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    コクメイ

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    コクメイ

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    剣盾 ロトさんが帰ってくる話 カイナンさんが受け

    帰趨を眺め遣れど、曖昧其の嚮導に期待するのは、胸臆を燃やし尽くす宿痾の赫だろうか?
    斯くして枯れ落ちていく私の境涯は、無色の導きに従うべきなのか、はたまた拒絶するべきか?

    息苦しさに藻掻き続けようとも、答えは常に芳しくない。躊躇いは然し常に迷いを棄却し、正しさは私の何物も奪わせはしなかった。ただ、それが拠り所無き事由であったならば――或いは、私は私を肯定し得たであろうか?
    しかして私こそが、明晰の名の下に在り続けた者である故に。私の存在証明はそう在る事のみにあるのだからして、この問いも無意味であるのだろうと思う。

    止水に埋もれて彷徨う芽が、何かを妬まずにいられぬ日はきっと来ないものだ。

    繰り返し。遍く台本をなぞるように、〝時間〟はその有様を変えた事など、一秒もない。やはり其処には淵すら存在しない。そうと言えたならば良かったが、今となってはそうは行かなかった。
    安穏に身を浸しながら時を数えれば、愚昧に、漫然と日数を消耗するなどと――それ以前の話で、〝果断〟は甲斐無く微笑むばかりだ。先を考えればこの砦は時を留まらせること能わず、ただ、手に入れた小康を手繰った。結局は気の迷いに過ぎず、裁決は定められていようが――しかし私は未だ〝不可逆〟の延長を望んだのである。
    鈍る筈がないと思っていた堅牢こそが、誰よりも先に焼切れぬ芯となり私を導こうとしている最中。

    それらを甘言とすら切り捨てられぬまま。不実なる期待は今もって潰える事は無かった。

    唇を薄く開き、吐息を散らしながら目を閉じる。一面の白漠には何者をも得難く、限られたその先に打ち捨てた意識は途絶えている。
    己が夢だという自覚を保ちながら、闇雲に離別を受け入れ。瞼を擦りあげる――ひとつの存在性から見えざる境まで通る蜃気楼そのもののように。
    酷く熱を持った芯が、一処が、脊椎が、虚ろに訴えかける最中。私の胸臆は、ただその指先を求めて彷徨うよう。

    生き長らえた屍のような心臓が燃える。

    それは困窮による喘ぎにも似た、卑俗な淀み。口端を押さえ付けるように卑陋な弧を描く。俯く際の所作ひとつ取っても紛糾として、私の寄る辺は延々と揺さぶられていく。
    遍く感覚ばかりが鮮明となっていて、この時において、錯綜の無駄なることは。嚮導から逃れえる解めいた、忘失の中。踵で踏んだ傷薬すら、ただその熱を増させて。そう。私はもう、その夢ばかりを見ている。

    「――ッ――は、」
    息が浅い。愛咬の痕は滲むように熱を持ち、同様に。欠片を孕んだかの如き、花弁の痕跡は脳を回し続ける。頭蓋の内側。肌を軋ませるような錯覚に見舞われ、繰り返す声は僅かに掠れて。それを押さえ込む両手の中で反響し、歪で軽薄な感覚だけが渦巻き続け。繰り返される。
    浅く吐き出した呼吸を落ち着かせたくとも、この胸は、もう――息苦しくて仕方ないのだと、私の脳髄は叫び続けるばかり。
    「――ふ……ッぅ……」

    熱い。

    世界の彩度が高く見える時がある。色彩豊かであり、胸臆と呼応するように燃える形状をしている。電球色に照らされた壁、バーガンディの本棚、黒いソファ、赤いカーペット、黴臭さと薬品臭い空気。

    ――数週間通い詰めたベッドの上。白昼夢の芝生に置き去りにしたシャーレの中では死肉を食う鳥達が微睡んでいることだろう。
    私はただ息を潜めるようにしながらその〝風景〟を眺めていた。

