愛想の無い顔、平坦な声。
骨ばった手で城の住民を丁重に棚へと移す。
素材の良いぬいぐるみたちや大ぶりなリボン。愛を注がれるための愚鈍そうな綿。
魂に似合わずともそこに違和感のない存在でなくてはならない。
お客様の信頼のため。
社訓もマニュアルも完璧に叩き込み、今日も城の一部となる。
何を思って自分をここへ配属したのか。いや、人員人材 それ以上の意味なんてないのだろう。
思考は度々そこを巡るが、別にどうだって良い。不満はないし、自分に出来ることも此処にたんまりとある。そうしたらそれを成すまでだ。
お客様の小さな手にそっとぬいぐるみが乗る。真剣に吟味される一体。手に取った。置いた。
また手に取った。また置いた。
形や縫製の仕上がりが良いもの、というだけではないのか。しばらく見つめて分析しているが、どうにか違いは判れどクリア規準が未だわからない。
思考している間に選定が完了したらしい。満ち足りた顔をしている。
お買い上げ誠にありがとうございます。
転がる表情、跳ねる声色。
その人は真剣に綿に向き合い、その価値観が揺るがされるといたく寂しい目をした。
その人は言う、ぬいぐるみは家族であると。
幼い子供の言う無責任なそれではなく、きちんとかれらに尊厳を持たせた上で言う。大人の責任感だ。
澄んだ目で言う。迷いない信念だ。
面白い人だ。そう思う。
その人の信念が妙に心地良いのはなんだろうか。
ぬいぐるみ好きの客、良い手本。
よきスタッフであるための参考。
理由を探して積み上げる。建前を並べるのは得意だ。
ふとよぎる例の百貨店制度のこと。
いつかどなたかのご用命とあらば無論つとめるつもりではある。
けれど、この人に仕えてみたならば?
悪い気はしない。
そんなことがふと脳裏に浮かんだ、その人の幸せの詰まった紙袋を提げながら。
最後にひとつ乗せる理由。
(あなたは見ていて飽きない人だ。)
「幸せが実態を得た存在」
「好きなものを前にした貴方もそのようにあるのでは?」
「なんて」
貴方が声をあげてわらうので、なんだかつられて可笑しくなった。