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    Amagasa_water

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    Amagasa_water

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    本当は漫画形式で描いてみたかったけど画力が追いつかなかったため供養。いつか漫画にできたらいいね

    #刃景

    駄作その2うっすらと意識が浮上する。景元はもう朝か、と思ったら妙に枕が固くて凸凹していることに気づいた。パシパシと目を瞬かせる。空一面に広がる星空。羅浮で見る星空とは違って、なんとなく星との距離が近く感じる。どこまでも真っ暗な空は街頭で明るい羅浮では見ることの叶わない物だろう。なんて呑気な感想は景元の頭には浮かばなかった。どこここ。まず第一に思ったのは至極当然それであり、寝ているうちに誘拐でもされたのかとまで考えた(景元の自宅のセキュリティ的に不可能なことだったが)

    「やっと起きたか、景元」

    あまりの事態に思考がまとまらない景元に、しわがれたような低音がかかる。誘拐犯か!と思って勢いよく声のした方を振り抜くと、そこには一体全体どういうわけか刃が座っていた。なんで。

    「え、刃」
    「率直に聞こう、この現状は貴様が仕組んだものか?」

    現状、というのはこの見知らぬこの場所によりにもよって自分達がコンビでいることだろう。普通に気まずいのでもっと他のペアはなかったのだろうかと文句を言いたい。

    「いや違う。それこそ君たちのいう脚本とかではないのかい」
    「そんな脚本聞いたことがないぞ」

    朝起きたら知らない場所にいましただなんて、娯楽小説の中でしか見たことがない。ただ唯一異なる点といえば、大抵それらには脱出条件が書いてあって(相手の好きなところを十個言うとかなんとかかんとか)それをクリアすれば元の日常に戻れる物ばかりだが、今回はどうだろうか。そもそも脱出するための条件がどこにあるのか分からない。詰みだ。クリア条件のないゲームが世間から当然バッシングを得るならば、この状況は即アチーブメント、バッシング獲得達成だ。おめでとう。ただこれはゲームなんかではなく実際に現在進行形で起きている問題なのが笑えない。刃と景元は願ってもいないのに詰みゲーの主人公になってしまった。エリオもびっくりの運命だろう。

    「それで...刃、君はここがどこか知っていたりはしないかい?」
    「知るわけがないだろう。ここまで何もない星は初めて見た」

    周囲にあるのは灰色の砂漠のみで、地平線までずっと続いている。特筆すべき文化的なものが何もない。文明の生まれない場所に星核があるはずもなく、星核なきところに星核ハンターは来ない!用がないから。刃が知らないのも当然だろう。景元は大きくため息をついた。


    二人は相談(と呼ぶには一方的に景元が話しかけているだけだったが)の結果、とりあえず探索してみようと言う結論に纏まった。脱出ゲームの醍醐味である。これぞ開拓。およそ三時間ほど変わり映えのしない灰色の砂漠が続き、いくら羅浮では珍しいとはいえ煌々と輝く星空も飽きてきた頃。約1mほどの白い何かが灰色の何かを纏って歩いてきた。じっと目を凝らすと、灰色の何かはフードの付いている布で、ポンチョのような形をしており、そして問題の生命体は、真っ白くて丸っこい。小さな手足をせっせと動かして歩いてきている。可愛い。刃と景元はその丸っこいのがこちらへ辿り着くのを待つ。ちいこいフォルムがせっせと足を動かすその光景があまりにも可愛くて景元は萌えを感じた。刃はなんとなく、銀狼が見たら飼いたいと言いそうな見た目だなと思った。ちいこいのはこちらへと辿り着き、止まる。そしてその生物は刃と景元の姿を見ると、一回ピシリと固まった。そしたらなんということだろう、次の瞬間、その生物は奇声を上げ始め、首がその場でぐるぐる回りどこにそんな脚力があるのだろう、その場で大柄の二人を軽く超える高さまでジャンプし続ける。異様だ。見た目からは想像もつかなかった不気味さにめまいさえする。(そして愉悦が好きそうな見た目なのが悪趣味)いつまでも止まない奇声とずっと回り続ける首に背筋が真面目に凍った。刃も同様に驚いていて、刀を握りしめたままぴくりとも動かない。奇声はただの音のはずなのに、自分たちの脳を直接ぐちゃぐちゃに掻き回すようで落ち着かない。そんな状態でしばらくするとぽつりぽつりと地平線の向こうから白い粒が見えてきた。刃はハッとする。

