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    ヒラモト

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    ヒラモト

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    mstdnで量産してるアイドルグループパロの話です。一般人からオーディションで上がってきた🌸と、元子役でとある事情で事務所移籍してきたばかりの🌂が出会ってからデビューに至るまで。🌂視点で会話多め、ALL幻覚なので本当に気を付けた方がいいです

    「〜〜で、マスコミ各社への発表は半年後、デビュー自体は1年後ね。うちの事務所のハンくんって子と、あと今スカウトを街に出してるから4人組になるかな〜。ってことで全員揃ってのレッスンが始まるまで、経験豊富な難波くんには春日くんのサポートをしつつ準備をしてもらえればと思って。本当はハンくんも一緒に、って言いたいところなんだけど、彼ちょっと事情があって中々事務所に顔出さないからさ〜〜」

    口を挟む暇なく捲し立てる社長に啞然としていると、気付いた時には部屋には俺と「春日くん」(と、つい数分前に社長に紹介されたばかりの、オーディション上がりだという男)だけが取り残されていた。

    (冗談じゃない、やる訳ねえだろ。)

    もう役者として表に出る気は無かった。あんなことがあったんだ、まず現実的に難しいだろう。

    それに、正直に言うと今の俺には演技への熱量というものが欠片ほども残っていない。ここ数年はオファーが来ればそれをただ惰性でこなすだけでそこに楽しさもやりがいも見出だせてはいなかった。もう何でこの仕事を始めたのかすら自分では思い出せない。あ、親が子役オーディションに連れていったとかだっけ…。

    とにかく。あの事件が無くたって、そのうち自分から辞めていただろう。

    だからいいんだ、もう。

    だけどまあ、そんな俺の気持ちも薄々察していて尚ここの社長は俺を拾ってくれたんだろうし、俺自身今更他の仕事がまともに出来るかと言われれば答えはNOだ。

    だから、「歌であれば多少出来るしまあ嫌いでもないので、ソロの歌手として最低限の露出をしながら細々と暮らしていければいい」そう話したし、向こうも納得してくれていた。そう思っていたのだが。

    (なんで、突然知らない奴と組まされてアイドルデビューなんて話になんだよ)

    似合うわけもない煌びやかな衣装を身に纏い、有りもしない愛想を振りまく自分を軽く想像するだけで寒気がして、思わず顔を顰める。ふざけるなよ、マジで。

    「あ、あの…」
    「……え?」

    意識の外から急に呼びかけられて随分間抜けな声が出てしまった。ああ、そういえば新入り君のことをすっかり忘れていた。そっちはオーディションをトップで通過して未来への期待で胸が一杯だろうに、隣の男が絶望の色を浮かべていたらさぞかし困惑するだろう。これは普通に俺の落ち度だ。

    「あ、すまん。ええと、アンタ名前は?」
    「…一番、春日一番です。あの、これから一緒に頑張りましょうね!ナンバさん!」
    「いや、芸名じゃなくて」

    すると、一番の眉が瞬く間にシュン…と下がる。まるで捨てられた子犬だ。

    「……本名なんですが」
    「え?そ、そうなのか…すまん…」
    「それよりナンバさん!早速いろいろと聞きたいことが…!」

    今度はキラキラと目を輝かせグイッと俺との距離を詰めてくる。まるで飼い主に尻尾を振る犬だ。その表情がコロコロ変わる様に、思わず顔が緩む。

    「フッ…変な奴…」
    「…??」

    (……まあ、俺は後できっちり断るとして、サポートの方の仕事だけはさせてもらうか。どうせ他の奴らってのが合流するまでのほんの少しの間だろ。あんなのでもここの社長には恩がある、しょうがねえ。)

    そんなことをダラダラと考えている間も一番は、「練習室ってこっちですか?」とか「ナンバさんってこの事務所長いんですか?」とか辺りをキョロキョロしながら質問を矢継ぎ早に飛ばしてくる。なんて落ち着きがない奴だ。あと、俺が事務所入りしたのは3日前です。

