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    @t_kr_ex

    Webオンリーにて展示していた忍跡小説をまとめております

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    夜な夜な。の跡部視点

    あいあい。この男は、涼し気な顔の下に秘密を飼っている。
    それは伏せられた睫毛の影であったり、密かに溜息を零す唇であったり、何もないと言葉を転がす舌先であったり、瞳の奥に棲む寂しさであったりと様々だ。
    忍足侑士という男には才がある。それは天賦のものと云うべきか、緻密なゲームメイクを可能にする技巧はさることながら、ひとたびコートに立てば冷静に状況を分析し場を支配する様には誰もが舌を巻く。
    一見すれば恵まれたものだろう。体躯も力も与えられたこの男を、選ばれた側だと錯覚する者も少なくはない。しかしそれはあくまでテニスの話であり、そもそもこの男は才能だけでここまでのし上がってきてはいないのだから勘違いも甚だしい。確かな能力を持ちながらもより高みへと上らずにはいられない、この男の努力を知る者はどれほどいるのだろうか。閉ざされた心の裏側で彼が何を思うか、その全貌を知る者は恐らく。
    この男の一番弱いところに触れられる特権は俺だけが持つ。彼が恐ろしく思う全てのものを綺麗さっぱり取り除いてやりたいと思う程度に俺はこいつに惚れていて、それから。
    「……喜べ、こんなことすんのはテメェだけだからよ」
    規則正しい寝息を立てる男のこめかみへ唇を寄せ、宵闇を染み込ませた髪へ指を埋めれば甘えたように体が擦り寄る。その仕草が俺の胸を焦がし、愛しくさせ、満たすのを、お前はきっと知らない。
    悪いものを喰らうように息を吸えば、忍足の顔が幾分か明るくなったような気がする。気のせいだとしても、お前が笑みを浮かべているから俺は幸せを味わえる。
    吐息が溶ける午前二時、お前の明日が健やかなものであることを祈る。この男が生まれた日を、俺が世界の誰よりも祝福してやろう。
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