    「おい景元!」

    景元は不幸にも不愉快な奇声と不気味なこの生物に驚いて固まってしまっていた。最悪だ。刃は固まった彼の手首を掴んで、これでもかと言うスピードで走り出す。景元も強制的に走らされたことで驚きから解放されたのか、自主的にスピードを上げてきた。

    「仲間を呼ばれた!この星にはあの生物が住み着いているようだな」
    「あの奇妙な行動は仲間を呼ぶためのものだったのかい?」
    「恐らくな。あいつの鳴き声は精神をやられるくらい不愉快だ。仲間なんて呼ばれたらたまったもんじゃない」

    走って大声で会話しながら先程歩いてきた方向へ戻る。だがどこに隠れればいい!?後ろを見るとその体に見合わないスピードでジャンプしながら追いかけてくる生命体。少なくとも3時間のうちに建物といった隠れる場所はなかった。広い砂漠で土地勘もないのに(砂漠に土地勘が働くのかは知らないが)走り続けるのはいくら星核ハンターと羅浮将軍のコンビでも体力的に無理のある話で、集団で追ってきているであろう相手側に追いつかれるのも時間の問題だった。刃が舌打ちをして、その場で逆方向、つまり相手側へと駆け出す。

    「刃!一体どう言うつもりだ!?」
    「埒が開かん。あの生物を止める」

    彼は刀を構えた。殺す気だ。程なくして追いついた先ほどの個体が、待ち構えていた刃によってびっくりするくらいあっさりと切り捨てられた。するとどう言うことだろう。その個体は黒い繊維に変わり果てた。二人は呆気に取られる。この不気味でしかなかった生物は死ぬと黒い繊維になる、だなんてどう言う設定だ。どう言う体の構造をしたらそうなる。いくらなんでも不気味さを演出したいからってこれは酷い設定だと思う。意味不明だ。再びピーぎゃーズンダーバーごつんカーンとか言う謎の奇声が遠くから聞こえてきた。

    「まずい」
    「刃、隠れる場所が見つからない。どうする」

    刃は思いっきし顔を顰めた。見たことないくらい顰めた。常に謎の不的な笑みを浮かべているか表情筋が全く動いていない印象しかないから、君そんな顰めっ面できるのかと思った。この男意外と表情筋緩いかもしれない。

    「隠れる場所がないなら、あいつらを殺しながら探すしかない」

    当然の答えだ。ただ景元はなんとなく、それに躊躇いがある。命を奪うのが嫌、というだけでなく元々この星に住む生物を、ここに住まない自分が殺すことに抵抗があった。羅浮が急に他の星の生物に虐殺されているのと、相手側からしたら同じことだろう。まあ襲いかかってきてるのは相手側だけどね。

    「景元、別に殺したくなければ殺さなくてもいい。そもそも貴様は今武器を持ち合わせていないし、殺す手段もないだろう」

    刃はそれを読み取ってこういった。確かに今の景元は薄手の寝衣を羽織っているだけで、武器は己の拳のみ。刃は大きくため息をついて、白いのが来ていたローブを渡してきた。

    「刃?」
    「それを羽織ればまだ周囲と同化して認識されにくいかもしれない。抵抗できないのなら着ておけ」
    「…ありがとう」

    ローブは当たり前だが景元の上半身を覆い隠すほどの大きさしかなく、こんなので隠せるかと不安になったが、せっかくの刃の好意かもしれない。受け取っておこうと割り切る。刃は景元が着たのを確認すると再び駆け出した。


    道中追いついてきた白いのを切り捨てつつ刃もローブを手に入れ、走る続けることおよそ2時間。体力が有り余りすぎている。案外体力の心配は要らなかったかもしれない。手前に建物のような何かが見えてきた。二人してそっと体を小さくし、様子を伺う。

    「市場かな」
    「そう見える」

    何やら硬貨を使って物を売買しているようだ。一見羅浮のそれと変わらない光景に再び先ほどまでの殺戮を思い出して心を痛ませる。だがそれも少しの間の話だった。

    「景元、あそこの中央奥の出店の商品を見てみろ」

    刃がそう言うのでじっと目を凝らす。白い生命体が店主を務めているようで、同じような生命体と物を売買していた。だが問題はその商品だ。彼(or彼女というか性別があるのか分からない)が店の奥から引っ張ってきたのはなんと言うことだろう人間の肘から先である。思わず息が詰まった。

