サンポが助けに来るサン星※前作のifですが読んでなくてもこれ単体で読めると思います。
ベロブルグ最後の内容を意識した描写があるのでクリア後推奨。
丹恒となのか達とはぐれてからどれくらいたっただろうか。いや、あれははぐれたと言うよりは意図的に分断されたのだろう。
おそらく今まさに星に襲いかからんとするこの人形達の主に。
「こいつら一体どこから湧いてくるの!?」
分断されてからというもの星は1人でこの人形達と戦い続けていた。殴り、蹴り、突き、踏み付け、壊しても何処からか湧いて出てくる人形人形人形。
いくら体力に自信のある星でも流石にこのままではいつかは力尽きてしまう。
「ああ!!もう!!うっとうしい!!」
自身の武器のバットで目の前の人形三体の頭を潰す。活動を止めた人形はボロボロと崩れ消えるが代わりに暗闇の中から溶け出るように次の人形が現れる。
「…はは、1周回って笑えてくる。」
自傷気味に口元に笑みを浮かべながら次の戦いにそなえ、星はバットを構えた。
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「これは…流石にもう無理かな…」
あれからどれほど戦ったか。流石の星も限界を迎えていた。倒せど倒せど湧いてくる敵。対してこちらは体力も使い切った少女1人。思わず弱音も出てしまうというものだ。人形が星の周りを囲む、逃げ道すら塞がれたということだ。
(このまま捕まったらどうなんだろう、殺されるかな?直ぐに命までは取られないだろうか…?あーあ…最後にもう一度だけ、会いたかったな…)
今度こそ死ぬかもしれない。そう思った時に1人の人物が星の頭に浮かんだ。
自分が危ない時には何かと助けてくれていた商人は、雪降るあの星でシルバーメイルから隠れながら今も商売に勤しんでいるのだろうか。
ははっと笑みが零れる。死の淵で思い出すとはどうやら自分で思ってたよりもあの男を好いていたらしい。
「…サンポ」
名前を呟いた時だった。
どこからともなく飛んできたナイフが風を巻き上げながら星を取り囲んでいた敵を薙ぎ払っていく。
星は一瞬何が起こったのか理解が出来なかったが、星が目にした敵を切り裂くそのナイフはあの男が愛用していたものと同じだった。
「この僕の助けがご入用ですか?最愛なるお得意様?」
仕事を終え戻って行くナイフを声の主が受け止めると、耳によく馴染んだ台詞を星に投げかける。
身なりこそ違うがネイビーブルーの髪、特徴的なグリーンの瞳、人の良さそうな笑顔。あの頃と変わらないサンポがそこに立っていた。
「サンポ!!??」
もう一歩も動けないと思っていた身体を引きずり、フラフラとした足取りで星はサンポに駆け寄る。先程までもう会えないと思ってた男が目の前にいるのだ。
「何で?どうしているの!?ベロブルグからどうやって??」
そこにいるのが本物か確かめるようにベタベタとサンポの身体に触れながら星はサンポに詰め寄る。サンポは星の行動に気圧されて少し困った顔を見せたが、ふふっと笑ったあとはなすがままにされていた。
「そのご質問にお答えする前に…まずは僕達の再会を邪魔する無粋な方たちにご退場して頂きましょうか。ほら、来ましたよ。」
サンポが言うな否や、先程倒した人形と同じものがズルズルと這い出てくる姿を、やっぱりかと星は心底嫌そうな表情で眺めていた。
「こいつらこんな感じでずっと増え続けてるの。もう最悪…」
「まぁ……そうでしょうねぇ…」
少し含みのある返答をするサンポの手元を見る。そこには星の見慣れない武器があった。その視線に気付いたサンポは、僕こちらもなかなか上手なんですよ?と、ウインクを1つ星に投げると小銃を構えた。
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片手にいつものナイフ、片手に小銃を構えたサンポの戦いはそれは見事なものだった。ナイフで自分に襲いかからんとする人形を倒しながら、小銃で思ったように動けずにいる星に襲いかかる人形を正確に撃ち抜き支援をする。まさかこんなことが出来るだなんて知らなかった。ベロブルグであった時にはまだ手の内を隠していたとは、どこまでも詐欺師らしいと星は思った。
しかし、いくらサンポという助っ人が増えたところで人形の数も減ることがない。どうしたものかと星が考えている時だった。
「あ、すみません星さん、少しだけ1人で耐えててくださいね??」
先程から戦いながらキョロキョロと周りを見渡していたサンポが何かを見つけたのか、謝罪と共に一言そう告げると星を置いて人形の間をすり抜け奥へと走り去っていく。
「っはぁ!?サンポ!?嘘でしょ!?」
急にサンポが自分を置いていったことに対して、何か考えがあっての行動なのだろうと星は理解出来たが、せめて説明くらいはして欲しいとサンポが消えた先を恨めしく眺めた。
「戻ってきたら絶対1発殴ってやる…」
そう心に決めた星は残りわずかな気力を振り絞り人形を殴り倒していく。変わらない人形の攻撃をかわしながら、星は違和感があることに気付いた。
(人形が増えなくなってる??)
