都内某百貨店、駅構内から直結五分の一階洋菓子フロア。その片隅のチョコレート店でのアルバイトを始めて、もうしばらく経つ。
初めは短期の予定だったが、特に辞める理由もなくズルズルと続けていく間に、今年で数回目のバレンタインシーズンを迎えていた。シーズン半ばとあって、フロア全体は普段よりうっすらと賑わいを見せている。とはいえ現在は平日の昼過ぎ。まばらな客足に少々暇を持て余す。手元の台帳などをパラパラとめくっていると、ふと人影が目に止まった。
飾り気のない服装をした長身の青年は、この時間帯にはあまり見ない客層だった。特段目立つ姿ではないが、何故だか目を引く。深めに被った帽子からはすっきりとしたうなじが覗いていおり、冬時期には寒そうだな、とぼんやり思う。
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