    「刃!あれ人間の手じゃないか!?」
    「俺にもそう見える」

    一体全体どう言う用途で使うのかは分からないが、それを買った生命体は上機嫌でどこかへと去っていった。


    そこからは情報収集の日々だった。といってもバレないように身を縮こませながら、市場を観察するのと砂漠を散策する程度しかすることはない。ついでにかなり市場からは離れているが身を隠すのにちょうどいい廃墟も見つけて拠点もできた。とりあえずここ数日で得た情報をまとめておこう。
    一 この星の外気は厚い絶縁体と似た性質を持っていて、現状では星核ハンター並びに仙舟同盟への連絡は不可能であること。
    ニ 市場は人間以外にも他の星の生物と見られるものも商品として扱っていること(どうやら標本と同じで置物的な感じで売買されているらしい。倫理観ないのだろうか)
    三 この星の生命体(以下白玉)は脆いので強めに殴ると割とすぐ死ぬこと
    四 白玉は言語を持たず、会話が不可能であり、獲物を見つけた時は先述した不気味な方法で周囲の仲間にこれを伝えること。恐らく白玉の鳴き声を聞き続けると発狂すること。
    可愛らしい外見からは全く想像もできないサイコっぷりである。最悪すぎるギャップ萌え(萌えない)。本当にキャラを詰め込みすぎていてどう言う設定をしているんだと叫びたくなる。そして本当にこれが最悪なのが、通信が現状不可能であると言うこと。ここは〇〇しないと出られない部屋じゃないので普通にガチで脱出する必要がある。だが外に助けを求めようとも求める手段がないのだ。試しに一回それぞれが所属する番号へと電話をかけたりメッセージを送ってみようとはしたがどちらも失敗している。運良く星穹列車か星核ハンターがここに停泊しない限り二人に今脱出する手段がない。やはり詰み。本当に最悪。泣きたい。どうせここに刃しかいないし泣いてみようか。彦卿が恋しい。彦卿、元気ですか。私は今脱出手段のないリアル脱出ゲームに強制参加させられているよ。

    「景元、現実逃避もいい加減にしろ」

    脳内会話が全て見破られていたのか刃が声をかけてきた。

    「あぁすまない」

    刃が無言で背中に背負っている袋から何かを取り出して放り投げてきた。鉄パイプ。どこにでもある普通の鉄パイプ。どこに落ちてたんだこんな物。この星でパイプなんか必要あるのか。水道が通っている様子もないのに。

    「拳で殴るのもいいが、そっちの方が確実だろう。殺したくないのならせめて護身程度に持っておけ」
    「ありがとう。どこに落ちてたんだい」
    「恐らく不時着した人間の飛行船の残骸だ」

    自分たち以外にいる人間はやはり不時着した人だったようだ。星間旅行が可能となった今、仕方のないことだが飛行船が不時着してこういった未開拓の星にたどり着くこともあるだろう。あまりにもここは場所が悪すぎるけれど。そうして行き場がなくなった彼らが白玉に見つかってあぁも無惨に売買されているのかもしれないと思うと、とてもじゃないが耐えられないものがある。

    「それと、市場でアンテナが売られているのを見た」
    「アンテナ?」

    アンテナがどうしたのか。刃は続ける。

    「アンテナを使ってどこかと通信している様子だった。あれがあれば、カフカ達と連絡が取れるかもしれない」

    先述の通り、この星の大気は絶縁体に似た性質を持つ。電子が大気中で動くことができないのだから、普通に考えて通信もくそもできるはずがない。実際今のところスマホはせいぜいライト代わりにしかなっていないし、一応電池残量も気にしているしでそんなに使用できず、人類の叡智の結晶とまで言えるスマホはその名の通りガラクタと言っていいレベルまで堕ちている。それが、どういったわけかこの星で通信ができるのだ。

