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    padparadscha725

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    padparadscha725

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    👓🥴ただイチャイチャしてるだけの話

    きみの好きなとこ「なぁ、お前、俺のどこが好きなんだ?」
     唐突にかけられた言葉に、ボブは視線を落としていた本のさらに下に目を向けた。ソファに座り本を読んでいたボブの膝には、ごろりと寝転ぶハングマンの頭が乗っている。
    「え、急に何?」
     テレビ画面の方を向いていたハングマンが体を捩り、仰向けになって下からボブを見上げてくる。本を脇によけて、ボブはハングマンと視線を合わせた。
     今日はふたりとも休日で、どこかに出掛けようかとも思った。でも朝から降り続く雨に外出するのをやめて、ふたりでゆっくり家でゴロゴロする日に決めた。
     ボブは読みかけだった本を読んでしまおうと本を開き、ハングマンはその膝に頭を乗せてドラマを見ていた。一緒にいるけどそれぞれが好きな事をする。お互いが別々な事をしていても気にならない。一緒にいることが当たり前になって、いつの間にかそんな穏やかな時間を共有するようになった。
    「いや、何となく?俺の何が良くてあんなに熱烈に口説いてきてたのかなと思って」
     急な問いかけに何かあったのかと問えば、「何となく」と本当に興味本位で気になっただけのような返事が返ってきた。
    「きみの好きなところ?」
    「うん」
    「……顔?」
    「それは知ってる」
     俺の顔がいいのは当たり前だと絶好調な返事が返ってくる。
     ハングマンの好きなところはたくさんあるが、具体的に聞かれると何と答えようか困ってしまう。
     他には?と促されて、ボブはハングマンに恋した日の事を思い出そうと、視線を右上に向けてうーんと唸った。

    「……多分、一目惚れだったんだよね」
    「ハードデックで会った時か?」
     ボブがハングマンと初めて会ったのは、あの決死の作戦のためにトップガンに召集され、ハードデックで候補者たちが一堂に会した時だ。
     俺のビリヤードの腕前に惚れたかとニヤニヤするハングマンに、ボブは違うと首を振った。
    「いや、もっと前だよ」
    「あ?あれより前にお前と会った事なんてあったか?」
    「うん、あのね、実はね……」
     あのハードデックで会う前に面識なんかあっただろうかと首を捻るハングマンに、ボブは初めて彼を認識した日の事を話しはじめた。

     それはボブがトップガンを卒業して間もない頃、インド洋上に派遣されていた時だった。その日は非番で、持って来ていた本を読み終わってしまったボブは、少し身体を動かそうと自室を出て、船内を散歩がてらあっちこっちと歩き回っていた。
     そろそろ髪を切ろうかな、と少し伸びた前髪を気にしながら床屋の前を通り過ぎ、クリスマスも近いし家族にクリスマスカードを送ろうかと郵便局でグリーティングカードを物色する。少し小腹が空いたなと思い、後でコーヒーと何か食べるものを買おうと考えながら、香ばしいコーヒーの香りが漂うカフェのメニューを横目に通り過ぎた。
     広い空母の中には何でもある。たくさんの人が犇めき合い、さながら海に浮かぶ1つの町だ。顔見知りとすれ違う度に軽く挨拶をして、上官には立ち止まって敬礼をしつつ、いつの間にかボブはフライトデッキまで辿り着いていた。
     そこではカラーギャングたちが忙しなく動き回り、戦闘機が2.3分おきにカタパルトから発射されて飛び立っていく。常に戦闘機が周りを飛びながら進んでいく空母は、まるで動く蜂の巣で、蜂がその周りをブンブンと飛び回っているかのようだ。ボブは空母の中でも忙しく激しくうるさくホットなフライトデッキが好きだった。
     暫く飛び立つ戦闘機を眺めていたボブは、反対のデッキに目を移した。哨戒を終えた戦闘機が勢いよく突っ込んできては次々と着艦する。また暫くそうやって戦闘機を眺めていたボブは、軽やかに美しく着艦した戦闘機に目を奪われた。
     わずか100mほどの距離で停止しなければならない戦闘機の着艦は、飛行甲板に張られたアレスティング・ワイヤーに戦闘機が備える着艦フックを引っ掛けるという、第2次世界大戦前からある意外と強引な方法で急停止させていて、制御された墜落なんて言われている。しかしボブが見た先ほどの着艦は、それらとはまるで違う、蝶が花にとまるみたいに華麗なランディングだった。
     こんな綺麗なランディングをする人がいるなんて!
     気になって邪魔にならない程度に距離をとりつつ、今しがた停止したばかりの戦闘機に近付いた。
     コックピットの横のコールサインを確認すると“ハングマン”で、怖い名前だなぁと思いながらさらにもう少しだけ近付いてみる。
     キャノピーがゆっくりと開いて、マスクとヘルメットを外したその人に、ボブはまたしても目を奪われた。恐ろしげなコールサインとは裏腹に、とても綺麗な男が降りてきたのだ。そのギャップに驚きながら、労わるように優しく機体を撫でるその姿にボブは呆然と見惚れた。
     今まで見た中で一番綺麗なランディングをする人で、機体を操るその人もまたとても美しかった。機体を撫でる手つきと目が優しくて、整備士と言葉を交わしている時の笑顔が眩しかった。でもコールサインはハングマンなんておっかない呼び名が付いている。彼は一体どんな人なんだろう。
     初めて認識したハングマンという男が気になって仕方なくて、ボブはぼんやりとしながら自室に戻った。結局コーヒーは買い忘れてしまった。

