龍牙のはなし龍牙にとっての涼は『護るべき大切な人』だった。
失いたくない、辛い思いをして欲しくない、恋愛感情にも近い感情で誰よりも大切にしてきた人。
家庭環境が荒れていた龍牙にとって、涼は不思議でならない人だった。
父や兄弟はなく、母も昼職パートからの夜職。
帰りが遅いことは日常茶飯事で適当な食べ物やお金が机に放置されており、知らない男が来ては蔑ろにされていた日々。
いつも喧嘩で怪我をして、ボロボロな自分に家も大きく身なりの整った歳上のお兄さんが何故優しくしてくれるのか。
家族ですら、ないのに。
龍牙にとって、涼は何故か自分に優しくしてくれる人。
涼にとっては放っておけない可愛い弟。
そんな涼が引っ越してからの龍牙は支えが無くなり、荒れに荒れていった。
家にも帰らず、仲間と遊ぶ日々。
喧嘩に明け暮れ、恨みを買っては返り討ちにする毎日。
気付けば地位を上げ、ちょっとした有名な半グレ集団と化した。
暴力と略奪を繰り返し、警察に何度も世話になった。
それでもそこが龍牙の唯一の居場所であった。
自身がまともな生活を送ることは無理だと思っていたし、この道しかないと考えていた。
そんな矢先にとある連絡が入る。
メンバーの数名が勝手に金持ちの家に押し入り、強盗殺人をして現行犯逮捕。
元々少数人数派だったBLooD FanGの半数以上が逮捕された。
自分を除く他メンバーも強姦や窃盗を行い逮捕。
実質的な壊滅であった。
龍牙は力だけでのし上がってしまい、必要最低限の犯罪はしない主義であった。
しかし、血の気が多いメンバーからの反感や不満、龍牙への嫉妬から起こった事だった。
そして、被害者が花崎と知り龍牙は恐る恐る唯一生き残った被害者の元へ行ってみる。
自分の知っている限りの花崎は彼しか知らないから…。
すると、目を閉じこちらを伺う涼がいた。
頭を強打したような衝撃と変わってしまった容姿に絶望を覚えた。
どうやら襲われた際に目を負傷に、眼球を切られもう二度と見えなくなってしまった。
自分だと少し話せば涼はすぐ感動した。
「こっちに戻ってきたんだ、でも、龍ちゃんの成長した姿見れなくて悲しいな…。こんな姿での再開でごめんね…でも、会えて嬉しいよ」
この声色は当時と何も変わらない柔らかなものだった。
自分は何も悪くないのに、なぜ謝る?
俺の眼球を上げてでも俺を見てほしい。
俺がこうなっていなければ、彼は目を失う事も家族を失うこともなかった。
俺が、俺のせいで、涼にぃが失った。
優しい耳触りのいい言葉に触れながらも、彼には懺悔、後悔、絶望だけが残った。
「なあ、退院したら一緒に住まねぇか?
俺は一人暮らしだし、何も出来ねぇだろ」
「いいの?龍ちゃんの負担にならない?」
「ならねぇ」
ハッキリと答える。
俺が支えるんだ、そうして少しずつ贖罪を果たしていこう、彼の為に生きよう、次こそ彼を守ろう、彼を幸せに。俺が。
そこからの生活は平和そのものだった。
2人で朝を迎え、食卓を囲み、時にはお出かけをして、夜にはその日の話を沢山して、お風呂に入って温まり、「おやすみ」を言って寝床につく。
なんと幸せなのだろう。
罪を償うためでもあるこの生活は、やがて今まで経験したことの無い幸せもあった。
そしていつもの様に、彼の好きな物を作るために買い出しへ出かけた。
そこが、運命の変わり目だった。
最期の記憶は全てが白だった。
嗚呼、これが走馬灯か。
涼にぃを1人にさせてしまったな、図書館へ連れて行ってやれなかったな、また一緒に寝たかったな
もっと涼にぃとの幸せを噛み締めたかった。
約束をしたこの手をひかりの先へ伸ばしても、その手は空を切り意識を失った。
そして終わりを迎えた。
また、涼にぃに会えますように。