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    吉田@

    主に仗露でジャンル雑多、文字書きによる文字や絵の掲示場です。

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    吉田@

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    仗露
    舞台の上で夢と踊る話
    ※学パロに近い何かです。
    ※夢の話です。

    第五夜 こんな夢を見た。
     
     高校の文化祭における出し物について多数決をとった結果、僕のクラスは体育館の舞台を借りて演劇をすることに決まった。僕が引き受けたのは脚本の執筆と、大道具の書割作りだ。脚本の方は門外漢だが、世界で一番有名な悲劇のラブストーリーを下地にして欲しいという注文がついたので、大した手間はかからない。それよりも、自分の体より大きな板に背景を描きつける作業が思いの外楽しかった。こんなことなら、脚本を書くときにもっと場面転換を増やしておくべきだった、と後悔したほどである。
     そうして迎えた文化祭当日、滞りなく物語が進んでいく様を、僕は上手の舞台袖から眺めていた。退屈だが、台詞を通しで覚えているのが僕しかいないので、出番を前にした役者がど忘れしたときに耳打ちしてくれと頼まれたのだ。全ての台詞には書かれるべき理由があるのだから、話の筋さえ分かっていれば忘れるはずがない。僕からしてみれば、逆にどうして覚えていられないのか不思議で仕方ないのだが。
     そうこうしているうちに、ストーリーはいよいよクライマックスを迎える。致命的な報連相不足により、駆け落ちをする筈の相手が死んでしまったと勘違いするシーンだ。派手に床へと崩れ落ちた男が、最愛の人の亡骸を前に泣き喚く。
     と、物語上ではまだ仮死状態にあるはずのヒロインが、寝かされていた棺の中からゆっくりとその身を起こした。
    「ハァ⁉︎」
     よりにもよってそこでトチるなんて信じられない、と思いきや、舞台の上の恋人同士は手を取り合って再会を喜び、じゃれあいながら下手へとはけていく。アドリブにしてはあまりにも自然で、はじめからそうすると決まっていたかのようだ。おかしい、僕はこんな話を書いた覚えはないぞ!
    「ほら、出番ですよ露伴先生!」
    「アイツのこと、よろしく頼むぜぇ〜」
     頭の中が疑問符だらけになった僕の背中へ、聞き覚えのある声が投げかけられた。こちらが振り返るより先に、声の主たちは僕の体を思い切り突き飛ばす。よろめきながら舞台へと躍り出た僕を受け止めたのは――へらへらと軽薄そうに笑う、心底いけすかないクソッタレだった。
    「そっちから飛び込んで来てくれるなんて、なかなかジョーネツテキっスね、露伴」
    「東方仗助……!」
     してやったりと言わんばかりのニヤケ顔に、僕は此度のカラクリをすべて理解した。さてはこの男、僕がちっともなびかないからって、僕のクラスメイトを丸め込んだな。いくら手段を選ばないとはいっても、流石にこれはやり過ぎじゃあないのか。
     あくまでも不可抗力とはいえ、僕と仗助が舞台上で抱き合っている姿は、ここに集まる観客全員に見られている。客席から、舞台袖から響く野次馬たちの歓声と拍手が、僕たち二人を包み込んだ。他人事だと思って、無責任に煽りやがって。いい加減腹に据えかねて怒鳴りつけようとした瞬間、男の分厚い手のひらが僕の頬にそっと触れた。
    「なぁ露伴。俺のこと、そんなに嫌い?」
     ああ嫌いだよ、大っ嫌いだ。そう言い返してやりたかったのに、間近で見た美貌の破壊力といったらなかった。縋るような眼差しが切なくなるほどに美しく、思わず息を呑む。くそッ、この男は本当に、見てくれだけは一級品だ!
    「露伴……」
     男の顔が迫る。その意図は明らかだ。おい、なぁ、ちょっと待て、せめて心の準備を――。
     
    「やめろ、仗助ッ!」
     全力で叫ぶと同時に、がつんと頭を殴られたような衝撃があった。たかがキス一つにこれほどまでの威力が、と思ったが、どうも違う。はっとして瞼を開くと、目の前に広がるのはよく見慣れた天井だった。もちろん、僕の他に人の気配はない。
     整わない息のまま、状況を一つずつ整理する。ここはM県S市杜王町。今僕がいるのはスポットライトのあたる舞台ではなく、二十歳のときに手に入れた、細部までこだわりの詰まった僕の家の寝室だ。職業は漫画家。高校なんてとっくの昔に卒業しているし、あんな馬鹿げた青春ドラマのワンシーンのような経験もしたことはない。
     ふと、額のあたりがじんじんと痛むことに気がついた。指で触れてみると、そこには小さなこぶのようなものができている。ちょうど枕元に、ベッドボードに置いていたはずの目覚まし時計が転がっていた。おそらく寝ぼけた僕の手が当たり、落ちた時計が額に直撃したのだろう。畜生、最悪の目覚めだ。どうしてこんな下らない夢を見たのか、心当たりは一つしかない。今から遡ること一週間前、あのスカタンが僕に愛の告白なんてものをしてきたせいだ。
     あの日、康一くんに呼ばれてカフェへとやってきた僕を出迎えたのは、顔一面に「緊張」の文字を貼り付けたクソッタレ一人きりだった。あたりを注意深く見回すと、向かいの路地の街路樹の影から、康一くんとアホの億泰が固唾を飲んでこちらを見守っている。一方の仗助は、俺が呼んだんじゃあ話聞いてもらえねぇと思って、などと俯いたまましおらしいことを言った。だからといって、外堀から埋めようだなんて卑怯にも程がある。おかげで僕は、男の秘めた純情とやらを真正面からぶつけられることになってしまった。
     やり場のない憤りが、腹の底からわき上がってくる。おのれ、東方仗助。あれから四六時中人の頭の中に居座るだけでは飽きたらず、ついには安眠まで妨げやがって。第一、夢の中の出来事とはいえ、僕の書いた劇の筋書きをめちゃくちゃにした罪は重いぞ。
     この額にできたこぶが残っている限り、アイツとは絶対に口をきいてやるものか。窓から覗く秋の暁を見上げながら、僕はそう心に誓った。
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