9月27日(3日目)9月27日(3日目)
2時、彼は胡座を組み、何やら瞑想の態だ。どうしたのか問うと「テレパシーの修練を積んでいる」とだけ返ってきた。今から別の才を開花させるつもりらしい。とんでもない努力家だ。
9時、まだ瞑想していた。いや、眠っているのか?
14時、未だ眠っている。
18時、疲労が溜まっていたのか、ようやく起きた。隈が酷く、やつれて見える。
「そろそろ始めますか。」
牢の外から声を掛けた。だが、彼は答えない。座り込み俯いたままの彼へ近づく。すると、拳が飛んできた。
「……ふふ。」
近接格闘は苦手な部類だが、弱った男の攻撃など、避けるのは容易い。顎を反って避けた後、振り上げられた腕を掴む。強く握り締める。
「……ッ、ぐ、」
彼は痛みに顔を歪めた。続けて、鳩尾を蹴り上げる。
「ぐッ、ぅう゛ッ、」
彼は苦悶の声を上げ、壁へと叩きつけられた。乱れた前髪を掴んで顔を上げさせ、フードボウルの縁を唇に捩じ込み、その中身を流し込む。
「ぐぉっ、ぅうッ、ぉぶッ、」
彼の渇いた口腔へと、処女の血液が注ぎ込まれていく。端から漏れては、私の靴を濡らしていく。空になったボウルを床へ投げ捨てた。髪を離すと、彼は蹲り、咳き込み始めた。
「ほッ、げほッ!」
「このまま何も摂らないと死んでしまいますからね。それではつまらない。」
屈み、彼と目線を合わせて、行為の理由を説明した。そして直ぐに立ち上がり、咽せる喉を靴先で軽く小突いた。
「貴方にはこの類の調教は効かないどころか逆効果でしょうが、今日は試しに続けてみましょうか。」
監禁前から予想はしていたが、観察していて確信した。彼は暴力に屈するタイプではない。むしろ、私への殺意を糧に、理性を保ってしまうだろう。それは解っているのだが、どの傾向の暴力であれば快楽と結びつけやすいのか、今後の為に知っておく必要がある。
小突いた足を一度垂れ、今度は胸を蹴り上げる。その衝撃で彼は壁を背にしたまま右へ倒れた。その腹を目掛けて何度も何度も蹴りを入れる。
「ッ、ぐッ、ッ、ふッ、ぅぎッ、」
彼は瞳に殺意を迸らせながら、ぎりぎりと音がするほど歯を食い縛って耐えていた。その顔が可愛らしくて、蹴るのをやめて、側頭部を踏みつける。
「ぐッ、殺すッ……殺すッ……!」
メラメラと燃え盛る紅が足の下から睨み上げてくる。とても気分が良い。ぐりぐりと踏みつけ弄んでいると、手が動いた。動きからして、私の足首を掴み、そのまま力任せに転倒させるつもりだろう。そうなる前に、ナイフで手首を切り裂いてやった。
「ぅぐぅッ、ぅうう゛ッ!」
彼は手首を押さえてのたうち回った。しかし、声は上げないように努めている。端正な顔に脂汗を浮かべて苦しみ悶える様は、加虐心を煽られる。
「鋭い痛みの方が効くようですね。」
彼が悶えているうちに、屋敷から鞭を呼び寄せ、手に取った。そして、大きく撓らせ、背中に打ちつける。
「ッぎぃッ!?ッ、ぐッ!ぐぅうッ……!」
突然の痛みに耳心地の良い悲鳴をあげ、それを出さぬように再び歯を食い締めて唸る。打ちつける度、がくんと身体が震えた。
同じ場所に打ちつけると、痛みが増すのだろう。次第に声は大きくなっていく。
「ぐぅッ、ぅうう゛ッ!ぅううう゛ッ!」
しかし、彼は全身を強張らせて、悲鳴を上げまいと耐えていた。そのまま打ち続けていると、
「ッ、ころすッ!殺す殺す殺す殺すッ!!」
どうせ声が出てしまうならいっそ、と考えたのか、大声で「殺す」と叫び始めた。
やはり、駄目だ。このまま続けても、闘志が燃え上がって行くだけだろう。では痛みのない苦しみはどうか。
私は鞭を元の場所へ転移し、四つん這いで踠くノースディンの首へ右腕を回し、引き上げて頸部を圧迫した。固定しようと前に出した左腕が彼の握力により捩じ切られそうになった為、窘めるように右腕の力を強める。
「…………………が、ぁッ…………、」
彼は開き切った口から掠れた音を出して、強張る脚を逃げるように床に滑らせた。絞める上腕に爪を立ててきたが、やがてその力も弱まっていった。
血流を堰き止めるように絞めているが、ある程度気道も塞がっていて息苦しいはずだ。しかし、彼の横顔は夢見心地に変化していき、酔眼のような据わった目つきになった。思ってもみない素質に、興奮して腕に力が込もる。
顔が変色し、痙攣を始めた。耳の尖端が塵になり腕に落ちてきた為、解放した。脱力した裸体が床に落ちた。白目を剥き失神した姿は、哀れで美しかった。だが、失敗だ。
「ああ、やり過ぎてしまった。私としたことが。」
反応を伺うだけのはずが絞め落としてしまうとは。今後は気をつけよう。彼への愛憎は自分でも制御できぬ部分がある。
血液を上から注いで、肉体が復活したことを確認する。ブランケットを掛けて、眠ってもらうことにした。フードボウルに新たな血液を入れ、床にそっと置いた。