    私はロトとのその夜のことを、至って自然と考えている事が分かった。夢は燻り、消えずに残る故に。度々の色彩で空気を染め上げて。汚染される程に、私の鼻腔を侵犯した血の臭気をも忘れさせ。その全てが〝在る〟という幻想だけが残る。荒ぶる焦燥などひとつも無かった。

    悲痛な思いで満ちるまいと、胸臆はただ――その景色と私との関係性だけを語り続けていて。乖離の如き私に言葉はなく、朧げに膝を伸ばしながら窓にかかる白いカーテンを弄ぶ。
    〝世界〟が――あの小さな庭が、私を見つめているようだった。ただ息を潜めたままで、蹲りながら眺めていただけならば良いものを。
    これがまるで惨めな模倣だったとでもいうように、指先まで突きつけていた。今もなお咽の奥で息が震えているが、呻くばかりであり、言葉は生まれないまま。

    私はロトのことを想ったが――胸臆を侵された私にとって、単純な言葉すら生まれることもなく。息の詰まるような閉塞感は、私をより追い詰めていくようで。私はその庭を幻視しながら、ただ静かで熱い恐怖を無かったことにしようと祈るしかない。
    窓枠の形の影は相変わらず動いた様子もなく、ただ在り続けている。

    (ロト)

    唇は形をなぞっていたが、声は伴わずにいる。その思い込みも背徳的な私心の故だとすれば、今の私が導くところのキャンバスには、漆黒の混迷が浮かぶだけなのかもしれない。

    お前ならば、或いは。
    音が、錯綜と。蠢く。織り交ぜ、混濁の中で掴む空虚の感触すら。希薄である事は自明で、私はそっと両手を目の前の窓へ――冷たく固い縁に指を伸ばす。その境界に触れる感覚は、硬く心を射抜く冷ややかな像を撫でているようなものであった。
    薄ら寒い粘着質の視線を誘う程の、銀色に包まれた肖像の唇が動く。
    取り留めのない文字が脳裏にちらつく。悪夢のような感傷は、立ちのぼる白粉の空気を裂いて。周囲に融け、口腔を通り抜けて無機質な隔たりを駆ける。

    「――は――ぁ」
    羽撃く虫の音。すぐ目の前で煌めいた銀色の錯覚が私を強く殴打した――そうであるのだろう。冷たい吐息とともに、私は尚も縋るように身を捩ろうとする。轟、というイメージは熱いシュプールの中に埋もれており、視覚の影絵を追い続ける。取り巻く間抜けな皺から転がり落ちた瞬間の情景さえ、私の網膜から容易く消えた事を気付いてしまったからだ。
    私は銀で形作られた猥雑な断面を見遣る。

    思えば私は――随分長い間、こうしてお前を呪っているような気がする。初めから夢であることに違いない癖をして。
    亡霊のようでもあろう手には、充満するような血の臭いばかりがある。輪郭を残すごとに快楽を感じる。それはまるで愛玩にも似た――否、ただの所有欲でしかない。
    この赤い記憶を、ひどく愛おしい物にするというのであれば、私も幾らか、感傷のようなものを抱くことが出来ただろう。然しそれは。何かを落胆させる光景の中でただ、内包したお前を見上げるだけなのだから。

    映像と呼ぶべき種類のいやらしさを兼ね備えた、忌々しい化合物に過ぎないそれを手繰る。一瞬だけ引き込まれて、理性の牢獄の奥深くへ意識を還す。錆びた鈍器を滑り落としてしまったような痛覚があるが、手を離す事すらもかなわない。
    この記憶を私は呪っている――否。これは、そう在る事こそが、お前への呪詛として相応しいとすら思ったのだ。

    思えば、窓越しに反射する姿が。ローズマダーの影を伴う赫耀の髪が。
    「――ただいま」
    なんてね、と続けられる。そんな些細な言葉さえ、私は――この、記憶の海に沈みながら、ただ聞いている。