    「お前、そんなに前から俺のことが好きだったのか?」
     膝の上のハングマンが驚きに目を丸くしてボブを見上げる。
    「うーん……その時は自覚してなかったけど、思い返せばあの時から君が気になってたんだと思う。だってあんな綺麗なランディングを見たのは初めてだったんだ。だから最初は君のランディングに一目惚れして、それから君のことを知っていくうちに君が好きになったんだ」
     少し恥ずかしそうにはにかむボブに、ハングマンはフンと鼻を鳴らしながら「俺の操縦技術はピカイチだからな」と宣った。
    「そうだね。君はあの中でも誰よりも早くて、誰よりも優秀だったよ」
     しかもあの2人を救った救世主だと微笑み、それでね、とボブはまた話を続けた。

     あの日インド洋上で一方的ではあるがボブにとっては劇的な出会いをしてから、任務を終えてリモアに帰ってきてからもハングマンが気になって仕方なく、ボブは同僚や仲のいい整備士たちにそれとなくハングマンを知っているかと聞いてみたりもした。所属部隊は違うものの、何人か彼の事を知っている者がいて、その話によれば彼はボブと同じくトップガンの卒業生で、1機撃墜の経歴の持ち主だと知れた。
     ハングマンを知るアビエイターたちは、ボブが彼について聞くと皆口々に「なんだボブ、アイツと飛びたいのか?早死にしたくないならやめとけ」と言った。どうやら僚機を裏切るのが常套手段らしく、彼と飛んだことのある者たちは揃って渋い顔をしてみせた。
     やれ皮肉屋だとか、生意気な奴だとか、性格が歪んでるとか、皆彼について酷い言いようだったが、操縦技術については海軍トップクラスのアビエイターだと全員が口を揃えてその凄さを認めていた。
     かと思えば整備士からの評判はすこぶる良いようで、「彼は戦闘機を愛しているんだ。それに自分たち整備士にも敬意を払ってくれるいい子だよ」とベテラン整備士は目尻に皺を浮かべて笑っていた。他にも彼が乗る機体は任務後の傷みが少ない、不調な箇所にすぐに気付いて知らせてくれる、と好意的な評価ばかりだった。
     海軍でも指折りの戦闘機乗りという評価は一貫して変わらないが、アビエイターたちは彼を性格がひん曲がった嫌な奴と言い、整備士たちはとてもいい人だと言う。その人の立場によって彼に対する評価は正反対だ。かなり多面的な人物らしく、ますますボブはハングマンという人間が気になるようになってしまった。
     そんなに気になるなら話しかけてみればいいと思うだろうが、どう見てもナードな自分が典型的なジョックの彼に話しかけるなんてできるわけがない。結局ボブは基地内で彼を見かける度にその姿を目で追うことしかできないでいた。
     ずっとそんな状態だったボブは、再びトップガンに召集された先で遂にハングマンと対面を果たしたのだ。

