僕で喧嘩するのはやめてください人が賑やかに行き来する休日の昼間、ここマーチェットは沢山のお店や人々の声で溢れかえっていた。横を見ると今流行りの食べ物や洋服店、またその反対を見ると道化師の格好した面白おかしい男が子供たちに囲まれながら風船を配っている。
そんな四方八方どこも陽気な雰囲気を漂う中、一切その空気に流れずただ顔が無愛想のこの場には似合わない少年が歩いていた。
顔には片目を覆う程の黒い眼帯が纏い、髪は淡い金色でそれに相まって歯はぎらりと鋭く尖っている服装はこの辺りでは見られない全体的に真黒で胸元には貴族が身に付けるようなジャボのようにイーストン学校と違って品のある制服身にまとっている。
初めて目に見る者はまるで見世物かの如くちらちらと覗けてくるがその度に睨み返してやれば忽ち冷や汗をかきながら目を逸らしてくる。
そんな悍ましい彼の名前はレヴィ・ローズクォーツ、ここから遠くへ離れたヴァルキス魔学校の生徒だ。
そんなレヴィがここに居る目的は魔法局局長の父である呼び出しだった。本当はあんな貪欲な傲慢な親の所に行くなぞ足に重みが課せられるような感覚だ、しかし行かなければまたこの身体に傷跡を残すはめになる
そんな過去みたいな過ちは避けたいと思うレヴィはさっさと魔法局へ出向き、用を済ませて帰るようにしていた。
「あぁ?」
そんな帰り道レヴィは人混みの中にとある人物を見つけて足を止める。
黒色の髪が丸々しく、片手には見るからに甘そうなシュークリームを頬張って如何にものほほんとしている彼は、かつてレヴィとの勝負にグーパンで勝ったマッシュであった。
それが分かった途端急に胸の鼓動が早くなる事に気づいたレヴィはそんな自分に鋭い舌打ちをする。
同時に先程迄に不機嫌なオーラは消えて寧ろ朗らかな気分になってしまった
マッシュとあの時戦って敗北を知った日レヴィは彼の事が気になって仕方がない、初めて兄以外に自身を認めてくれた存在だったからそれだけでレヴィの心の隙間に入るなんて容易いことだった。
本当はこのまま潔くヴァルキスに帰ろうとしたがこんな偶然のような運命的な出会いを逃さないと悟り予定変更とマッシュに声を掛けようとした時だった
「マッシュ」
突然現れるそれはレヴィとはまた違う光沢とした金色その対照に真黒の髪という丁度半々とその色を兼ね揃えている、それだけでも一際目立つというのに顔にはレヴィと同じように形は違えども痣が二本の持ち主でそれでいて最年少で三本目の痣を生み出す事が出来ると言われている神覚者のレイン・エイムズだ、局長の息子のレヴィは彼の事は知っていた。
戦の神杖と呼ばれている彼が何故こんな所で、しかもマッシュと(中々に近い距離で)一緒に居るのかと疑問より嫉妬心が優先的に出てしまう
「あ、レインくん」
「勝手にすたすたと行くんじゃねぇ…」
「あばばばばば、ごめんなさい美味しそうなシュークリームが売ってあったのでつい」
「だからって急に走り出すなお前は迷子になりやすのだから離れて探す羽目になったらどうする」
様子を見るに何やら説教をされているが厳しい言葉の反面レインはマッシュの頭をぽんぽんと優しく触っていた
(あぁ〜!?なんだあいつ、気に食わねぇなぁ)
それを見たレヴィの嫉妬心と怒りはは最大値まで達してしまう
今すぐにでもあの二人の間に入ってやろうとレヴィは一歩足を踏み出す前に口を開けた
「マッシュ・バーンデット!」
先にあちらに行くよりこっちの方が早く気づいて貰えそうと思ったレヴィは大きく名前を呼んだのだ
肩をびくっと跳ねた後にマッシュの蜂蜜のような甘い目がレヴィの方へ振り向く、あのレインから目を逸らして変わりに自分が映し出されるだけでレヴィは少し気分が上がる。
「えっ、レヴィくん!?」