    その幻影に伸ばした手は、酷く無様であることだろう。それでも尚私が手を伸ばす理由は、もう何も、明瞭には思い浮かばなかった。
    夢想的で甘い情緒は、全てどろりと形が崩れ。ただ、あの日に還る夢を見ていた。それは私の罪であり、その幻影であるなら、私は――
    「――ロト……」
    今にして思えば、余りに唐突過ぎるその熱こそが。待ち焦がれた私の我儘だったのかもしれない。
    歪む視界に目眩を見るようで、私は平衡を崩しかける。

    やはり何も狂いが無かった。歪である事が決定してしまった牢獄も、滲んで私を刺激するだけ。

    「あはは――なあに、そのカオ」
    「……少し。疲れただけだ」
    ああ、これは嘘だな?
    ――そう思いながらも、ただこの安寧が――安寧?
    分からないな。何も分からずに、私はお前と向かい合っている。ただ、その曖昧な言葉だけを反芻するだけで、私は静かな安らぎのようなものを覚えるようで。

    僅かに輪郭を撫で上げれば、暗黙の内に滑り落ちるように視線を遣る指先――違和が、ただ、この胸を掻き毟る。
    裏側に刻まれた呪いに触れるなり――しかし、彼の指先が離れるより早く――私はそれを奪取していた。

    それに甘える子供のように。ただ、触れた跡を探るように其処を眺めれば――
    「……きみらしく、ないね」
    そうだろうか、と自嘲気味に続けてやれば良いものを、私は問う事すら恐れたようだった。ただ、渇き切った口を閉ざしながら、見据えて。物思うばかりで。求める指先がより震えた様子を俯瞰し、見るので精一杯だったように思う。
    「カイナン、」
    ロトは問うようでもあった。薄い笑みは、返す言葉を完全に奪いきる為に作られたのかとすら思う。指先だけが呆然と触れ、離れ、また触れることを幾度か繰り返し――私は嗤う。
    ――ああ。この指はこんなにも冷たかったのだろうか?

    「何だ」
    「きみの、心のことだよ」
    飢える言葉は制御もままならぬ感情が根源にあるからか、荒い息の中に延々と燻るばかりで言葉の体を得ない。私はその指を離したくなかった。ただ――触れ合っているという感覚だけを欲して、指先を僅かに擦り合わせて、哀れな事を考えた。その延長は叶うべきかと思考しただけに過ぎず。
    この指先の熱だけが、私を正すのだろうに、と。
    「私は――」
    感情の乾いた今では、救済であるとばかりに頭は言った。無情であることを峻拒するかの如く、遣っていた指が揺れた事を糾弾するよう。最早、声を上げてしまいそうだったのだ。

    「ずっと、変わっちゃったね」

    聞きたかった返事は、言葉は。

    ――また、訪れる白昼夢の残骸は、ただそれだけでしかなかったのだろうか。それとも、私の満たされぬ心は。端から纏まりの一辺たりとも有り得はしないのだ。
    唯一求められる自戒の終末はとうに枯れていたに過ぎない。彼への尽きぬ望みの傍らを長く見上げながら、私の泡沫の夢は深淵じみた水面へ飛び込む途中なのだと切り捨てていたかもしれない。

    「……何を言うつもりだ」
    口触りの良いものに殺された真意を曝け出させたいと、絡みつかせるような情欲のままに尋ねる。恐慌を吐く唇が動いた道筋に沿って、溢れた銀の色彩に。また憧憬に溺れる。
    私はもうどうしようもなく淫蕩でしかないようだった――末期の衝動と言えば語り得るのかもしれないだろう。
    「いいや? お互いに変わっちゃったね、って。そう、思っただけだよ」
    〝世界〟という概念を文字化したらしい繊細なレタリングの文字列でさえ、表すことの出来ない心が果てだ。快か不快でさえも区分しようのない交接の中に於いては――それは異様なまでに鮮明としてある。
    しかしそれは最早夢ではないという事だけは、確かなようでもあって。私は最早、この熱を孕んだ指先の感触が何物であるのかさえ分からずにいたが、それももう遠いこと。ただ、その夢現を揺蕩うばかりであったとて、何も変わらない。

