金魚の鉢 何らかの良からぬ気配を感じて目覚めた瞬間、なぜか虫取り網を持った榎木津が腰に手を当てて見下ろしていた。よくないことに非番の朝である。
「釣りにいくゾ!」
「馬鹿、お前のそれは虫取り網だ。目が細かすぎて水が逃げにくいだろう?」
起き上がって欠伸一つ溢し、浮かんだ涙を瞬きで散らす。
「手頃な網がこれしかなかったんだ!」
「釣りに行くなら網じゃなくて竿と糸持ってこい」
「竿?」
ちらりと下を見て態とらしく首を傾げる榎木津につられ、視線を落とせば軽く褌を持ち上げている朝の整理現象を意識させられ木場はチッと鋭く舌打ちをした。
「朝から元気だな、木場修。釣りは辞めて今日はしっぽり布団の中で過ごすか?」
にやりと口角を引き上げる榎木津にさらにもう一つ舌打ちをして木場は煎餅布団から起き上がった。
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