    「ハードデックで君と初めて会話できた時は動揺したよ」
    「あぁ、そういえばお前ナッツめちゃくちゃ溢してたな」
     ハングマンが口角を上げてニヤリと笑う。子供のようにボロボロとナッツを溢している恥ずかしいところを見られてしまったのを思い出して、ボブは困ったように眉を下げた。
    「だってずっと気になって仕方なかった人が目の前にいたんだもの。やっぱり綺麗な人だなって君に見惚れてたんだ」
     “君に見惚れていた”なんて歯が浮くような言葉に、ハングマンは「トップオブトップのWSOを虜にするなんて、美しさは罪だな」と満足気に笑った。
    「お前あの時いつからいたんだよ?フェニックスが気付くまで気配すらしなかったぞ」
    「君たちが来る前からいたよ。全然気付いてもらえないから、どうやって声をかけようか悩んでたんだよ」
    「お前本当にステルスパイロットだな。それか忍者だ」
    どこで忍者の修行したんだ?とハングマンが揶揄うのに対して、ボブは気配を消す術なんか知らないよと答えた。
    「それで?憧れのハングマン様と知り合いになれてその後は?」
     ユーモアのないボブの返事を流して、ハングマンが続きを促す。
    「うん、あのね……噂通りの嫌な奴だなと思った」

