ここ数日、守沢先輩の様子がおかしい。
いや……、本当はずっとおかしかったのかもしれない。
___誰もあんなことになるなんて思わなかったから。
「おはよう!高峯!今日はいつにも増してどんよりしてないか!?」
いつも通り元気だ。朝から聞くにはあまりにもうるさい。
「うっわ……うるさ……俺はいつもこんなんですけど?」
「それもそうか……、最近はお互い仕事が忙しくて中々会えていなかったからな」
そういう先輩は静かに笑った。いつも元気な太陽みたいに笑うこの人からは想像がつかない。
まるで、もうすぐ命でも無くなるような……。
いくらなんでも気のせいだと思いたい。思い込みだと。
それから数時間は久しぶりに会ったからと他愛のない話をしたり守沢先輩の買い物に付き合ったり……まぁ……楽しかった。そんなこと言ったらアレは余計うるさくするだろうけど。
「さて、そろそろ帰りますよ守沢先輩……?」
「……」
さっきまで何もなかった筈なのに。
「せ……ん……ぱい……?」
「……」
俺がどんなに声をかけても先輩の声は聞こえない。なんで、さっきまで元気だった先輩が急に倒れているんだ。
死ぬの?こんなところで?だったら最期まで格好いい理想のヒーローで居てよ……。
「嫌だ……っ、こんなお別れなんて絶対に嫌だ……!!」
俺は急いで救急車を呼んで先輩を病院へ送った。それからの記憶は曖昧だ。折角楽しい時間が、あんなところで全て消えてしまうなんて。全て無かったことにしてやり直したい。
「俺が先輩のこと気付いてあげられなかったからだ……先輩も言ってくれたら俺になにか出来ることあったかもしれないのに……」
また守沢先輩が一人で抱え込んでることに対しての怒りが強かった。けど、今はそれどころじゃなくて。何を考えてるか、自分でも理解が出来なかった。
俺は病室へ案内され、医者から守沢先輩のことについて説明を受けた。
どうやら、幼い頃から守沢先輩はよく体調を崩したりしていたらしい。ここは昔の先輩がよく通っていた病院だった。
そして、守沢先輩は生きている。
ただ、先輩は過労で倒れていた。
次倒れたら命が危ないこともアイドルを続けられなくなるかもしれないことを聞いた。
正直、怖かった。だって、守沢先輩はテレビの中では輝く笑顔で、疲れなんて一切感じさせない。プライベートでもそれは一緒で。
なのに、先輩は自分で無理していることに気付けずに傷付き倒れている。
「世間から見たあんたはヒーローでも、俺から見た守沢先輩は人間ですよ」
「だから俺はあんたを好きになったのに……」
俺とその横で寝ている守沢先輩、二人きりの病室で聞こえないように呟く。
「おはよう高峯、迷惑をかけてすまないな……」
目が覚めた守沢先輩は弱々しい声でずっと、俺の名前を呼びながら謝っている。何も悪くないのに。
「ごめん……本当にすまん高峯……許してくれ」
「あんたは悪くないです……いや、自分の限界に気付けなかったことに対しては反省してほしいけど……」
「うむ……ごめん……ごめんな」
事あるごとに先輩は謝ることしかしてこない。そんな先輩から笑顔はとっくに消えていた。
その日からこの世界は太陽もヒーローも存在しなくなった