狩る紅(くれない) 第一話 無造作に片膝を持ちあげた為に女の素肌が裾から覗く。誰の視線を構う必要もなく、寄りかかる背後にその素足をつけた。俄かに怪しくなった空模様が、薄暗がりの伽藍堂を更に宵闇に近付けていた。
折り曲げた膝の上へ、鞘に収まった三十センチメートル程の短刀を立てると左右の格子窓へ眼を向けた。上半身しか現わさぬ一個の人影が肌寒さを誤魔化そうと蠢いていた。女は背後に首を預けながら気を落ち着けようと息を吸い、瞼をおろした。鯉口を切る。瞬間、稲光が周囲を光と影とで浮かびあがらせた。
彼女の正面に目隠しをされ、後ろ手に縛られた男が両膝をついている。酷い暴力に晒された身体にはなんの手当も施されておらず、着物も乱れるままに放っておかれていた。
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