死なない悪魔と一国の忘れ形見彼女は贅沢な暮らしをしていた。両親は玉座に鎮座し、母の膝の上に居た。下でひれ伏す民衆が彼女の世界では当たり前の光景だった。全てを手に入れた両親の愛娘はきっと世界一の幸せ者だ。
しかし、その幸せが終わりを告げたのローバが8歳になった誕生日だった。荒らげた母の声で目を覚ます。ローバは直ぐ事の重要に気がついた。母は頭から赤い液体が流し、いつも綺麗だった煌びやかな服は血や土埃で汚れてしまっていた。
「逃げなさい」
奥の隠し通路に押し込まれたローバは素直には聞けなかった。
「父様は」
「父様は今戦っているわ。私も父様のところに行くから」
「でも」
「いいから逃げなさい!」
また荒らげた声を出した母に怯えてしまうローバ。母は無理やり笑顔を作り
「また必ず会えるから…」
自分に微笑みかける母にゆっくり頷き、後ろめながらも隠し通路を進んだ。狭く暗い通路を進むと小さな光が見えてくる。その光はローバにとってゴールにも見えた。走早に駆け寄ると希望の光はすぐに残酷な現状を突きつけた。隙間の真下には玉座の間が見えていた。そこは城の兵士、召使いだったものが転がり赤い海が広がっていた。ガタガタと見つめるしかできないローバは気づいてしまう。玉座の前で同じく血に染った父と母に。「父様!母様!」隙間から手を伸ばすが到底二人には近づけない。泣きじゃくるローバに突如感じたことの無い寒気が走る。目の前の赤い海からのそりと立ち上がるなにか。即座にこの世のものでは無いと子供ながらローバは死に直結した何かを感じ取る。返り血でよく分からなかったがそいつは陶器のような白い肌、派手な金の装飾。上半身にはいくつものおぞましい顔が付いていた。蒼色の眼光がローバを捉える。
「生き残りか?なるほどそこに転がっている愚王の娘か…」
「そんな狭い場所じゃ葬れぬな…残念だ」
「愚王の娘よ生きて次に会う時は両親と同じように殺してやろう」
下卑た笑い声が血の海へと沈み消えてしまった。ただローバは震えて涙を流すしか出来なかった。しかしローバは誓った。必ず両親の仇を…復讐心が彼女を染め上げていった。
26年後―――
「退屈だ」
廃れた玉座に座り転がっていた骸の頭を弄ぶ悪魔。変わらない日々、無限に続く命。暇つぶしに一つの国を滅ぼしたり、時たま人の願いを不等価で叶えたりして少しは凌げていたがやはり悪魔は退屈だった。
ここは少し前に滅ぼした国の城跡。何も無いただ骸が転がっているだけだ。そういえば…あの時殺し損ねた娘はどうなっただろうか。ただ震えて泣くだけの小娘だどこかで野垂れ死んでいるだろう
人間はなんて脆いのだろうか
一夜で国が滅び、少し甘い誘惑をチラつかせただけで己の命を投げ入れるつまらない、実につまらない。本当に
「退屈だ」
「そんなに退屈なら私と遊ばない?」
刹那悪魔の胸に三叉槍が貫いた。
「これは…」
「はぁ…そこに座るのやめてくれないかしら」
「そこは父の玉座よ」
そこには殺し損ねた子供が金の甲冑に纏い殺意を自分に向け立っていた。
「はは…ふはははは!!」
「愚王の娘よ!!復讐か??笑えるな!」
「約束だったな、すぐ両親の元へ送ってやろう」
「死ぬのは…あんたよ!!」
よく我の元に来た小娘よ
さぁ死に服従せよ
砕いてあげる、あんたの命
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