無題 初めてトラが俺の家に泊まったのは、まだŹOOĻとしての活動を始めたばかりの頃だった。
毎日当たり前のように収録に遅刻してきては、悪びれる様子など一切ないトラの態度に、いい加減頭にきてしまい、勢い任せにトラの着ていたシャツの襟を掴んだ。
いくらするんだか分からない高級そうな生地が、シワになりそうなぐらい、グシャグシャに掴まれているのを気にしていないかのように、その時のトラは何処吹く風で余裕そうに口元の端を吊り上げて笑っていたのを覚えている。
「なら、あんたが起こしにでも来て、無理やり連れていけばいいんじゃないか?」
そんなことまで出来ないだろう、とでも言いたげにトラの瞳が弧を描く。毎回毎回遅刻しているトラに鬼電こそするが、わざわざ起こしに行ってやる義理なんかあるわけない。
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