    「ロト、」
    その唇だけが形作る名前が、酷く。
    冗談のように、彼と同じ反応を象ろうが構わなかった。その一つ一つに咳き上がりそうな熱が込み上げた――辛うじて暗闇から手指を縫い出し、縋るように彼の腕を摑んだ。
    「カイナン」
    私の名を呼ぶその唇は僅かに震えた後、何も語らずに閉ざされる。それは何かを言い淀んでいるようでもあり、また私が言葉を奪うようでもあるのだろう。口内は乾いて、噤む口から溜息が出た。

    そうして喉を擦り潰し続ける錯覚だけが、私の熱をより煽るようでもあった――この感情の名を知りたいとは思わないが、それは余りにも重苦しく。また私を圧倒するには充分であったと言えたのだから。
    ああ――私は、何をしたい?

    「……シよっか?」
    暫時の沈黙さえ取りこぼす事無かれ。蠢く手指を摑むようにしていれば、その声は私に提案した。
    視界を塞ぐ一切が無いにも拘わらず、闇に閉ざされるような厭わしさ――実感として得られる甘美な電流も忘れはしない。名状し難い衝動というものは、既に元に戻りはしたものの――手のつけ難い所に行き着いている。

    有無を言う前に、彼の腕を引いてベッドへ倒れ込む。軋む木枠の音すら今は耳障りだ。その胸骨を押さえつけるよう覆い被されば、私の下にいるロトが、私を見上げる――ただそれだけの事に眩暈を覚えながらも、私の熱は更にその温度を上げていく。

    「あはは――ね、カイナン」
    彼の指先が頬を撫でる感覚にすら打ち震えるのだか、そんな風にして私の名を囁くのだから。
    「――いつも、そうやって――俺の事、押し倒してきたよね」
    静寂に響く穏やかな声は、最早何も許さぬ時計の秒針のように、ただ刻まれていくようだった。私は今もなお――脆弱な籠の中で許されたものであったにも拘らず、その心を求めるばかり。
    占有を求めるよりも、溺れる方が良い。

    渇いた瞼が思い出したように水膜を重たくしていく事に嫌悪感を抱きつつ、その熱と巻き起こる寒気の狭間の心理でも。構わない振りをしながら、彼のシニフィアンを貪り、この手で破壊しようと目論んで。
    「カイナン、」
    彼のその肌を這い擦りながら、求める声を囀らせる舌の温かさに指を縋らせていた。弄ぶように断ち切られた欲望を抱えようと狂おうと、最後に帰結するのはこの姿。そこに在る彼が全てだったとさえも思った所で、隠す事も無いに違いなかったのだろう。

    「……だーめ」
    舌の上で味わわれていく詩を読み尽くすことも叶わずに、細い指は私の手を覆い尽くしていく。爪の表面で銀を成す蜜が煮え滾るような火照り、口端から垂れ落ちる唾液が惜しくなりもして。
    彼の熱っぽい声を遮ることも許されずに、この口はただその指を舐るだけと相成るのだから滑稽だ。私がそうするまでも無い、という理性すら、とうに失われている。

    「ね、俺の事。抱きたいってカオ……してるよ? でも、今日は――だめ」
    指先が制止する。彼の唇は震えもせずに弧を描いて。私がそれに目を奪われている間、彼はただ私の唾液が滴り落ちるのを見ている。上辺だけに留めようと押さえ込む、この汚らわしさを見せつける。僅かに水音を立てて啜る素振りさえ見せておいて、その銀の蜜の一滴さえも惜しいと思う程――ただ私は、彼の一挙一動を目で追っている。この口は未だ物足りなさそうにして、唾液を垂らし続けるだけだ。

