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    padparadscha725

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    #流三
    stream3

    嫉妬深い男「お前いい加減、機嫌直せよ」
     二人きりになった部室で、三井は流川に声をかけた。
     黙々と着替えはじめた流川から少し離れた、元は自分が使っていたロッカーを開ける。立ち並ぶロッカーの扉には部員それぞれの名前が貼られているが、12月いっぱいでバスケ部を引退した三井のロッカーから、既に名前は無くなっている。それを見ると引退したんだという実感が湧いてきて、何だか少し寂しい気分になった。
     「なぁ、いつまで怒ってんだよ」
     ハァ、と小さく溜息を吐きながら着替えを取り出して、もう一度声をかけた。
     「別に、怒ってねー」
     ボソッと返ってきた声は不機嫌そのものだ。
     「お前、そんなに仙道が嫌いなの?」
     汗で湿ったTシャツを畳むこともなく無造作に丸めてバッグに突っ込みながら、流川は「センパイは分かってねー」と大きな溜め息を吐いた。


     推薦狙いではあったが念のため受験勉強に専念するため、三井は年末にバスケ部を引退した。勉強といっても何からすればいいのかと思っていたところ、運が良いことに正月が開けて暫くして、念願の推薦の話が舞い込んだ。結局受験勉強の必要はなくなり、部活も引退して暇になってしまった。
     いの一番に推薦が来た話をしたのは恋人の流川だ。部活を引退してから、毎晩流川が寝落ちするまでの間電話をするのが二人の日課になった。流川は三井の推薦の話に、留年すれば良かったのにと言いながらも「おめでとう」と言ってくれて、安西先生にも報告しに行きたいという三井に、じゃあ日曜の部活に来ればいいと電話越しに誘ってくれた。それで今日は推薦の報告がてら部活に顔を出したのだ。
     午前中は体育館の照明の点検で業者が入るらしく、今日の部活は午後からということだったが、久しぶりに1on1――という名目のデート――でもしようと午前中から二人で馴染みのバスケコートに集合した。
     久しぶりに身体を動かすのは楽しくて、元旦の初詣以来なかなか会えずにいた流川と会えるのも、久しぶりに部活に顔を出して推薦の報告を安西先生や部員たちにできるのも、何もかもが嬉しくていい気分だった。それなのに流川は今ご機嫌ななめだ。二人きりで1on1をしている時は、流川も楽しそうにしていたのだ。仙道が姿を現すまでは。


     久しぶりの1on1は白熱したしめちゃくちゃ楽しかった。お互い負けず嫌いだからなかなか勝負がつかなくて、何度も攻防を繰り返して息が上がってきた頃、「あれ、三井さんだ~!あと流川も」と声をかけられた。振り向けばフェンスの向こうに稜南の仙道がいて、ニコニコと手を振っていた。
     「おー!久しぶりだな」
     「釣りに行こうと思って通りがかったんですけど、俺もまぜてください」
     片手に提げた釣竿を上げながら、仙道は1on1にまぜてくれと言ってきた。特に断る理由もないし、仙道とやる機会もそうそうないからオレはOKした。でもそれが流川には面白くなかったらしい。
     そこからコイツの機嫌は急降下した。仙道と別れて昼飯を食ってる時もムスッとしてたし、午後の部活の間中も不機嫌丸出しで、絡んできた桜木と喧嘩一歩手前で二人して綾子に叱られていた。
     かわいそうに桜木以外の一年坊主たちは流川の放つ威圧的な雰囲気にビビッてたし、綾子は子供みたいに拗ねている流川に、自分の機嫌は自分でとれと呆れかえっていた。新キャプテンの宮城に至っては触らぬ神に祟りなしとばかりに、「流川が一番懐いてるのアンタなんだから」と久しぶりに顔を出した先輩に流川を押し付けてきた。それで今度はこっちからシュート練習に付き合えと声をかけて、二人で居残りして練習していたのだ。


