたいに軽やかだ。
「自分の部屋で休むんじゃなかったんですか?」
追い返せるわけもなく、降参とばかりに両手をあげてみせれば絡まる腕。廊下の真向かい、本来戻るべき彼の部屋には背を向けたまま、背伸びをして爪先立ち。本当に困ったひと、気の向くまま自分のことばかりで。
「天彦こそ、オバケくんと寝たがってたくせに」
さっきまで、もうこんな暮らしは嫌だなんて喚いていたとは思えないくらい、今は随分と楽しそうだ。いよいよ睡魔に抗えないと、誰からともなく広がったその流れのままに、あくびをしながら階段を上っていたはずなのに。
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