    ロトの視線が私に絡みつく。
    「ねえ」
    その声さえも零れぬ程の、吐息に近いものが私の耳を穿つと。またその蠱惑は、どこまでも背徳を思わせるようだった。脳の在るべき場所へ容易に吹き込み、鷲摑みにした肢体ごと絞られていく気さえする。
    溺れはしない快楽を引き伸ばされ続けて、体が軋むようで。過ぎぬ激情に身を灼きながら、徐々に閉じていく視界の中で――それが当たる刺激に跳ねるように身を捩って。

    未だ正常でいようとする試みを嘲笑われているような、堕落した霧に取り巻かれたままに、それはあった。この悍しい神経は快楽というものに於いて余すことなく心得があり、差し出されさえしたものなら喰らいつくことは確かなのだと言えた。無様に更なる底を渇望しながらも、胸臆の底までその影が蝕むことを畏れているかのようでもあった。
    この忌わしいほどの大きな悦びを前にしても、こんなにも燻らせているばかり。

    「俺の事、ずっと抱きたかったの?」
    なんて罪深い事を口にしているのか。
    この破綻を内に封じてしまって、そうした呆気の無い解答さえも。それを翻しているという事も。知らずにいられるのではない。見過ごして得られるのは、甘く粘り付くまでの快楽でしかない。
    煙草の煙がしっとりと覆いかぶさっていくような、彼を覗き込む境をなくしていく浮遊感が侵蝕する。恐らくそれも間違いではないのだろうが、それでは満たせぬ事も赤裸々に見透かされている。それを認めることは――酷く、赦されるのだろう。

    快楽はまるで泥のように堆積し。前か後かすら。分からない位に狂いながら、流れる銀糸に精一杯もがくような浅薄を繰り返すのだ――その指先の僅かな動きに。
    「ふ――は、ぁ――」
    「かーわいい。でもね…きみって、痛みだけじゃ覚えられないだろうから……」
    甘さを存分に含んだ嘲笑という責め苦を受けつつ、蛇の如き何かが皮膚の下から這い出て来るような気がした。
    「ロト、」
    朧気になることさえ許さぬよう、咬まれた喉が嬉々として。誘発された痛みにすら倒錯じみた眩暈を起こす。喪失は侵入のための手段でしか無い。

    酸に浸けられた傷跡のように、痛みを残した身体を包む温度は舞い踊るようでもあり、頭の働きすら許さぬように翻弄する。脳髄に声を散らすことと同義。貼り付く声の数は増えるだけで。血液は熱され、脳内麻薬が絶え間なく分泌され続けている。皮膚に一瞬付着するようなぬめり。
    その暖かさという酷い疑りに似た物を拒んで打ち倒しておきながら、終わりを求める事には無意識にも縋りたがっているようだ――追及を殺して止めさせるほどの。引き出されていく芽吹きよりも、利己的で醜い欲望。

    「ね、カイナン――」
    ふと意識を持って行けば、全身のどこにも。熱を帯びていない部分が、もう残っていない。
    お互いの生と死さえもが。その行為の末に交錯するとしても、私自身を左右しないで欲しかった。私に必要なのは、もはやそれだけでいいという話に過ぎない――蟲食いの痕に押し潰す口付けを重ね合わせたとしても。
    熱すれば渇いていき、弱い裂傷を広げてゆく。そうして私は血を零すことを求めながら、ただその先を欲しているのだ。

    原始的な交感を感じようとするばかり。

    最早言葉も無くしていると分かっていながらも、彼の手を取ったりはしなかったのに――意識もうろうとしたまま重ねたこの手は、彼の掌へ沈み込んでいる。この指は、私より僅かに冷たい筈なのに――これが、何故だろう。
    重なる手から、飲み込まれる程に逃げ出せず。指を跳ね上げるそれが尚更、不義に映るのみ。
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