先程から感じていた違和感の正体。絶えず湧いていた人形がパタリと姿を表さなくなっていたのだ。理由は分からないがこれならと残りの人形達を壊していく。最後の人形を壊し、警戒する星の前に追加の人形が現れることは無かった。
「いやぁ、流石ですねぇ!!」
急になぜ?と変わった状況を星が不思議に思っていると、壊れた一体の人形をズルズルと引きずったサンポがニコニコしながら戻ってきていた。
星はバットを構えサンポに向かって振り下ろす。わぁ!!とサンポに避けられてしまった星は避けるなと言いたげにサンポを睨みつけた。
「ちょっと!?急に殴り掛かるだなんて酷いじゃないですかぁ!?」
「急に酷いのはどっちよ、何かするならせめて説明して。急にいなくなって戻ってきたと思ったらそれは何???」
サンポの足元に転がっている人形を指さす。それは先程星が壊した人形達とは形が違っているようだった。
「あぁ、これはあの人形達を転送してた装置のようなものですよ。こいつが動いている限り人形が無限に湧くので戦いは星さんに任せて、僕はこいつを見つけて壊しにいったということです。」
サンポはそう星に説明をすると、その人形を感情なく見下ろし最後のトドメと言わんばかりに頭を踏み潰した。ビクッと星の身体が強ばる。何故そんなことをサンポが知っているのか疑問が浮かんだ。一瞬だけ星の知らない表情を見せたサンポだが、直ぐにへらっとしたいつもの表情を見せる。
「…へへ。僕、自分の仲間を裏切っちゃいましたぁ。」
「は?」
仲間?誰と誰が??裏切った?とサンポがあまりにも普段と変わらぬ口調で告げるので星の思考が追いつかない。頭が回らない中一つだけわかったことはサンポが言った仲間とは星のことではなく、あの人形の主のことだろうということだ。
「あんた、あいつらの仲間だったの!?」
「ええ、まぁ、連絡を取り合い、こんな所までわざわざ出向くくらいには。」
サンポはあの人形をけしかけてきた奴らの仲間だった。だから転送装置のことも知っていたのだと納得する。と同時に今まで自分を騙していたのかとか、裏切ったとはどういうことなのか、星の頭は様々な疑問でぐちゃぐちゃになり混乱した星の瞳からは涙がこぼれる。それを見たサンポが、待って待って説明しますからと焦ったように星をなだめた後、ポツポツと事の経緯を話し始めた。
「こちらの星に来て仕事をするよう命令が入ったんですよ。まったく…大口の取引が控えていたというのに。いざ着いてみたらあなたがいて、それを捕らえろなどというものですから…そんなの面白くないでしょう?」
だから裏切ってあなたを助けに行くことに決めましたとサンポは言う。その顔には少し微笑を浮かべてはいたものの、先程までのヘラヘラした表情はなく真剣なものだった。
「…隠していたことは謝ります。ただ僕はかつての仲間を裏切ってでも、あなたを裏切れなかったんですよ、星。どうか、このサンポを信じてくれませんか?」
サンポが手を伸ばし、星の頬に触れる。信じて欲しいと縋るように言う顔にはいつもの笑顔は無く、その目は星に拒絶されるのではないかと少々の不安を含んだものだった。
「わかった。信じるよ、サンポ。」
今まで隠し事をしていたことはさておき、サンポが星を助けてくれたことは事実だ。それに星自身がサンポのことを信用したいと思った。
信じると笑顔で答えた星の言葉にサンポは安堵の表情を見せると、ありがとうございます!っとカバっと手を広げそのまま星に抱きつく。
「裏切った僕はかつての元仲間にこれから狙われ、ベロブルグに戻ることもままならないでしょう。もう僕には星しかいませんので、僕にここまでのことをさせた責任…取ってくださいね?」
星の耳元でサンポが囁くと顔を真っ赤にさせ、離して!離れて!ばか!と星がじたばたと暴れる。くすくすとその様子を楽しんでいるサンポは、ハイと言うまで離しませんと暴れる星をその腕に閉じ込めたままだ。
「責任…取れるかどうかは分からないけど…善処する。」
うーっと恥ずかしさから暴れていた星が観念したように動きを止め答える。それを聞いたサンポは満足そうにすると星をその腕から解放した。
「さて、そうと決まれば丹恒さんとなのかさんをさっさと探し出して、皆さんに挨拶でもしに行きましょうか!」
「2人や姫子達になんて説明しよう…」
ウキウキと進むサンポの横で皆にどう話したものかと悩む星だが、サンポとの間に出来たこのなんともいえぬ関係に満更でもないと笑みが浮かぶ。
そんな仲間を探しに向かう2人の手はしっかりと握られていたのだった。
【あとがき】
気持ち的にはお互い表には出さないけれど
サンポ→→→→←星
くらいにサンポにクソデカ感情持ってて欲しい。
サンポに銃持たせたのは何か手のうち隠してて欲しいってのと、完全にサンポに使って欲しいっていう作者の願いってだけです。
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