    「はぁ……」
    とはいえ、面倒くせぇなぁ…



    ------------------------------------------------
     

    「……とまあ、こんな感じだな」
    「え、ナンバ先生この短時間で振り覚えたのか凄えな…!ダンス、得意なのか?」
    「舞台で少しやってただけ。あとこのステップ自体は基本中の基本。お前もオーディションでやったことくらいあんだろ」
    「あれ?…え…そうだっけ…?」

    一番と出会ってから早1週間が経とうとしている。年が近いことが分かってからは自然とお互いタメ口になっていた。

    一番は何故か俺のことをナンバ先生と呼ぶようになり、事あるごとにさすがだなんだと褒めちぎってくる。どれも少しでも舞台経験が有る人間なら出来て当然のことばかりで今更そんな正面から絶賛する奴など居ないので、毎回どこを見て何と返せばいいのか分からない。

    一番と一緒に居るようになって分かったことがいくつかある。まず、コイツはとんでもないお人好しだということ。他人を蹴落としても売れてやろうとか、誰よりも目立ってやろうとか、そういうギラギラした野心が全くと言っていいほど無い。

    「自分の存在が誰かを元気付けられたらそれでいい」、その一点張りだ。最初は良い子ぶってるだけかと思っていたが、どうやらそうではないことはこの一週間で嫌というほど分かった。

    それに、謙遜が行き過ぎている、というか自己評価が恐ろしく低い。俺のことはあれこれ褒めるくせに、自分は「ナンバ先生の教え方が上手いんだ」「オーディションに受かったのはファンのみんなのおかげで、俺は、何も」と目を伏せる。いや、それはお前の実力ありきだろ。

    あとついでに言うとコイツは顔もスタイルもそこそこ、いやかなり恵まれている。スキル面でも、不器用なのか初めてのこととなると必ず苦戦するが勘が悪いわけではなく、こちらが丁寧に教えれば教えるほどスポンジのようにグングンと吸収する。アイドルの必須科目であろう愛嬌については言わずもがなだ。

    「…お前みたいなのが"天性のアイドル"っていうんだろうな」
    「え??」

    次のレッスンへの移動中、何となく思っていたことを一番に投げてみる。

    「何着たって様になるだろうし、その性格も世間にはウケがいいだろ。あとはステージで歌って踊って笑ってれば、いつもお前が言うように"みんな喜んでくれる"んじゃねえの」

    どうも俺に言われたことがピンとこないのか、一番は首を傾げている。

    「…そんなの、ナンバ先生だって一緒だろ?」
    「はぁ???????」

    あまりに予想外、というか意味が分からないことを言い出すので素っ頓狂な声が出る。

    「アンタ、カッコいいぜ?見た目も声も。ダンスも凄え上手い。何より、自分の練習もしなきゃいけねえだろうに、俺みたいな何も分からないぺーぺーに時間割いていろいろ教えてくれて、超良い奴、だろ??」

    淀みなくそんなことを言いながら顔を覗き込んでくるので、反射的に目を逸らしてしまう。

    「俺はアンタみたいなアイドルがいたら、絶対に好きになる」
    「……」

    俺が何も言えずにいると一番が続ける。

    「それによ、正直最初は芸能界も芸能事務所もどんなところか分からなくて不安だったんだ。でも、アンタみたいな親切な人に最初に出会えて…そんなに怖いとこじゃねえかもって、アンタと一緒なら何とかやっていけそうだなって、そう思えたんだよ」

    俺はこの目を知っている。

    人を疑うことを知らない目だ。



    ------------------------------------------------



    「待てよナンバ先生!!デビューしないって一体どういう…」
    「はぁ…どうせ社長に聞いたんだろ?そのまんまの意味だよ」

    社長には「他のメンバーが合流して"サポート期間"が終わる頃に俺はフェードアウトするから、一番にはそん時に代わりに伝えといてくれ」と散々言ったのだが、どうやら無意味だったようだ。本当に一つも俺の話聞かねえな、あのおっさん。

    (だって、しょうがねえだろ。)

    まさに今そうなっちまっているが、コイツの性格上「なんでだ!」と縋りついてくるに決まってる。そんなの、面倒で仕方がない。まあ、万が一?予定より早くバレちまっても「悪い、言い忘れてた!俺は応援してっから頑張れよ一番〜」とかヘラヘラ笑ってれば良いだろ。