何でここに居るの?と訴えるようにまるで猫の様な真ん丸とした目で見つめてくるマッシュに歩みを入れてレヴィは近づける
名前を呼んでからずっと皺を何倍にも寄せて此方に鋭い視線を送るレインに対抗するかのように
「よぉ、たまたまこっちに足を運ぶことがあってなぁ、その、元気してるか?」
「うんシュークリーム食べるぐらいは元気ですよ」
「だろうな」
「レヴィくんこそ元気そうで良かったです」
何とも優越感に浸った、何だって今マッシュの視線を独り占めしているのはこの自分ということに
例え相手が神覚者だろうとレヴィには関係ない、自分だってそれ相当の力や地位だってあるその為欲しいものは必ず手に入るまで追いかけ続けるのだ
レヴィは更にマッシュとの距離を近めようと誘いを出した。
「オレはこの辺をよく知らなくってよォ、なんて言うか、い、一緒に回ってくれねぇか?」
あまりこういうのは慣れないせいで自分でもこれはどうと思う程の不器用な誘いに少し腹が立つきっとここにドミナ達が居たら馬鹿にされるだろうしかしそんなレヴィを凝りもせずに真剣に受け止めてくれるのがマッシュだった
「いいですよ」
すんなりと承諾して見つめるマッシュ、レヴィは歓喜した
さっきまでは他人に睨みつける程の沈む気分はどこへ行ったのやら今は天へと昇る胸の高鳴りだった。
「おい待て」
しかし喜びを感じるのも束の間、まるで邪魔するかのようにレインの声が二人の間を裂いて更にはマッシュの腕を掴みレヴィとの距離を離そうとする
「何故あいつの誘いに乗る」
「え、だってレヴィくんがここを知らないなら一緒に回った方が良くないですか?それに人は沢山居た方が楽しいですよ」
「俺への返事は無しか?」
「あっ、すみません、じゃあ改めてレヴィくんも一緒に居てもいいですか?」
「ダメに決まってるだろ」
考える間もなく素早く答えるレインにマッシュはあれれ?と頭を悩ませた、そもそも何故マッシュがレインと一緒にここに居るかだが、元々マッシュは一人で歩き回る予定だった、ただ出掛けようとしたイーストンの正門を抜けようとした瞬間レインに見つかるや否や直ぐにマッシュの元へ駆け付け何処へ行く、誰と、いつ帰ってくると言われまるで母親が遊びに行く子供に投げかける様に質問攻めをしてくる
最終的には俺も着いてくると言われまぁ別に困る事じゃないし勝手にどうぞとマッシュは承諾した。
なので別にレインがレヴィの同行に断りを入れる権利は更々無いのだがどうしたもんかと考えるとまたもやレインからマッシュの肩をガシッと掴まれて鬼の形相で睨みつける
「そもそも何であんな奴と親しく喋る…仲がいいのか?」
「はいレヴィくんって局長の息子だから沢山色んな所に連れて行ってくれるのですよ」
レインは驚愕した、まさか自分が神覚者の仕事で忙しくマッシュに会えない日々の間で自分以外の相手としかも他校の奴とでそんな関係になっていたなんて頭から血が抜かれるような感触だった、レインはレヴィの方へ目を向けると刃のように鋭い歯が見える程にニヤリと笑ってまるでレインを見下されてる感じに見えた。
それに怒りを受け取るレインは下がった血を一気に頭へと湧き上がりさっきまで肩を掴んで手はマッシュの腰を抱き自身の所へ引き寄せてやる
「うわっ、ちょっとレインくん何するんですか」
困惑するマッシュを余所にレインはレヴィに向かって杖を出した。
「お前…確か名はレヴィ・ローズクォーツだったか?魔法局局長の息子か知らんがこれ以上マッシュに近づこうなら容赦はしねぇ…」
「あぁ〜?神覚者が嫉妬なんざ見苦しいなぁ?大体こんな所で油売ってる暇あんのかァ?さっさとマッシュを置いて魔法局へ帰れ」
レヴィも同様杖を出しそして"アトラック"と口にする
「わっ」
