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    kawauso_522

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    kawauso_522

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    1年生の春五(オリ忍)。馴れ初めなのでBL要素なし

    入学直後1年春五 五津河久にとって春日井光孝は光そのものだった。
     はじめは光孝の大きな声やにこやかな表情に敵意すら覚えて敬遠していたのに、気がつけばこの6年間ずっと寄り添って生きてきた。
     同室の絆、と同じ年の先輩たちは言うけど、河久にとっての光孝は「同室だから特別な友達」という訳ではない。河久は接点があるからと他人に容易に気を許すタイプではないからだ。
     それなのにどうしてこんなにも光孝を心地よいと感じるのだろう。それは賢い河久にもよく分からない事柄の一つだった。

     思えば入学当初から光孝と密に接している訳ではなかった。それこそ最初なんて本当にただのクラスメイト兼同室の男でしかなくて、互いに文句を言いあっていたような記憶もある。その理由はほとんど身一つで入学した光孝に対して、河久が大量の書物と共にやってきたからだ。しばらくはその山積みの紙束に光孝が眉をひそめていたので、河久は早々に部屋の一辺を埋め尽くすサイズの棚を購入し、部屋に持ち込んだ。その後が問題だった。
     棚の一件がきっかけで河久が大金を持っているということが露呈してしまった。同級生は皆まだ入学したての1年生だ。金持ちに強請る行為に何の抵抗も覚えない者が多い。結果として毎日のようにたかられることになった河久に、ある日光孝は問いかけた。
    「河久はほんとうにそれでいいのか?」
    それはちょうど同級生の一人に河久がたかられている最中だった。
    「めんどくさい。断るのも、窘めるのも」
    「河久がそれでよかったとしても、それでは相手のためにならないだろう」
    「相手のことなんか考えてない。どうでもいい」
    「それでも、その金は河久のごりょうしんがかせいだ大事な金なんじゃないのか?」
    「僕を待つ両親などいない!」
     河久が急に声を荒げるから、たかりに来ていた1年生は去っていった。残されたのはわなわなと震える河久と光孝の二人。
    「河久は孤児なのか?」
    「違う。勘当された。家を追われたんだ、父に」
    「それなのにどうしてそんな金を……」
    「手切れ金だってさ。金持ちの家だったから」言いながら河久は目の前がぼやけていくのを感じた。学園に来る前に散々泣いたはずなのに、光孝に事情を話したことでまた涙が溢れてきた。こんなこと誰にも言うつもりはなかったのに。
     そんな河久を光孝はただ黙って抱きしめた。
    「ごめんな……河久、おれは河久の味方だから」
    「そんな簡単に味方になられてたまるか。お前僕の何を知ってるんだよ……」
    「河久、おれが書物に囲まれてきゅうくつそうだからってすぐに棚を買っただろ。あれはおれに気をつかったからだ。河久は本当にかしこくて、実はよくひとのことを見ている。そうだろ?」
    「そんなの、当たり前のことじゃ……」
    「散々たかられて、どう思った?気をつかうのがあたり前なら河久はどうしてそんなに金をむしんされている?」
    「それは……子供は即物的だから……」
    「そうだ。だから河久はおれたちよりずっと大人なんだ。かしこくて、おとなで、それってすっごくかっこいいだろ!」
     光孝は河久を抱きしめたまま笑う。横隔膜の震えが伝わるのがなんだか心地よかった。
    「優しいな、お前。でも僕は本当に……人に何かを求められた時、どう突っぱねたらいいのか分からないんだ」
    「ことわるのも時には大事なことだけど、河久が出来ないというならおれがそれをてつだうよ」
     翌朝、担任の先生から直々に「五津河久にたかるの禁止令」が出された。おそらく光孝が先生に告げたのだろう。
     しかも河久が読書をしたり勉強をしている横には、必ず光孝がついてまわるようになった。光孝は1年生の中では飛び抜けて発育がいい。これではどんな悪餓鬼も手を出せないだろう。結果として五津河久は平凡な学園生活を手に入れることに成功した。

    「お前本当にお人好しなんだな」
     薄明かりの下で本を捲りながら河久は問う。
    「そういう訳じゃないさ。おれは河久と友達になりたかっただけで……」
    「じゃあ実際友達になってみてどう思った?僕はつまらないし愛想もないだろう。基本的に人は苦手なんだ。嫌いな人間の方が多い」
    「河久らしいな。でも、おれにもきらいな人間はいるぞ」
     え、と河久は固まった。春日井光孝はいつもムードメーカー的存在で、誰にでも優しく明るい。そんな河久とは真逆の人間にも嫌いな奴がいるなんて。
     光孝はそこまで完璧な人間ではないのかもしれない、と河久は考えを改めた。表に出さないだけで誰にだって悩みの一つや二つはあるのだろう。
    「なあ」
    「なんだ?」
    「明日起きたら僕のことも起こしてくれないか」
    「いいぞ」
     すんなりと光孝は了承した。ただの頼み事だと思ったのだろう。しかし河久はこの時点で"ある計画"をしていた。
     それは服毒調査だ。河久には自分が作った毒を自分で試す悪癖があった。しかし、学園に入学してからは慌ただしい日々が続き、それどころではなかったのだ。
     学園に来てからはじめて服毒をする。河久は本を読みながら密かにその決意をかためていた。
     今回服用する毒は河久が独自に調合した特別なものだ。その効力は未知数。
     だから次の日は起きられないかもしれないし、ひょっとしたら暴れ出すかもしれない。人に迷惑をかける結果になるのは確実だろう。それに、ひょっとしたら死ぬかもしれない。
    「人に委ねるなんて僕らしくないかもな」
     でもどうなったとしても光孝が起こしてくれるなら、またここに戻ってこられるだろう。光孝が眠りに落ちたのを横目で見たあと、河久はそう結論づけて毒液を煽った。
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