    ついこの間までそう思っていた。

    でも、いざ訪れたこの瞬間に俺の口から出たのは予定とは全く違う言葉だった。

    「ああ、要は騙してたってことだ。最初からお前とデビューする気なんてさらさら無かったけどよ、お前の教育係は社長から直に頼まれた仕事だしリターンもでけえだろって、それ目当てで引き受けた。だから、その期間が終わったらお前と一緒に居る理由なんて無い、そういうこと。」

    役者やってた時はどんなに感情移入出来ない台詞でもスラスラと口から出たし、あんなに簡単に声色も表情もコントロール出来たってのに、今は自分が吐く息の、無意識に握り締めていた拳の震えすら止められない。今どんな顔してんだ、俺。

    「大体お前は知らねえだろうけど、俺は前の事務所クビになってここにいんだ。何でか分かるか?自分がやってもねえ不倫の疑惑ふっかけられたからだ。その濡れ衣着せた張本人は世間からも同業者からも評価されて今もこの世界でのうのうと生きてるよ」

    一番はというと、「ナンバ…」と小さく呟いただけで真っ直ぐに俺の目を見ている。何で、何でそんな哀しい目をするんだ。もっとこう、裏切られた怒りとか、俺やこの業界への嫌悪とかあるだろ。何のためにお前に俺の傷跡晒してると思ってんだよ。

    お前があんな目に合うくらいなら、傷つくくらいならここから遠ざけたいと思った。だって、俺と同じ気持ちに、お前はいつかきっとなるから。それが嫌だと、思ってしまったから。

    (お前みたいな奴が泳いでいくにはこの海は汚すぎるんだよ)

    「これで分かっただろ…俺も、この業界も、お前が思うような綺麗なもんじゃねえ。俺はもう、お前みたいなお人好しも、こんなクソみたいな世界もウンザリなんだよ!!」

    頭がクラクラする。こんなに声を荒らげたのは、自然に涙が流れそうになったのはいつぶりだろう。

    一番は口を挟むことなく最後まで聞き終えると、一度目を閉じて大きく息を吐いてから、また真っ直ぐに俺を見据えた。

    その目は、温かな光りを讃えていた。

    「……分かった」
    「……何が」
    「…ナンバは、やっぱり良い奴だってことが、だ。お人好しはお互い様だろ?」
    「え?」

    ずっと握り締めていた俺の左手を一番がふいに取って両手で包む。

    「今の言葉、俺のこと心配して言ってくれたんだろ?…ありがとうな」
    「…やめろ、そんなんじゃねえよ…」

    振り払おうとしても、一番は俺の手を離そうとはしない。

    「なあナンバ、あんたの気持ちは分かった。どうしてもって言うなら俺は止めねえよ、でも…」
    「…?」
    「もう少しだけ、付き合ってくんねえか?」
    「……え?」



    ------------------------------------------------



    「なんだよ、もう少し付き合えって」
    「ついにデビュー曲の音源が届いたんだけどよ、俺ダンス以上に歌が苦手で…」

    そう頭を掻く一番の手には歌詞が書かれた紙と音楽プレーヤーが握られていた。

    確かに、一番とは体幹トレーニングなどの身体作りやダンスレッスン、簡単な発声練習が主で、本格的なボーカルレッスンを一緒にやったことはない。それはそうなのだが、

    「知るか。さっきも言ったろ、もうお前のトレーナーごっこは終わ…」
    「俺にはアンタの助けが必要なんだ、最後だと思って力貸してくれねえか…?」

    初めて一番が俺の言葉に被せてきた。その有無を言わさない口調と視線の強さに何も言えなくなる。

    「……はぁー……、わかった、わかったから」
    「本当か!ありがとうな!」

    本当か、じゃねえよ全く。……ともあれ、こういうのは一回やってみせた方が早い。

    「…じゃあ、とりあえずサビの部分だけ歌ってみるから、その後一緒に音程とか確認する感じで…」
    「はい!ナンバ先生!」
    「それやめろ」

    フゥ、と軽く息を吐いてから手に持った歌詞に目を落とす。流れてくる音の輪郭をなぞるようにサビのフレーズを口ずさむ。この瞬間だけは曲と自分しか演者は存在しない。…うん、やっぱ歌はいいな。