    「それこの星特有の通信機器とかじゃないよね刃」
    「俺達が使っているようなスマホを使っていた。これも恐らく、不時着した人間のものだろうがな」

    詰みゲーじゃなかった!!通信できる!!急に救いの手が伸びてきた!!難題が一瞬で解決してちょっと呆気ないが、解決策があるのはいいことだ。いや待て。

    「それで、どうやってそれを手に入れるんだ」
    「硬貨を集めて取引するか、盗むしかない」

    やはり難題だった。格段に難易度は下がったけれど。実は硬貨は手元に数枚ある。これがいくらの価値なのかはわからないが、申し訳なく思いつつ殺してきた白玉の遺品から便利グッズはないかと物色している時に手に入れたものだ。硬貨はいいだろう。どうやってそれを使って買いに行こうかと言う問題だ。自分たち二人は結構背が高い。対して白玉達は個体差があるとはいえ高いものでもおよそ1m50㎝ほどがせいぜいだ。間違いなく市場へと出たら備えつきのフードをかぶっていても一瞬でここの星の生物ではないと見破られる。初めて自分の高身長を呪った(高身長じゃなくても平均身長の時点で見破られるほどに白玉達はちいこい)

    「それってもう盗む以外の方法なくないかい」
    「そうだ」
    「やっぱりかー」

    なんでこの男は取引できるかもなんて希望を見せておいて実際は現実的には盗みの方が成功率が大幅に高いでしょうなんてことをするんだ。盗みは普通に良心が痛む。なんでもない普通の人間として盗みは忌避すべきものだ。常識だ。取引できるのならしたい。手持ちの硬貨数枚で交換できるのかはわからないができるならしたい。が、結局のところ硬貨も襲ってきた白玉から物色したものだし、取引も盗みも良心が痛むことには変わらなかった。


    体感二日後。刃は刀を手に、景元は鉄パイプ片手に市場へと潜り込んだ。目的は例のアンテナをゲットすること。そしてとにかく外部へ連絡してここから脱出すること。白玉がいくら脆いからとはいえ、鳴き声を聞き続けると発狂するし、何せ数がめちゃくちゃに多いので(まるでGのように大抵一人見つけたら周囲に十人はいる)油断ができない。盗んだら速攻で逃げる。それが刃と景元の間で立てられた計画の略式だ。アンテナを売っている店はすぐに見つかった。問題はここから。その店は市場の中心部に位置し、歩行者が多い。そしてどう言うわけか24時間の一瞬たりとも店主の白玉がいない時間がないのだ。こいつら睡眠という概念はあるのか。

    「景元、今から三つ数える。カウントがゼロになった時に出るぞ」
    「わかった」

    アンテナを盗むのは景元の役割だった。刃が、自分がまだ白玉を殺すことに抵抗があるのを察したのかは知らないが、襲いかかってきた白玉を撃退する役目を買って出たのだ。カウントがゼロになる。飛び出した。例の店目掛けて一直線に走り抜ける。道中の白玉達が自分たちを見つけてあの不愉快な奇声とジャンプを始めた。首が縦回転していた。だいぶ気持ち悪い。景元はアンテナを引っ掴むと、道で応戦していた刃に声をかけ、拠点への道のりを引き返す。だが、まあそんな簡単に物事が進むはずがない。大抵こういうシュチュエーションには困難がふってかかるものだ。迷惑でしかない。

    「数が多い!」

    余計なことに、市場にいた白玉全員がこちらを追ってきていた。しかもあの不気味なジャンプをしているせいで個体一つを相手するのに時間がかかる。そして時間がかかると、最終的には発狂する未来が両手を広げて待っている。いらん帰れ。数日前に偶然居合わせた発狂現場を思い出した。不時着したであろう人間が、訳のわからない叫び声をあげて地面にうずくまり、追いついた白玉がそこにわらわらと群がる。虫の死体に蟻が群がっているのと似ていた。あぁなりたくない!!発狂したくない!!その一心でアンテナを抱えて鉄パイプを陣刀のように必要最低限で振り回す。リーチの長いパイプでよかった。体を鉄パイプで強打された白玉が空中で黒い繊維になって落ちる。刃も相変わらず見ていて不安になるような戦い方で相手を切り伏せ続けていた。灰色の砂漠に、黒い繊維と刃の真っ赤な血が落ち続ける。走りながらパイプを振り回していたせいで腕が疲れてきた。なんなら景元はアンテナを抱えているため片腕の疲労が半端じゃなかった。終わりの見えないこの絶望的な敵の数。頭の中を直接手で掻き回されるほどに不快な奇声。疲労と不快さと絶望に精神が蝕まれていくのを感じる。そろそろ限界だった。正直いつ発狂してもおかしくはなかった。発狂しなかったのは、ただ景元は今までの人生で人よりも少し、絶望を味わいすぎていたため耐性があったからだけだ。冷や汗を拭いながら走る。自分がここまでになっているのだから、恐らく常人にとっての発狂までのタイムリミットはもう超過しているのだろう。逃げられたら勝ちとはいえ、数も多いし、拠点に着いたところでこの白玉を撒けていなければ意味がない。だんだん脳が熱湯で湯煎されるような感覚が強くなる。思考ができない。腹の奥底から喉にかけてドロドロした粘り気のある何かが迫り上がるような感じがある。痛みはない。痛みはないが、体が緩やかに自分の制御下でなくなっていくような、そんな感じ。刃は。刃はどうなっている。ほとんど液体のように感じられる脳味噌でそう思って、刃を見た。


