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    湊(みなと)

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    湊(みなと)

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    リディアが離脱していた時の短い話。幻獣界ってこんな所かな、を詰めたものです。

    #FF4
    #リディア
    lydia.

    金の砂時計(あたしは昔、早く大人になりたくて仕方なかった)


    小さな召喚士が幻獣界にやってきたという噂はもう新しいものではない。誰もが少女のことを知っていて、何か困っていることはないか、いつも気にかけてくれるような仲間達ばかりだった。
    男性よりも女性が、大人よりも子どもの方が幻獣と繋がりやすい。そう聞いて育ってきたのも間違いではなかったようで、ここの住人達に歓迎と親愛以外何も感じられなかった。
    上を向いても太陽も月も出ていない世界。明るさがどこから来るのか、そもそもこの空間がどこまで繋がっているのかも分からない。


    母と繋がりが深かったドラゴンに出会えた時、まるで母と再び出会えたような既視感すら覚えた。嬉しくて、でも母がいないことは悲しくて寂しくて、どの理由で泣いているのか分からなくなったリディアに母のドラゴンはただ静かに側に寄り添ってくれて。

    (ここにいれば、ずっと一緒にいられる)

    ここには「時間」という概念が非常に薄く、曖昧で、それなりの自由がきくらしい。魔法ではストップ・ヘイスト・スロウなどの時間を操る魔法もあるが、ここはそれ以上に己によって左右される。
    試しに女王であるアスラに年齢を聞いてみるとそんなものに意味は無いと返ってきた。幻獣王に尋ねてみると、この幻獣界における時間の流れについてリディアにも分かるように説明をしてくれた。

    ここでは、自分を取り巻く時間の流れを好きに決められること。
    決めてしまえば食事すら摂らずに、睡眠すら必要無く生きていくことも出来ること。
    いつでも自由に決められること、変えられること。
    他人の時間は決められないこと。
    朝・昼・夜、一日・二日、などの区切りがないこと。
    でも外界に出てしまえば、外界の時間の流れには逆らえないこと。
    一度流れた時間は決して遡れないこと。
    今は外界に幻獣を呼び出せるような召喚士がいない為、外から干渉されることはなく切り離された状態であること。

    どんな風にリディアが暮らしても構わない、そんな説明をしてから最後に『女性に年齢を聞いてはいけない』と茶目っ気たっぷりに教えてもらった。どうやらあまり良くないことを聞いてしまったようなので、これは後でアスラに謝っておいた。


    いつの間にか白魔法は不得手になってしまったが、黒魔法の腕は格段に上がっている。魔法の鍛錬と精神修行と幻獣達とのコミュニケーションは毎日欠かさない日課で、間違いなく成果は出てきている。けれど”日”課という言葉の意味すらここには無いのかもしれない。

    (でも、あたしは…)

    ロッドを握った両手を見てみる。ここに来たときと何も変わっていない、小さな手のひらだ。

    ほんの少しの間一緒に旅をしたおじいちゃんの姿を思い出せば、しっかりとロッドを握りしめて振るい戦う姿が浮かんでくる。年を重ねた節くれだった大きな手で頭を撫でてもらったことは忘れられない。

    セシルは、ギルバートは、海に落ちた自分を助けようとしたヤンはどうなったのだろう。きっと大丈夫、あんなに優しい人達が、あんなに強い人達が、母と同じように世界のどこにも居なくなってしまうなんてことは無いはず。今までなるべく考えないように蓋をしていた事ばかりが溢れてくる。


    ここに来て困ることなど何もない。ミストの村にいた時は母や村人達に守られて育ったが、全く危険がなかったわけではない。時折、村のはずれで魔物が襲ってきたという話を聞き、畑が荒らされた跡を見たことがある。村の外から帰ってきた人が怪我を負っていて、治療の手伝いを申し出たこともある。

    セシルと共に外へ出た時は弱っている上に過酷な環境の砂漠から洗礼を受けた。洞窟は薄暗く、あの暗闇に何か潜んでいるのではないかと不安ばかりをかきたて、ひんやりとした空気に心まで凍らせられそうだった。山へ登れば酸素が薄く、呼吸も難しく、急な斜面には何度も足をとられて。そんな中でも魔物は何の遠慮も無く襲ってくる。


    今はせいぜい自分が出した魔法で失敗してやけどをするくらいだ。ここにはそんな程度の危険しかない。
    ぎゅっと閉じていた瞼を開ければ、広がるのは見慣れた居心地のよい優しい世界。小さな自分が愛される世界。この空間も、ここに住んでいる者達も、大好きだ。
    もう一度改めて自分の両手を見てみる。この両手で何が出来るのだろうか、自分は何がしたいのだろうか。

    何の為に修行をしているのか、忘れていたわけではない。


    「幻獣王様、お話があります」


    ロッドを握る手に、もう幼さは残っていなかった。
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