ランチ前にてぐるるる~きゅ~!
「・・・」
「・・・!」
突然鳴る音にふたりの時は止まった。
いつもの情報交換、そこから派生する恋バナ。
マァムとはどうなってるの?
そっちこそダイとはどうなんだよ?
とけん制しあいながらお決まりのやりとりが始まったころだ。
珍しくお腹が鳴ったのはレオナのほうだった。
「あ」
羞恥に思わず両手でお腹を押さえるレオナ。
ポップはこれから反撃の言葉の散弾を繰り出そうとしたところでフイをつかれた。
「・・・姫さんよお」
何か言いたいが、今準備していた言葉を出すタイミングではない。
やっと出たのがこの声掛けだ。
「・・・やだわ・・もう」
いくら気心の知れた間柄とは言え、盛大に空腹の音を響かせるとは。
「・・・腹減ってたんだなあ・・・」
なんとか絞り出して続けた。
「もう、笑えばいいでいしょ!そういえば今日は朝ごはん抜きだったわ。朝早く謁見があったからね!」
レオナの珍しく、勢いよい言い訳にポップは安堵してようやく顔を崩して笑う。
「じゃあ、遠慮なく笑わせてもらうわ。珍しいな、ホント、あんたが」
王族としても仲間としても彼女はスキがない。いや、俗っぽい部分に人間としてのスキはあるが、こういう生理的現象に出くわすとは。
「もう昼だ、シェフのごちそうでも食わせてもらおうぜ」
窓に目を向けると太陽は南中している。
「ええ、ええ、そうね、お昼だわ」
ふてくされて同じく目を窓にやる。
その姿は勇猛果敢と言われ、衆目のあこがれの王女様とは程遠い、一人の女の子だ。
いやもう女の子、という歳ではないが、ポップにとっては憎たらしいけど頼りになる女の子のままだ。
まあ。それは昔からお互い様かもしれないけど。
そう言ってるとコンコン、とドアが鳴り、失礼します、とマリンが入ってきた。
「昼食の時間です、姫」
ベストタイミングだ。
「待ってました!な、姫さん!」
「ええ、そうね、行くわ」
目をぱちくりしてマリンは二人の様子をかわりがわり見る。
「・・・どうかされましたか?」
「お腹が空いてるんだよ、姫さんは」
ポップは威張ったように言う。
「朝食抜きでしたものね、珍しく寝坊されて」
ああそうか、と合点がいった様子で彼女は言う。
レオナはキッとマリンを睨む。まるで言ってはいけないことをとがめるかのように。
「あれ?早くに謁見があったって。夜明け前くらいかと」
「確かに謁見自体はありましたが、いくらなんでも常識的な時間よポップ君。日は昇ってたわ」
それがどうしたんだというようにマリンは素で答える。
三賢者は皆揃って正直な人である、と常々ポップは思っている。
そしてレオナは少し決まりの悪そうな表情を浮かべた。目も泳いでいる。
あ、これなんか触れてはいけないやつだ、とポップのその明晰な頭脳が防衛本能を働かせる。
「そうね、自業自得なのよ!それより行きましょ!料理が冷めちゃう」
レオナはパンパンと手を叩いて廊下へと歩き出した。
「ええ、ダイ君は先に行ってますよ」
「ダイ?あいつ戻ってたのか」
魔界に行ってくると半月前に言っていた。
「ええ昨日の夕方ね。午前中は兵士に剣を教えてくれてたわ」
マリンは再びこともなげに言う。
「夕方・・・」
ポップが呟いたのを聞き、レオナは少しピクっとなった。
それをポップは見逃さない。
「さ、さあ、行くわよ!ダイ君も待ってるじゃない!」
ポップはレオナの様子から何かを察したが。
それは絶対に聞いてはならない、そして聞きたくない。
「よし、行こうぜ!」
こともなげにポップは言うのがやっとだ。
お昼ご飯はなんだろうか。なんだか胸が甘いので、少し辛口のものがいいな。お城のご飯はごちそうだ。
ダイから魔界の様子も聞きたいしな、ポップは早歩きで歩き始めた。