猫とたんかべ某日　防衛本部　敷地内にて

（今日は何を描こうかな)
（……猫だ）
（すごい所にいるな……塀と物置の隙間……狭くないのかな）
（……すごく、じっと見つめてくる。なんだろう……もしかして、出られなくなってる？）
（あ、出てきた）
（逃げるかと思ったけど、寝転んでる。今日はこの子を描いてみようかな）
（逃げられる前に描き切りたいからクロッキーで……）
（……）
（時々こっちの様子をうかがうわりに、全然逃げない）
（……）
（……瞳が緑色だ）
（珍しい……気がする。あんまり見ない色だ）
（少なくとも野良猫ではあんまり見たことがないような……？元は飼い猫で、どこかから逃げてきたのかな）
（……）
（あ、逃げちゃった）
（誰かに餌付けされてるのかな？おれが餌持ってないって分かったから逃げたのかな）
（……次は何を描こうかな）
（……）
（……）
（あれ、おれ……）
「ニャー！」
「わっ」
「おい、邪魔してやるな」
「四季さん！？……と、猫も……」
「悪い」
「いえ。四季さん、この子と知り合いなんですか？」
「知り合い？……あぁ、まぁ……時々防衛本部に忍び込んでるから、撫でてやってるくらいだよ」
「ニャーオ」
「はいはい、今日は何も持ってないから他を当たれ」
「ニャ」
「行っちゃった」
「現金なもんだ」
「……餌付けしてるんですか」
「……たまたまだ。初めて見かけたとき、毛並みもボロボロで痩せてて……ちゃんと敷地の外に追い出してから分けてやったのに、未だに忍び込んでくる。もう健康そうだし、しばらく餌はやってないよ。なのにどうして来るんだか……」
「四季さんに会いに来てるんじゃないですか？」
「僕に？そうだとしたら律儀な猫だな」
（あ、四季さんが笑った……そうだ）
「おれ、さっきあの猫を見かけて描いてたんです」
（四季さんに見てほしい）
「……ふぅん。あの猫の、ふてぶてしい雰囲気がよく出てる」
「ふてぶてしいって……へへ、ありがとうございます」
「……その右下のは？」
「右下ですか？……あっ、これは………」
「……僕？」
「……はい……あの、さっきの猫を見てたら、四季さんのことを思い出して……」
「へえ」
「……なんとなく、似てる気がしたんですよね」
「あの猫と僕が？」
「はい」
「……そう？僕あんなにかわいくないけどな」
「たしかに、四季さんはかっこいい方ですよね」
「……どうも」
「あっ、すみません、変なこと言って……」
「別に、嫌じゃないよ。あの猫と同じ紙に自分がいるっていうのも、悪くない」
「そ、そうですか？ありがとうございます……」
「うん」
（悪くない。……いや、嬉しいな。六花から見た俺は、あの猫と並び立つくらいに、と思うと）
（ふしぎな気分だ）