    急激に意識が冴える。頭が液体状から個体に戻る。迫り上がってた何かが消えた。視界の先には失血のしすぎのせいか刃が倒れている。足には、明らかに刃の髪の毛ではない黒い繊維が長く巻き付いて、彼を離さない。ここぞとばかりに白玉が彼に群がる。数日前に見た光景とそっくりだった。だめだ。刃が、刃が。頭では彼は不死身で、今の自分は彼を置いて拠点へと戻って、どこか外部へと救助を求めるのが最適解だとはわかっていた。その後に刃を救助してもまだ間に合うのはわかっている。それでも体は、右腕の鉄パイプは、彼の周りに群がる白玉を全て黒い繊維へと変えた。急いで倒れた彼の袋にアンテナを入れて、めちゃくちゃ重いけど刃を抱えて走る。良心なんて今は消え失せていた。追ってくる白玉はしっかりと鉄パイプで殺した。足に絡んでくる繊維は全て引きちぎった。奇声はもう頭を掻き乱せない。景元の頭の中は、刃のことでいっぱいだった。なんとかして刃を拠点に連れていかないと。早く彼の手当てをしないと。およそ一時間。タイムリミットを大幅に超過して景元は最後の白玉を鉄パイプでホームランした。よく飛んだと思う。開拓者といい勝負ができそうだったと思う。そこからは猛ダッシュで拠点へと駆け込んだ。

    「刃!!」

    完全に気絶していた。逆に気絶していたから発狂の心配もなかった代わりに、それよりも思ったより失血していそうだったことに焦る。止まらない傷口を、布で硬く縛る。こういう時に自身の髪紐があったらよかったが生憎寝ている時にこの星に飛ばされたので持っていなかった。運が悪い。簡易的に作った寝台に彼を寝かせ、その間にアンテナを起動させ(これがややこしくてものすごい時間がかかった)、自身のスマホで手当たり次第に通信を開始する。いつ白玉に見つかるかわからない恐怖を感じながら、開拓者、仙舟同盟、符玄、彦卿、雲騎軍等各所に連絡を入れ倒す。すると、刃のスマホが急に着信音を鳴らした。誰かからメッセージが来ている!通信できた!と喜ぶがまだ早い。(不用心にもほどがあるが)刃のスマホはロックがかかっていなかったため、少し拝借してメッセージを見る。銀狼、と呼ばれる星核ハンターからメッセージが届いていた。

    『刃、返事をしてー』
    『あ、繋がった!』
    『刃今どこ?』

    ぽんぽんとメッセージが来る。

    『初めまして銀狼』
    『え誰。刃もしかして私達以外にもスマホを貸してたりする?』
    『私は景元だ。羅浮将軍の』
    『嘘でしょ。なんであなたが刃のスマホ持ってるの』

    状況説明を軽くすると、銀狼は開拓者がよく使うパムの了解スタンプを送ってきた。星核ハンターも使うのかそのスタンプ。

    『灰色の砂漠しかないような星?そんな星聞いたことがないけど』
    『恐らく未開拓の星だろう。見た様子では私達人間の文明がほとんどない』
    『データのない星ってこと?探すの大変だ』
    『なんとかして探して欲しい』
    『他に特徴とかある?』
    『強いていえば、特殊な機械を使わないと通信が全くできないところかな。大気が通信を全て遮断するらしい』

    しばらく返信まで時間がかかった。

    『目星がついたかも』
    『おや』
    『宇宙の地図を読み込んで、明らかに球状に空洞になっている部分がある。この地図はカンパニーが電子とかその他諸々で計測した地図だから、電子を通さないならその空洞があなた達のいる星じゃない?』

