Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    RE_SQUALL

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    RE_SQUALL

    ☆quiet follow

    おやすみレイブンクロー「エバレット」
    「……んん?どうしたの」
     とある日の晩、消灯時間を過ぎた後の出来事だった。

     消灯時間を過ぎた、とはいえさすがは知識のレイブンクロー、他のルームメイトは寝る前にもベッドで読書や書き物をしている。
    嫌だなあこいつら、きっと墓に入る寸前まで勉強してるんじゃないか。
    僕は本当に賢いから、明日を健やかに過ごすため夜更かしなんてしないけど!
    なんとなくいい塩梅の体勢が見つからずもぞもぞ寝返りを打ちながらそんなことを考える。
    しかし静まり返った暗闇に響く本のページを捲る音、紙の上を小刻みに走り回るペンの音、寝しなには雑音にも取れそうだがこれが中々心地のよいもので、すぐにうとうととし始めた。
     そんな時、二段ベットの下から転入生が尋ねてきたのだ。
    「……パフスケインが…一生の内に食べる鼻くその量ってどのくらいだと思う…?」
    「なんて?」
    急に?
    辺りが静かだったので聞き取れはしたが、あまりにも突拍子もない質問に思わず聞き返す。本当に思考の読めない変なやつ、面白いけど。恐らく同じく眠れずに考え事でもしていたんだろう。
    「そうだなぁ…考えた事もなかった。きっと一生透明薬の材料には困らないんじゃないかな。まずそんな量の鼻くそ見たら僕、ひっくり返るかも」
    「……」
    「嘘、まさか無視?」
    「それ寝言だと思うけど」
    同じく向かいのベッドの下の方から本を読んでいたダンカンの声が聞こえる。
    「君は寝付きがいいから知らないのか、転入生の寝言の酷さといったら…」
    暗闇で眼鏡もしていないので表情は全く見えないが、ため息混じりの口調から「また今日も始まった」とでも言いたげな様子が伺える。

    「ね、ねぇ君たち」
    と、カーテンを開け星を眺めていたアミットもおずおずと会話に混ざってきた。
    「ごめん、うるさかった?君と愛しの星達との時間を邪魔するつもりは…」
    「違うって、ちょっと聞いてよ」
    聞いてよ、と言った割には口籠もっている。話題がなんであれ、仮にこの時間に討論会が始まったら堪ったもんじゃない。
    「おしゃべりするような時間じゃないだろ、僕もう寝るよ」
    「同感」
    同感ダンカンと今一番恋しいもの:お布団クロプトンの僕は話を切り上げるようにベッドに横になった。
    「いや、この前、さ、アンドリューが話していたんだけど…」
    「んー、それで?」
    「『眠ってる人の寝言に返事をすると、返事された人は夢から出られなくなる』って…」
    「……」
    あまりにも緊迫した口調で言うものだから、一瞬全員が黙り込んでしまった。
    先に口を開いたのはダンカンだった。
    「…そんな話鵜呑みにしたのか?全く、アンドリューのやつの話なんて半分は空想みたいなものじゃないか!」
    「アミットは素直だね!」
    笑い事ではない、とでも言いたげなアミットを他所に2人であっはっは!と笑い飛ばす。が、同時に"あること"に気付いてしまった。恐らくアミットとダンカンも同じことを感じたようで、再び静寂が訪れる。
    「……」
    「転入生…?」
    なんだか不安になりベッドの下を覗き込む。
    なんだか不安になってしまったのは他の2人も同じだったようで、全員がベッドのカーテンから首をちょっと出しており、カタツムリの集合住宅かい、と言わんばかりの不思議な光景だった。

    転入生が、本当に起きない。

    …というのも、彼は寝付きこそ良いものの警戒心がかなり強いようで、僕が夜中トイレに起きた時などちょっとした物音で起こしてしまうほどである。つまりこんな大声で喋っていたらまず起きないはずがないのだ。

    誰からともなく転入生の近くに集まっていた。
    「お、おい、起きてるよな!?」
    「もどってきて…!」
    「ケ…ケーキ!クリスマスケーキ!僕意地でも食べさせるって言ったよね!?」
    とにかくそんな感じの事を言いながら3人がかりで身体を揺すったり頬をつねったりしてみたが、まずい、本当に起きない。
    「ど、どうしよう…アンドリュー何か知ってるかな」
    「とりあえず医務室…!先生に診てもらわないと…!」

    「…っ…ひひ…」
    ピクリともしなかった転入生の身体が小刻みに震え始めた。
    「こんな夜中に…んふ、みんな、騒いでるから…何事かと思って聞いてたら…」
    急に目を覚ました転入生は、心底おかしいという様子で腹を抱えている
    どうやら話の途中から起きていて、敢えて目が覚めないフリをしていたようだ。まんまと騙されてしまった。
    「いやあ一本取られたよ。君って死んだフリもできたんだなあ」
    「え?へへ、まあ、昔ちょっと、ね」
    慌てふためく僕達が相当面白かったのか、目尻に溜まった涙を拭っている。
    「よかったあ…迷信だったんだ…転入生、変な夢見てない?大丈夫?」
    「ああもう急に疲れた!今度こそ寝るからな!おやすみ!」
    緊張が解けたのか、いつもの調子で解散していく。

    「おやすみ、エバレット」
    「おやすみ」

    彼が覚えてるかどうかは分からないけど、パフスケインの話の続きは明日またしよう。そんなことを思いながら眠りについた。



    悪ふざけに呆れる友人たちを他所に、僕は幸せな気持ちに包まれていた。自分を心配してここまで慌てふためいてくれる友達ができた事が、夢のように嬉しかったのだ。

    笑ったらなんだか力が抜けて眠くなってきた。今夜はよく眠れるような気がする。

    「僕の目がいつか本当に覚めなくなった時も、君たちだけには悲しんで欲しいな」
    という言葉は、自分の中に眠らせたままにすることにした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator