【嘘か誠か】「やぁ、お姉さん。今、お暇かな?」
「…暇じゃない。」
星が1人で下層部を歩いていると2人組の男が声をかけてきた。星は彼らを一瞥し、一言だけ言ってその場を立ち去ろうとする。
「まぁまぁ、こんな所で1人でウロウロしてるのも危ないしさ、あっちで話でもしようよ。」
「ちょっといい話があるからさ、聞いてみない??」
「…いい話ってここじゃ話せないようなことなの??」
無視をしてもしつこくついてまわる男にうんざりした星が反応すると、興味を引けたと思ったのか男たちはニヤリと笑う。
「そうそう、俺らだけの秘密の美味しい話でね。他の人には言えないのさ。」
「お姉さんには特別に教えてあげるから。ね?」
「いや、だから暇じゃないって言ってる。」
星は興味ない、暇じゃないと拒絶するがそんな言葉届いていないかのように、まぁまぁと星の手を男の1人が掴み、人気のない所へと星を連れていこうとする。
「いい加減に…「おやぁ!!星さんじゃないですかぁ!!」
聞き馴染んだ声がした方を見ると青髪の男がニコニコとした表情を浮かべ近付いてきていた。
青髪の男がこちらまで来ると星を掴んでいる男の手首を掴む。
「星さん、こちらは御知り合いの方で?」
「いや、知らない。」
「そうですか。」
青髪の男は星にそう確認をすると掴んだ男の手を捻り、星から遠ざける。
「いでででで!!」
「げぇ、サンポ!?なんでここに!?」
青髪の男もといサンポに抑え込まれた男は悲鳴上げる。表情は笑顔でこそあるものの妙な威圧感を含んだサンポに相方が易々と押さえられている様を見せつけられたもう1人はその場に立ちすくみ動けなくなっていた。
「こちらの方…僕の"お得意様"なんです。どうすればいいか、わかりますよね??」
「わかった!わかったって!!もう手ぇ出さないから!!離せって!!」
「はい、物分りがよくていいですねぇ。」
パッとサンポが男の手を離すと、サンポの客だったとかツイてないとブツブツと小言を言いながら逃げるように男たちはその場から離れていった。
「助かった、ありがとう。」
「いえいえ、むしろ僕にお礼を言うのはあの男たちなのでは?」
そういうサンポが星の後ろに隠された掴まれていなかった方の手を見る。そこには星愛用のバッドが握られていた。サンポが止めていなかったら彼らは腕を捻られる程度じゃ済まなかっただろう。
「無用な乱闘せずに済んだから、ありがとうであってるよ。」
「そうですか。それなら良かったです。」
さすが開拓者様はたくましいですねぇといつもの調子のいいことを言いつつ、チラチラと星を見ていたサンポが言葉を続ける。
「ところで…お姉さん、今お暇ですか??」
「ん?…まぁ暇と言えば暇だけど?」
「お姉さんに僕から美味しい話があるんですけど。」
「…あんた、どこから見てたの??」
ついさっき同じようなやり取りしたなぁっと思ったが、星の気のせいではないことはニマニマと笑う目の前の男の表情でわかった。
「いやー、助けるべきかどうかを様子見してただけですよぉ。ほら、僕の早とちりだったら困るでしょ??」
「はぁ、あんたってやつは…」
「それでお返事は??」
「んー、ご飯奢ってくれるなら話だけでも聞いたげる。」
さすが僕のお得意様!!と意気揚々と案内をするするサンポの後ろを呆れたような表情をしながらも星がついて行く。
「しかし、誘っておいてなんですが1人でこうホイホイ着いてくるのはどうかと?一応僕も男なんですが、さっきの警戒心のよさは何処へ行ったのです?」
先程までと打って変わってサンポ自身に対しては警戒心ゼロの星に、信用されているという少々の優越感はあるものの、それはそれとして全く意識されていないのも男としてどうなのかと思ったサンポが、面白くなさそうに少々説教じみた言葉を星に投げかける。
その言葉を聞いた星は、んー?っと少し悩んだあとにいつもと変わらぬ口調で告げる。
「別にサンポになら襲われてもいいかなって。」
「っはい!?」
予想もしていなかった星の返答に見たこともない速さで振り返ったサンポの表情はいつもの貼り付けた笑顔ではなくとても間抜けた顔で、それを見た星は思わずふはっと笑う。
「……なーんてね。」
ニヤリと笑いながらサンポを見上げそう言うと、星は固まるサンポの横をすり抜け前へ進んでいく。はっと意識を取り戻したサンポがその後を追う。
「ちょっと星さん!?僕をからかったんですか!?それとも…」
何奢ってもらおうかな~っとサンポの言葉を遮って進む星と、まだ話は終わっていませんよ!と慌てふためくサンポの声が下層部の路地に消えていった。