残り火夜が深くなってくるとタバコを吸いたくなって俺はベランダに出た。
ベランダから夜の町を見ると、どこも家の明かりはついていなくて寝静まっている。俺も明日仕事だから早く寝ないとな。そんなことを思いながらタバコに火をつける。
俺は別にタバコが好きな訳では無いし美味しいとも思わないけどたまに吸いたくなるときがある。例えばあの人に会ったときとか。
だってあの人が吸ってたから。
このタバコの味だってあの人が教えてくれたものだ。あの人はいつもこの緑色のパッケージのタバコを吸っていた。分かりやすすぎて笑ってしまう。でも赤色じゃなくてよかったと思った。赤色なんて見る度にあの人を思い出すから。
でも吸っている間はそんなの関係なく、あの人と過ごした日々が勝手に思い浮かんでくる。
俺はまだそれを綺麗な思い出にすることができないでいた。今だってどうしてあの人と別れなきゃいけなかったのか、どうしてあの人は俺以外の人と幸せに生きているのか、どうしたらその幸せを壊してまた俺と一緒に生きてくれるだろうか……なんて、そんなことばかり考えてしまう。
俺のこの思いはタバコの煙にのって昇華することなく、タバコの残り火のようにずっと心に残り続けるのだろう。
いっそのこと灰となって燃え尽きてしまえばいいのに。