    なるほど賢い。ところでカンパニーのそういった地図がしれっと漏れていることには突っ込んだ方がいいのだろうか。企業秘密的な何かじゃないのか。

    『それでこちらに来て助けて欲しいと言ったら助けてくれるかい?』
    『私のことなんだと思ってるの?刃がそっちにいるんでしょ。刃がいるんなら助けに行かないわけがないじゃん』

    いい仲間を持ったな刃...と少し母親気分になった。弟子をとってから親気分が増した気がする。

    銀狼はハンター達にこのことを伝えてくると言って離席した。その間に景元は未だ気を失っている刃の手当てを続ける。包帯は滲み出る血を含んで重くなり、代わりの布を巻き付ける。少し熱があるようで、気持ち涼しいかなと鉄パイプを顔の横に置いておいた。本当に気休め程度にしかならないだろうけど。カフカがいれば、彼の苦しみを軽くすることができるのかもしれない。言霊を使って痛みや熱を、本人にないものとして認識させることだってできるかもしれない。だが、景元はここではなんでも無い人間だった。できるのはせいぜいこういった包帯を変えたりくらいの気休めだけで、二人で行動し始めてから戦闘をほとんど担っていた刃に申し訳なくなる。自分が白玉を殺すことに躊躇いがなければ。襲ってくるのなら防衛するのが当然だと割り切ることができれば。意味のない良心で刃に負担をかけていたかもしれない。もっと初めから戦闘に積極的だったならば今刃が倒れてはいなかったかもしれない。刃のスマホが鳴った。

    『けーげん、他のメンツに言ってきたよ』
    『なんて』
    『少し距離があるから着くのはしばらくかかるだろうけど、ちゃんと救助に行くって。けーげんも羅浮まで送ってくよーってカフカが言ってた』
    『かたじけない』

    懸賞金51億からは想像もつかないほどフレンドリーな銀狼に少し拍子抜けしつつ、救助の目星が立ったことに安堵する。

    『ただ、着くのに三日はかかるって。それまで持ち堪えられる?』
    『あぁ』

    三日間。三日間生き残れば勝ちだ。終わりの見えなかったこの砂漠の星から解放されるまでのタイムリミット。それさえ乗り切れば元の日常に帰ることができる。

    『ならよし。まあ大丈夫でしょ!羅浮の将軍と刃ならきっと生き残れるって』
    『はは、それはありがたい言葉だね』
    『ところでさ。刃は大丈夫そう?』

    少し固まった。

    『...出血がひどい。いくら不死だとわかっていても心配になるくらいにね』
    『あー...まーた無茶しちゃって。まあでも、けーげんが気負う必要はないでしょ』

    見透かされている気がした。自分の至らなさと中途半端な良心のせいで、刃が倒れてしまったのではないかという考えを。

    『はは、でもこれは、殺すべきだと頭ではわかっていたのに、心で踏ん張りがつかなかった私にも責任があるよ。そして刃が倒れてから相手を殺し尽くすだなんて手遅れなことをした』
    『うーん?』

    銀狼がパムの不思議そうにしているスタンプを送ってきた。

    『それってそんなに気負うこと?いくら長生きしても、できるだけ命を奪いたくないーとか、そういう良心はあって普通のものじゃないの?』
    『私はそっちの状況がよくわからないからズレたことをいうかもしれないけど、別にあって普通のものを責める必要はないんじゃない?』

    瞬き3回。ちょっと信じられない言葉を懸賞金51億のハッカーが言っている。というのはちょっとした照れ隠しみたいなもので、ここ数日心を悩ませてきた自分の心が正しいと評価されたことに景元は目頭が熱くなるのを感じた。

    『おーいけーげん、返信してー』
    『流石に返信ないと拗ねるよ』

    怒った表情のパムのスタンプがポンという音を立てて送られてきた。

    『ありがとう』
    『どういたしまして?はぁ、人を慰めるなんて柄じゃないんだけどね。カンパニーがこの私が羅浮の将軍に感謝されただなんて知ったらどんな反応するんだろう』

    ちょっと気になる。ついでにこの状況を知った符玄がどんな反応をするのかも気になった。きっと彼女の胃薬の服用量が増えるだろう。

    『そろそろ私も戻らないといけないからまたねー』
    『あぁ、ありがとう』

    銀狼がオフラインになったのを見届けて、景元は刃のスマホの電源を切った。


    刃が起きたのは翌日のことだ。景元が見張りをしていると隣でパッと起きたのでびっくりした。彼は隣にあった刀を手にして瞬時に周囲を見渡したが景元しかいないことに安心したのか刀を下ろした。あの後の銀狼との会話で、銀狼が刃ってちょっと猫とか犬に似てるよねーって言っていたのを思い出す。

