サンポが敵になったサン星の話※うっすらとベロブルグの最後の方を意識して書いてるのでベロブルグストーリークリア後推奨。
幸せな話ではないので苦手な方は注意。
「……っはぁ」
丹恒となのか達とはぐれてからというもの、星は1人で戦い続けていた。
殴り、蹴り、突き、踏み付け、壊しても何処からか湧いて出てくる人形人形人形。
いくら体力に自信のある星でも流石にこのままではいつかは力尽きてしまう。
「ああ!!もう!!うっとうしい!!」
自身の武器のバットで目の前の人形三体の頭を潰す。
活動を止めた人形はボロボロと崩れ消えるが代わりに暗闇の中から溶け出るように次の人形が現れる。
「…はは、1周回って笑えてくる。」
自傷気味に口元に笑みを浮かべながら次の戦いにそなえ、星がバットを構えた時だった。
パチパチパチパチパチパチ
誰かの手を叩く音が響いた。
とたん、先程まで一直線に星へ向かってきた人形達が道を開けるように頭を垂れ、その間をゆっくりとした足取りで闇の中から姿を現した1人の人間が歩いていた。
「いつもながら凄まじいですねぇ。これ程までの人形をおひとりで潰されるとは…流石、と言わざるを得ません。」
現れたピエロの仮面をつけた人間。仮面のせいで顔は見えないが声質と背丈から男だと分かる。
更にその男の飄々とした話し声と姿は星にある人物を思い出させた。
とある雪に覆われた星で出会った商人を。
その商人は会う度に詐欺ばかりでどうしようもない男だったが、妙に義理堅く、星がピンチの時はどこからともなく姿を見せていた。
もしかしたらと思う自分の甘い考えを振り払うように星は男に問いかける。
「……誰」
他の星に行き来する手段の無い星だった。あの人がこんなところにいるはずがない。いて…いいわけが無い。
星は自身に言い聞かせるがそうであって欲しいと思ってしまう自分が邪魔をする。2人きりの時だけ星と呼ぶあの人の優しい目を、声を、忘れるわけがなかった。
「僕のことが分からないとは悲しいですねぇ。あなたと生死を共にした兄妹だというのに。」
刹那。それは確信に変わる。自身を兄妹などと呼ぶのはただ1人しかいない。
「…サン…ポ?」
星が震える声で男の名を口にすると、男はゆっくりこちら側へ近付きながらその仮面を外した。
うっすらとした光に照らされた男は、特徴的なネイビーブルーの髪。どこまでも人を見透かすようなグリーンの瞳。そして貼り付けたような人の良さそうな笑顔を浮かべていた。
「お久しぶりです。我が最愛なるお得意様。」
聞きなれた調子の良いセリフとともに、身なりこそあの頃と違ってはいたが、そこには星の知るサンポが変わらずに立っていた。
「サンポ!!ああ、サンポ!!よかった!!こいつらしつこくて。1人じゃもう…だから一緒に「ああ、いけません。いけませんよ、お姉さん。」
度重なる戦闘を1人で続けていた星にとって、サンポの存在は救いだった。
安堵で思わず笑みを浮かべ、すがるように駆け寄った星の言葉を遮るようにサンポの指が星の口元に当てられる。
「考えることを放棄してはいけません、お姉さん。何故、ベロブルグに居るはずの僕がこのようなところにいるのか…理由を考えるべきでしょう?」
どのようにしてあの星からここまで来たのか今そんな事は星にはどうでもよかった。なぜこんなところにいるのか、理由なんて考えたくなかった。こんな状況ならおのずと答えが出てしまうからだ。
この男ならあるいはそれを裏切ってくれるのではないかとわずかな希望に星は縋りたかった。しかし、他でもないサンポ自身がそれを許してはくれなかった。
「…いつもの冗談、だよね?」
「すみません。」
「私の持ってるお金全部払うから…。」
「すみません、今回ばかりは商売じゃないのです。」
「いつでも私を助けてくれるって言ってた癖に!!」
「…すみません。」
「もう名前も呼んでくれないの…?」
「…………」
懇願する星の言葉にサンポは困ったような表情を少し見せ、謝るばかりで決して星の求める答えを言ってはくれなかった。
「残念なお話なのですが、お察しの通り。今回の僕はあなたにとっての敵…と言っていいでしょう。」
星に現実を突きつけるように"敵"と確かな単語をサンポは言葉にした。
目の前にいる男をよく知っているはずなのに、目を細め不敵な笑みを浮かべたその姿は星の知らないものだった。ああ、何を言っても無駄なのだと星が理解するにはそれで十分だった。密かに想いを寄せていたあの優しい男はもういないのだと。
「僕のボスがあなたを気に入ったようなのです。大人しくついて来て……は、くれそうにありませんね。」
丹恒となのかだってどうなっているか分からないまま捕まるわけにはいかない。捕まった所で命の保証もない。
覚悟を決めた星はかつて焦がれた男へと武器を向けた。
「ああ…あの頃と変わらないとても良い目をしています。」
そう呟いたサンポは、ふふっとよく知った笑みを一瞬だけ見せたかと思うと直ぐに表情を変え、さぁ始めましょうかと武器を手に取り星に向き合った。
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単純な動きしかしない人形と違い縦横無尽に動き回るサンポとの戦いは厳しいものだった。
星は懸命に攻防を続けていたが人形との戦いで疲弊した身体は限界だった。
一瞬だけ揺らいだ意識の隙をサンポは見逃さない。素早く星の背後へ回り込むと渾身の一撃を放った。
「っ!!……うそ…つき。」
サンポの重い攻撃を食らった星はポツリと一言恨めしく言い放った後、ゆっくりとサンポにもたれ掛かるように意識を手放した。
「おやすみなさい、星。…恨んでいただいてかまいません。あなたを裏切り、敵となること。これが此度の…役割でしたから。」
力なく腕の中で眠っている少女の瞳から流れる涙を拭う。それは痛みからなのか、それともサンポ自身を思って流したものか分からなかったが後者であって欲しいとサンポは思った。己の運命を裏切ることが出来ないサンポはもう彼女の隣にいられない。ならば恨まれてでも星の中に僕が残ればいいとサンポは願う。
実に身勝手だと笑うサンポの顔は先程までの飄々としていたものでも不敵なものでもなく、何か大事なものを失ったような寂しそうなものだった。
あとがき(という名の私の妄想※ネタバレ注意)
ストーリー最後のサンポの話から他に仲間がいて違う陣営に所属してるんだろうなとか、他の星に行く手段があるんだろうなとか、それなら別の星で敵として再開するなんてこともあるのかなという妄想から出来たものです。
彼は何かを知っていて、その為なら本人の意思は関係なくその役割を果たすタイプなら主人公も裏切りそうだなぁっと、不本意でも。
そんなの関係なく好きに生きそうなタイプにも感じるのでそのルートもまたいずれ。
ここまで、読んで頂きありがとうございました!