彼は賑やかな場所を好まない人で、それは僕も同じでした。修学旅行の承諾書は不参加に丸を付けて提出して、当日は二人で江ノ島に行きました。
無計画に飛び出したので、目的地を誤ったかもしれません。からっ風が吹いていて、空も濁っている寒い日だったのです。とても海に入ろうとは思えませんでした。しかし、コンクリートに座って、脚をだらりと揺らせたまま、柔らかな布の皺のように折り返される細波を眺める事はとても趣き深く感じられました。雲を被った太陽より、さらさらと寄せては返す小さな砂の粒の輝きの方が慎ましく、綺麗に見えました。その横で、彼は携帯をいじっていたので少し不安な気持ちになりましたが、時折顔を上げて、コーヒーを啜って遠くを眺めて黙り込むところは、僕と同様、思い耽っているように見えました。
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