第十夜 心を切り取って地面に埋めると、込めた感情が月日の重さで圧縮されて、やがて宝石になるらしい。そんな噂を耳にした俺は、ずっと見ないフリをしてきた恋心をハサミで丁寧に切り離し、俺んちの庭の端っこに埋めた。誰にも言えない思いを後生大事に抱えてたって、いつかは擦り切れて消えちまう。それならいっそ、熱も痛みも鮮やかなまま残しておこうと思ったのだ。
雨の日も風の日も、世界が何回巡っても。途方もなく長い時間を、俺はひたすら待ち続ける。やがて千年が経ったころ、いつかの俺が埋めた心の切れ端は、硬く透き通った八角形のかたまりに変わった。爪の先くらいのそれをつまんで、太陽にかざす。小さな粒の中心で、虹色に輝く光がちらちらと揺らめいていた。なんだか誇らしかった。俺の心が、こんなに綺麗な宝石になるなんて。
そうだ、アイツにも見せてやろう。たった今生まれたばかりの結晶を手に、俺は走り出す。やがて見えてきた三階建ての屋敷の裏手へ回ると、テラスに置かれた椅子に掛けて、自慢の庭をぼんやりと眺めている男を見つけた。
「露伴!見てくれよ、コレが俺の」
そこでようやく思い出した。そうだ、長い年月の中ですっかり忘れてたが、元をたどればコイツは俺の――露伴への恋心じゃあねぇか。自分のバカさ加減にぶわっと一気に顔が熱くなるが、一度放ったセリフは取り消せねぇ。うじうじと迷っている時間はなかった。ええいままよと腹を括る。
「――コレが俺の、アンタへの気持ちです。ごめんな露伴。伝えんのに、だいぶ時間がかかっちまったけど……」
差し出した手のひらに、じわりと汗が滲んだ。震える俺の手から石の粒をつまみ上げた露伴は、たった一言「綺麗だ」と囁く。
その言葉だけで、この千年がまるごと報われたような気がした。
「ちょっと来てくれ」
過ぎた日々をしみじみ噛み締めている俺の手を取って、露伴は庭へと歩き出す。花壇の片隅、そこだけ綺麗に囲われた一角を指差した男は「僕はここに埋めたんだ」と言った。
「埋めたって、なにを」
「話の流れで察してくれ。僕の、君への気持ちだよ」
隣に立つ露伴の耳たぶが、じわりと赤く染まりはじめた。俺の頭の中で、バチバチと喜びの火花が散る。掴まれた手を引いて、今すぐにでも踊り出したい気分だった。だってそうだろ、千年越しに初恋が実るなんて、こっちは夢にも思ってなかったんだから。
「一つ、問題があるんだ」
天にも昇る心地の俺をよそに、露伴は浮かない顔でさらに付け足す。
「埋めてから、とっくに千年経ってるはずなんだが……コイツが君に見せられる形になるまで、おそらくもう千年はかかる」
待てるか?と呟く声は、びっくりするほどに小さかった。答えの代わりに、俺は繋いだままの手をぎゅっと握る。
大丈夫。二人でいれば、きっと千年なんて一瞬だ。