    「おはよう」
    「...おはよう。白いのは」
    「安心してくれ。まだ見つかってないよ」

    というのは嘘で、本当は刃が寝ているうちに三人ほど鉄パイプで吹っ飛ばしたのだが、言語を持たない彼らがこの拠点の位置を仲間に知らせる術はないのでとりあえず安心させる。

    「そうか」
    「あぁそれと、君のスマホを借りて星核ハンターと連絡が取れた。本当にあのアンテナがあったら通信できるんだね」
    「カフカと話したのか」
    「いいや、銀狼だよ。あと二日で救助に来れるそうだ」

    刃はじーっとこちらを見つめて、少し何かを考えてから刀を手に立ち上がる。

    「どうかしたのかい」
    「見張りを交代しろ。貴様、クマが酷いことになっているのを知らないのか」

    鏡がないんだから気づくわけないだろうと文句を言いたくなるが確かに丸一日寝ていなかったので普通に眠い。好意に甘えて寝ることにした。だが、いくら目を閉じても眠ることができなかった。極度の緊張状態に置かれていたせいか、眠気がひどくても眠れない。

    「刃」
    「なんだ」
    「寝られない」

    刃は数日前に見せたしかめ面をした。やっぱりこの男思ったより表情豊かだぞ。

    「寝ろ」
    「あはは、寝られない」
    「話しかけてくるだからだろうそれは」
    「そうかもね」

    少し、刃と話したくなった。なんだかんだで今の今まで、二人でずっといたのにドタバタしすぎてちゃんとした会話をしていなかったのだ。せっかくの機会だし話したい。

    「刃、この間まではすまなかった。私が戦闘を避けていた分君に負担がかかっていたのは、本当に申し訳ない」
    「別に気にしていない」
    「それでも、この間君が倒れた原因の一端は私にあるからね。謝らせて欲しい」

    刃は黙った。それを好機ばかりに続ける。

    「でもこうやって君と旅する機会が得られたのは、この状況で唯一嬉しいことだよ。私は羅浮将軍として、羅浮を守り続けなければいけないし、それは今後も変わらない。きっと旅をすることは、もうないだろう。いつ魔陰に堕ちたっておかしくない。でも私はその時まで羅浮を守るつもりだよ」

    刃は黙ったまま、外を見つめている。

    「だからこうやって不本意な形ではあったけれど、君と旅をすることができてすごい嬉しいし、状況は良くないけれどとても楽しいんだ。君は旅を長いことしているからあれかもしれないけど、私にとってこんな貴重な機会を君と共に過ごせたことは間違いなく私の人生で強く輝くものだ。不愉快に君は思うかもしれないけれど赦してくれ」
    「不愉快とは思わない」

    急に刃が口を開く。目は外を向いたままだけど。

    「貴様と旅をすることが俺にとって不快だなんて決めつけるな。そちらの方が余程不快だ。確かにこの状況は俺にとって全くいいものではないが、貴様との旅がいいものだったかそうでなかったかは俺が決める。そして俺が倒れようがそれは俺の決めた行動の上で成り立ったものだろう。それも原因が自分にあるだろうなんて考えるな。俺の判断にどこにも間違いがないと俺が思う以上、俺が倒れてしまったことには、それには俺に責任がある」

    ちょっと饒舌でびっくりしたのは置いておいて、なんだその言葉は。そんな言葉をかけられたら、君との関係に希望を持ってしまう。いっそのこと自分が不愉快だと断言された方が覚悟が決まる。

    「それは...」
    「はぁ。いい加減寝ろ。いくら二日後に救助が来ると言っても体力が持たなければそれまでにくたばるぞ」
    「うーん、それもそうだね。ありがとう、私は寝るよ」

    刃がそっと目元に手を置いた。暖かい。早く寝ろということなのかもしれないが、なんだかんだいって景元はこうやって刃から気遣いをされるのを結構好んでいたりする。素直に彼の言葉に従って、景元は夢へと落ちていった。