     はっきり言ってしまえば、ハードデックで初めて会話を交わした時のハングマンの第一印象は最悪だった。フェニックスとの嫌味の応酬に驚いたし、ルースターとの会話には更に棘があって喧嘩になるんじゃないかとハラハラした。ボブもステルスパイロットなんて笑われたし、ユーモアのセンスもないとまで言われてしまって、あぁなるほど皆の言っていた嫌な奴ってこういうことかと納得した。
     翌日からの訓練でもハングマンは絶好調で、フェニックスにニヤニヤと絡んでみたり、ルースターに噛み付いてみたりと嫌な奴ぶりを存分に発揮していた。
    「僕もbabyなんて揶揄われたしね」
     にこりと笑ってみせると、膝の上のハングマンは苦虫を噛み潰したような顔で「揶揄って悪かった」と言った。
    「でも僕は君にbabyって呼ばれるの嫌いじゃないよ」
     ハングマンは今でもたまにボブをbabyと呼ぶ。だがそれは昔のように揶揄いを込めた意地悪なものではなく、慈愛を含んだ甘く柔らかい響きを伴っている。特に、朝に弱くなかなか起きられずにいるのを彼が起こしてくれる時、たまにだがベッドの中でぐずるボブに「おはようbaby」と優しい声で囁いてくれるのが一番好きだ。朝起きて一番最初に聞く声が彼のもので、覚醒を促そうと頬に柔らかくキスを落とされたりすると嬉しくて幸せで堪らなくて、そのままベッドに引きずり込んでその胸に顔を摺り寄せて甘えたくなる。
    「なぁ、さっきから聞いてると、俺のこと好きになる要素無くねぇか?」
     たまにではなく毎日優しく起こしてほしいなぁと考えているボブに、ハングマンが不満そうに言った。
    「うーん……そうだねぇ。あの後なんて君に裏切られて教官にキルされたしね」
    「あー……それも悪かったよ。でもあの時お前言い返してきたよな。それでちょっと面白い奴だなと思ったんだよな」
     訓練初日の小手調べで、早速ハングマンの仲間を見捨てる戦法の餌食になった。まったく何て奴だと驚いたが、実際に皆が言っていた戦法にお目にかかれて“これがあの噂の!”とちょっと興奮したし、「あの世で会おうバッグマン」なんて言い返してちょっとスッキリした。フェニックスには「あんた気に入った!」って肩パンされて仲良くなった。
    「あの後の腕立て200回、君はやらなくてもよかったのに、僕たちと一緒にやってくれたじゃない。それであれ?やっぱりいい人なのかもって思ったんだよね」
    「お前らにだけさせられるかよ」
     ああいうのは連帯責任だろとハングマンが笑う。
    「墜落した時も、夜に病院まで様子見に来てくれたしね。実は優しい人なんだなって」
     ハングマンは傲岸不遜な態度の割に、仲間想いな面もある。そこを分かっているから、フェニックスもなんだかんだアイツを嫌いになれないと言っていた。
    「それにさ、ルースターに突っかかってたのも、本当は彼が実力を出し切れていないのを分かっていたからでしょ?」
     あんな事言わなくてもいいだろうとハングマンに怒っている者もいたが、ボブはハングマンの気持ちも分かるなと思っていた。言葉や態度には出さずにいたが、ボブもルースターの教官へのあの態度には呆れていたのだ。
    「皆命がけの任務に臨むために頑張っているのに、ルースターは教官にあの態度だったんだもの。マーヴェリックから教わるのが嫌なら辞退すればいいのにと思ってたよ」
    「お前ってたまに容赦ないよな」
     柔和で温厚なボブが珍しく辛辣な言葉を吐くのに、ハングマンが苦笑する。
     ボブはハングマンが誰よりも努力家な事も知っているし、あの言動だってその努力と実績に裏打ちされたものなのだと知っている。その言動のせいで誤解されることも多いが、結局は優しさの裏返しなのだ。長くはない時間の中で彼と関わるうちに、ボブはハングマンの内面を知り少しずつ惹かれていった。
    「君は誰よりもルースターの実力に気付いていたし、あの任務の事を誰よりも一番理解してた。それに努力家でもある。君がよく図書館にいたの知ってるよ」
    「あ?図書館?」
    「トップガンに呼ばれる前から、図書館で熱心に勉強してる君の姿を何度か見てたし、向いの席に座ったこともあるよ」
    「お前、忍者じゃなくてストーカーだったか」
     僕は図書館の住人だからねと言うボブに、ハングマンは呆れたように笑った。
    「とにかくね、僕は君のランディングに一目惚れして、それから君の内面を知っていくうちにだんだん君の事が好きになっていたんだ。君は最高のパイロットで、才能に頼るだけじゃなく努力もできて、よく周りを見ていて気遣いもできて、おまけに優しくて情に厚いところもあるし、それから、かっこよくって最高にゴージャスで、でも案外可愛いところもあったりするし、笑顔が眩しくて」
    「ストップ、ストーップ!」
     突然目の前に突きだされた掌にボブの言葉が遮られた。
     「もういい、お前が俺のこと大好きなのは分かった」
     「そう?もういいの?まだまだいっぱい、上げたらキリがないくらい君の好きなところはあるんだけど」
     「全部聞いてたら1日かかりそうだからいい」
     もう興味はないとばかりにハングマンはゴロリとまたテレビの方に向き直ってしまった。彼は自画自賛が多いくせに、いざ褒められると途端に恥ずかしがるのだ。
    「ねぇジェイク、逆に君は、何で僕と付き合ってくれたの?僕のどこが好き?」
    「えっ……どこって……」
     自分から話を振ってきたくせに、逆に自分が同じ質問をされるのは想定していなかったようで、ハングマンが言い淀む。
    「ねぇ、僕のどこを好きになってくれたの?」
     再度同じ質問をする。
    「顔だよ、顔」
    「そっか。この顔で良かったよ」
     フフ、と笑うと、面白くなさそうにハングマンがフンッと息を吐いた。しかし膝の上の横顔は薄く色付いていて、ただ照れているだけだと分かる。
     そういうところが可愛いんだよなぁ、とボブは笑って、身を屈めて赤く染まった耳の先に口付けを落とした。
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