キミのココロ、ボクのキズ-3- 3.
結局二ヶ月と一週間ぶりの降谷からのメッセージを、新一は既読スルーした。このような関係になってから初めてのことだ。もうどうにでもなりやがれと投げやりにスマートフォンの電源自体を切って放り投げ、かれこれ二週間が経つ。プライベート用と仕事用の二台持ちであるため、私用のものをぶん投げたとしても業務には何ら支障がない。おかげで二度ほど『スマホが繋がらないんだけど!?』と蘭や宮野から仕事用の方に苦情が入ったが、新一のプライベート用の番号を教えてある人間は大体仕事用の番号も知っているため、向こうに繋がらなければこちらに掛かってくるだろうと言う甘えも多分にあった。
────ま。降谷さんにはこっちの番号教えてねぇけど、風見さんや上層部や捜査一課の面々には伝えてあるし、風見さんづてで連絡取ろうと思えばできるんだけど、な。
面白いほど連絡が無いところを見れば、捕まらないならそれでも構わない、何ら困らないと見切りを付けられたのかもしれない。まだズクリと胸は痛むが、それでいいとさえ思えてきた。このままこの想いも共に風化してくれればいいのに、と。夕焼けに染まる窓の外に視線を向け、赤く焼ける風景をぼんやりと眺めていた。
本日の業務が終わり、事務所を施錠して外に出た瞬間、強い力で右手首を掴まれ、そのままグイグイと引っ張られるまま車に押し込まれそうになって慌ててその不躾で乱暴な手を振り払おうとしたのだが、ビクともしない。目の前にあるのは────白のRX-7。
「何すんですか。離してください」
極力感情的にならないよう心がけてそう淡々と言っても、男は無言で突っ立ったまま、新一の手首を離す気配も見せない。
「手首、痛いんですけど」
「…………」
「……ちょっと。聞こえてますか? 手首が痛いので離してください降谷さん」
「何故だ」
「……この場合、それは俺のセリフだと思いますが」
じ、と。掴んで離さない褐色の大きな手の甲を見つめながら言い返せば、少しだけ向こうがたじろぐのが分かった。
「二週間前のメッセージを見ただろう。どうして一言も返さないんだ。それどころかスマホの電源自体を切っていたのはどうしてだ? 予定が入っていたり気乗りがしなかったのならそう返してくれれば良いだろう」
「…………」
「……だんまりか」
「………………くせに」
「……? よく聞こえない」
「いつでもアンタの都合のいい時に捕まると思うなっつってんだよ」
「!」
「アンタが二ヶ月以上放ったらかしてたように、俺にも俺の都合ってもんがあるンですよ。ついでに言えば今日もパスです」
まさか新一に強く反抗されると思っていなかったのか、手首を掴んだ手の力が緩んだ隙を逃さず振り払うと、そのまま背を向けスタスタと歩き出した。背を向けた瞬間も、一歩歩き出した瞬間も、直ぐに振り返って、縋ってそのまま抱かれたがっている自分自身を無理やり押し込め、未練を見せない態度を偽って早足でその場を去るのが関の山だった。
もしかしてすぐ追いかけてきてくれるのではないか、こちらの機嫌を窺ってくれるのではないかという淡い期待は────脆くも崩れ去った。