    「…はい、こんな感じ、じゃあ次は…」
    「………凄え」
    「あ??」

    黙って聴いてたかと思いきや、突然一番が満面の笑みでガバッと俺に抱きついてくるので面食らう。

    「え、え、何????」
    「なんだよ今の!!ナンバ歌も上手いんじゃねえか、言ってくれよ水くせえな!」
    「は??え??」 

    一番に激しく揺さぶられているせいか頭が働かない。

    「しかもこうなんか、ただ上手いだけじゃねえっていうか!!こう、心が揺さぶられたんだよ!感動したっていうか!!なあ、ナンバ!もっかい歌ってくれよ!!」

    興奮冷めやらぬといった感じで嬉しそうにはしゃぐ一番の姿を見て、俺の脳裏には幼き日の思い出が微かに蘇っていた。

    そう、あれは弟がハマってた仮面ライダーかなんかの台詞だったか戦闘シーンだったかを見様見真似で覚えて、家族の前で披露したんだっけか。

    『わー!!カッコいい!!お兄ちゃんもう一回やってもう一回!!』『こんなに長いの全部覚えたの?凄いじゃない悠!』『……もしかして、もっとお芝居やってみたい?』

    『うん!』

    ああ、そうか、俺は。

    誰かの喜ぶ顔が見たくて、この海に飛び込んだんだ。



    -------------------------------------------------



    「ナンバ!そろそろスタンバイ…あれ?」

    一番の声で我に返る。いつの間にか楽屋には誰もいなくなっていた。

    「すまねえ、イメトレの邪魔したか?」
    「いや、大丈夫だ。」

    イヤホンを外して鞄に仕舞う。ステージの前はこうやってその日のセトリ通りに曲を流しながらイメージトレーニングをするのが習慣になっていた。

    (でも、今日は珍しく昔のことなんか思い出しちまったな…)

    「………」

    伝えるなら、今な気がした。

    「あのよ、一番」
    「ん?何だ?」

    「……ありがとう、俺をアイドルにしてくれて」

    一番は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの太陽のように温かい、それでいて俺にはまだ少し眩しい笑みを浮かべる。

    「おう!…でもよ、それはこっちの台詞だぜ、"ナンバ先生"?」
    「だから、それやめろって」
    「へへ、なんか懐かしいだろ?」
    「フッ……まあな」

    一番と連れ立ってステージ裏までの長い廊下を歩く。開演前で慌ただしく動くスタッフの声やステージの方から聞こえる場内bgmが混ざりあった雑音が、不思議と心地いい。

    ふと、隣から強烈な視線を感じるので引き寄せられるように俺も横を向く。一番と、目が合う。

    「ナンバ」
    「え?」 

    「衣装、凄ぇ似合ってる!やっぱカッコイイよな、アンタ。さっすが、俺のアイドルだ」


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    ヒラモト

    MOURNING〈注意〉
    ・趙さん視点で会話多め、春日君は少しだけ出ます
    ・これを書いている人は春日君が仲間たちに愛されていることを祈るお化けなのでそれが文面に滲んでます、多分
    ・主に趙さんが荒川親子を良く思ってない描写があります
    ・ナンバと趙さんの関係、二人が荒川親子へ抱く感情には解釈・想像の余地が沢山あると思うので、一オタクのただの妄想だと思って薄目で見てもらえると助かります!
    荒川親子のお別れ会を数日後に控えたある日、春日、ナンバ、趙はサバイバーで飲んでいた。他の仲間たちは最近はそれぞれの仕事に忙しいようで、今日もこの3人以外に店内に客の姿はない。

    春日は何とも無いように振る舞ってはいるが、時折どこか遠くを見るような、心ここに在らずといった風で、その酒がほとんど減っていないのが趙は気掛かりだった。

    それはこの店のマスターも一緒だったようで、少し何かを考え込んだのち、「春日、ちょっと買い出しを頼んでもいいか?」と声を掛けた。もちろん春日は快くそれを請け負う。

    「おい一番、どこ行くんだよ」 

    店を出ようとする春日をナンバが呼び止めた。

    「どこって、買い出しだよ、買い出し!マスターに頼まれたの、見てただろ??」
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