「あ"ぁ?」
するとまるで磁石のようにマッシュの身体はレヴィの方へ引っ張られて行きあっさりとレヴィの腕の中へと閉じ込められてしまう。
レインは顔中に青筋を立て取り戻そうとお得意の固有魔法を唱えようとするがここはマーチェット、もし人に当たれば大惨事だ
神覚者である限りそのような事はあってはならないとなけなしの理性で悟り、ならばとレインは小さく別の呪文を唱える
するとシュッとあの賑やかな街の風景から殺風景で緑々しい静かな森の中へと変わる
その衝撃からレヴィの腕の中に居たマッシュは二人から少し離れた倒木の上にちょこんと座っている。本人は突然の出来事に頭が追い付けなくなってしまいとりあえずとシュークリームを食べていた。
そんなマッシュの目の前にはギスギスとしたレインとレヴィが睨み合っている
「大体お前はマッシュの何なんだ、俺は先輩でもあり、同じ寮の監督生でじじいに面倒見るよう言われている、他校のお前より関係が深い」
「ククク、甘えなぁ〜、神覚者さんよぉ〜オレはマッシュと"二人"だけで社交場など色んな所連れて行ってやってんだぜ?お前と違って関係が進んでいるんだよこっちは」
お互いマッシュとの関係へのマウントを取り合っていがみ合う
「……俺だってマッシュの勉学の面倒を見て二人きりの時間を過ごしたことある、それに今日だってお前が邪魔しなければマッシュと過ごせたのだぞ」
(いや勉強もお出かけもレインくんが勝手に見てきたし着いてきたのですけど……)
「はっ!こっちも社交場でマッシュの肩を抱いて色んな人に見せびらかしているんだぜ」
「なにっ?」
(あれはレヴィくんが魔法で強制的にくっ付けられたからなんだけどなぁ……)
口の中に甘いカスタードをいっぱいにしてマッシュは声には出さないが心の中で二人の発言に訂正を入れる
見守っている内に次第に二人の雰囲気は殺伐となり森の中だというのに小動物や空を飛ぶ鳥すらも居なくなり残るのは冷たく靡く風だけとなった。
「パルチザン」
先に攻撃を仕向けたのはレインだった、無数の黄黒い大剣がレヴィに向かって降り注ぐ
「リペル!」
同じ二本線の実力であってかレヴィも負けずともレインの攻撃を防ぐ
その後も色々と魔法を仕掛けては戦闘が始まり、暫く見守って居たマッシュもあれ、もしかしていまちょっとやばい状況?と今更ながらに感じる
走行しているうちに二人の戦闘は更に激しくなっていく
「お前には絶対ぇ渡さねぇ俺は全力で対抗してやる」
"サモンズ"
あばばばば、やばいこれはやばいですな
「はははっ!勝者ってのは常に一人しかいねぇからな!認める訳にはいかねぇ、テメェみてぇなふざけた野郎はよ」
"サモンズ"
あばばばばばばばば
「戦…」
「磁…」
「よっと」
二人がサモンズを発動する前にマッシュは高速で二人の杖を取り上げた
「は?」
「あ?」
ぱっと目の前に変形した杖では無く柔らかなシュークリームが二人の手元に置かれる
余りにも速さと何故シュークリーム?と頭が追いつけなくなり間抜けな声が出てしまう
「レインくん、レヴィくん」
はっと前を見るとジド目で片手には二つの杖を持って腕組みしているマッシュが居た
その姿を見るに怒っているのが分かる
「レインくん、急に転移魔法使ったりするの辞めてくださいそれにレヴィくんは年下なのですから本気で攻撃するのはどうかと思いますよ」
「いや、しかしマッシュ…」
「レヴィくんも相手を挑発するような言葉辞めてください、いくらレヴィくんでも神覚者相手はダメです」
「でもよぉマッシュ……」
「分かりました?」
「「はい……」」
先程の殺意は何処にまるで叱られる子供のように縮み込む二人であった。
後々三人は仲良くマーチェットに戻り買い物を楽しんだのであった。