    刃は景元から寝息が聞こえ始めたのを確認すると手をそっと離す。最後の自身の記憶は途方もない白玉に囲まれていたところまでだった。それが起きたら拠点にいたのでびっくりした。景元が自分をここまで連れてきたのは明らかだ。自分が倒れたところからここまでの間、彼は白玉を数多く殺しただろう。彼がなんとなくその行為を忌避しているのはわかっていた。良心から来ているだろうこともわかっていた。自分が倒れたことで後悔があるとすれば、彼に彼の良心を無視させたことだ。別に今の刃にとって、景元の良心なんて考えなくてもいいことだろうに、刃はできるだけ景元に手を汚させないように動いた。なぜ自分がそのように動いたのかはわからない。わからないが、彼が自分の良心に心を痛ます姿を見たくなかった。大人が子供を守らないといけないのと同じような原理だった。


    二日後。星核ハンターとの約束の日だ。二人とも極度な緊張状態が続いてすでに心身諸共ヘトヘトであり、景元に至っては睡眠負債が溜まっているせいか刃の隣で歩きながら頭は船を漕いでいる。普通に危ない。銀狼から着信が来る。

    『おはよー』
    『おはよう』
    『刃が送った座標まであと十分くらいで着く。なるはやで来て』

    刃と景元はハンターの列車が止まる場所へ向かっていた。廃墟から少しだけ離れた砂漠を指定し、そこで引き上げてもらう予定だ。正直もう体力が残っていない。今白玉が来ても戦える自信がないほどには二人とも限界が来ている。座標に着いた。あと五分ほどで到着するであろう列車を待ちながら、二人は座る。景元がもう八割寝ていたので肩に寄り掛からせ、自身は白玉が来ないかを見張っていた。長い五分だった。運良く白玉が姿を表さず、列車が到着する。カフカが出てきた。

    「ハーイ刃ちゃん」
    「カフカ」
    「あら、将軍様は寝ているのかしら」

    カフカは刃が景元に肩を貸しているのがそんなに面白いのかものすごいいい笑顔で景元の頬を突いている。景元がぐずるように首を振った。

    「寝かせてやれ」
    「そうねー、さ、刃ちゃん。将軍様を連れて早く列車に乗ってちょうだい」

    カフカが銃を構える。

    「おいまさか」
    「危なかったわね刃ちゃん。白っこい子がこちらに向かっているわよ」

    後ろを振り返ると白玉はまた奇声を上げ始め、例の特大ジャンプをしながらこちらへ向かってきていた。刃は急いで景元を連れて列車に乗りこむ。後ろでバンッと銃声がすると、すぐにカフカも乗り込んできた。

    「ハーイ銀狼。もういいわよ」

    銀狼が扉を閉めて、列車は出発した。


    おまけ

    「それにしても刃ちゃんが将軍様と旅をしていると聞いた時は心配だったけど大丈夫だったかしら」
    「問題なかった」
    「刃ちゃんが将軍様に肩を貸すだなんて一体何があったのかしらね、気にならない?銀狼」
    「別に。あ、そうだ。けーげんに起きたら一緒にゲームしようって誘わないと」

    列車のラウンジで星核ハンターたちの雑談。サムが黙って横を通り過ぎる。あのあと爆睡していて全く起きない景元を全く使う機会のなかった客室のベッドで寝かせ、刃も汚れた包帯と布を取っ払って新しい包帯に変えた。銀狼はメッセージのやり取りですっかり景元に懐いたらしく一緒にゲームをしたがっているし、カフカは刃と景元の不思議な関係を愉しんでいた。銀狼は先程から客室を行ったり来たりして景元がいつ起きるか待っているらしい。後で一体どんなやり取りが行われていたのかスマホで見ようと思った。


    刃が客室に行くと、銀狼がまだ寝ている景元の頬を突いて遊んでいる。寝かせてやれと思った。だんだんカフカに似てきた銀狼に少し頭を抱えるが、どうしようもない。刃はカフカ要素がもう一人増えることを受け入れるしかないのだ。

    「やっほー刃。きたんだ」
    「一応」

    銀狼が今度は景元の髪をいじくり回しながら声をかける。

    「景元ってどんなゲームが好きだと思う?」
    「知らない」
    「そ。んー、ホラーがいいかな、アクションがいいかな」
    「...」
    「よし、ホラーにしよう。一人でやるのは怖いけど二人なら大丈夫なはず」

    翌日、銀狼の部屋から、ゲームの電子音と三人分の話し声を聞いて、サムは困惑しながら部屋の前を通り過ぎたのをカフカが見てめちゃくちゃ笑っていた。
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