     「センパイは分かってねー」
     流川の言葉に、何がだよ?と三井は眉を顰めた。
     「仙道と仲よくしないで」
     子供じみた言葉に、三井はふはっと笑って「何だよ焼きもちか?」と口角を上げた。
     バスケ以外に何にも誰にも興味を示さないこの男に嫉妬と執着をぶつけられるのは、正直優越感があって悪い気はしない。
     そういやコイツはついこの間16になったばかりのガキだったなと、幼い子供の独占欲めいたものをぶつけてくるのが可愛いく思えてしまう。
     「いや、別に普段からツルんでて仲いいわけじゃねーし、今日はたまたま会っただけだろ」
     同じ神奈川といっても、稜南と湘北じゃ結構距離があるし、そうそう顔を合わせる事などない。それよりも徳男たちの方がよほど仲良くしているし試合を見に来てくれているが、流川が徳男に嫉妬を向けた事は一度もない。というかまるで空気みたいに全く気にしていないようだ。
     「じゃあ徳男は?アイツと仲良くするのはいいのか?」
     ちょっと疑問に思って訊いてみた。
     「あの人は別にいいっす」
     「徳男はいいのに仙道はダメって何でだよ?」
     ――流川の基準が謎すぎる……。
     「堀田……さん、たちは七人の小人。仙道は悪い魔女。そんでアンタは白雪姫。だからダメ」
     「は……?」
     ――どういう事だかさっぱり分かんねぇ……会話にならねぇ……何でオレが白雪姫?
     「何でオレが王子様じゃなくて白雪姫なんだよ。あんなか弱い少女じゃないぞオレは。むしろバスケが上手くて顔良しスタイル良しの王子様だろーが」
     納得いかない三井に、流川は首を振って「王子様はオレ」と宣った。
     「ふざけんな、オレが白雪姫ならお前は眠り姫だろ!いつでもどこでもグースカ寝やがって!」
     さっさと着替え終わった流川がロッカーをパタリと閉めて、納得いかないと騒ぐ三井に早く着替えろと視線で促す。
     「堀田さんは下心とかないから別にいい。でもアイツだけはダメ。……それにセンパイ面食いだし」
     最後にボソッと付け加えられた流川の言葉に、三井はひでー奴だな!と声を上げた。
     「お前なー、オレはツラが良けりゃ誰でもいいわけじゃねーぞ?!それに徳男だってカッコいい所あるんだからな!」
     心外だと口を尖らせながら着替え終えてロッカーの扉を閉めた三井の身体に、後ろから一回り大きな身体が覆い被さってきた。腹に回された腕が逃がさないとばかりに力をこめてギュッと抱きしめられる。
     「オレ以外にカッコいいって言わないで。卒業してもオレとバスケして。ずっと一緒にいて」
     耳を擽る声には、いつも不遜なこの男に似つかわしくない、迷子の子供みたいな不安で寂しげな色が乗っていて、垣間見えた情緒にコイツもまだ高校一年生の少年なんだよなと可愛くなる。
    「ったく……ワガママなヤローだな。好きなのはお前だけだって言ったろ。日本一になって、アメリカ行ってオレがお前以外目に入らねーくらいスゲー男になるんだろ。俺だけ見てろよ。余所見すんな。俺をお前のもんにするんだろ」
     甘く蕩ける声で囁いて、少しだけ上にある薄い唇に自分のそれを押し付ける。
     見開かれた切れ長の目をじっと見つめると、ふにゃりと崩れた目元がパッと朱を刷いたように色付いた。白い頬がほんのりと上気して、低く掠れた小さな声で「頑張る」と呟いた。随分と可愛い決意表明だ。
     流川が赤くなった顔を隠すように、三井の肩に顔を埋めてグリグリと甘えたように押し付けてくる。
     ――でかい図体のくせに可愛いな。
     生意気で無愛想で憎たらしいのに、こうやって甘えてくる歳下の男が可愛くて仕方がない。
     オレも随分コイツに絆されてるなと自嘲しながら、傷痕が残る顎先をサラサラと擽る艶やかな黒髪を撫でてやった。
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